54話 後味の悪い終わり
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都 カルティア魔法学園
ギンの乱入というアクシデントがあったが、その後の模擬戦は順調に進んだ。
弓技大会では一般参加した20代後半くらいの男性冒険者の人が優勝し、使用したお手製の弓矢とピザ1枚が景品として渡された。
集団演武が終わって人手も回復した頃にはハウゼン男爵夫妻とフェレアが来てくれた。
手紙の件を謝ったが、気にしないでいいと言われた。
男爵はあまり変わってないようだが、父親としてか貴族としてか、貫禄が少しついたような気がした。
チーグルも来て先日夕食をいただいたお礼をしていた。
(う~ん、こうして見ていても男爵は普通だと思うが。チーグルがビビりすぎて、妄想膨らましてるだけじゃねーのか?)
キリッとした顔立ちで優しい笑顔を浮かべながら、先ほどの集団演武で盛り上がっていた。
立ち話もなんなのでテーブルを空けて座ることにした。
すると、今度は各ギルドマスターがやってきた。
今回の学園祭ではお世話になったのでお礼を述べ、今後の協力もお願いした。
皆さんにトキの支払いで出品した3点セットを振舞ったところ反応は上々だった。
商業ギルドのマスターは思案顔になっていた。
金儲けの算段をつけているのだろう。
実はギンのあれは想定外なアクシデントだったとバラすと大ウケした。
皆が皆、演出の一部だと思っていたようだ。
そんな話をしていると、流通局局長のレクディアン伯爵が現れた。
以前と同じような仕事着で、トキも初めて会う女性を連れている。
伯爵夫人でエネモアと紹介されたその女性は朗らかなぽっちゃりマダムといった感じだ。
服装を変えれば宿屋の女将っぽいイメージ、と失礼なことを思ってしまった。
トキのことも話していたようで、会えてうれしいと言われる。
「合格報告もせずに申し訳ありませんでした」
「君ならば間違いなく合格すると思っていたのでね、必要なかったさ。しかし、このようなことをするとは予想がつかなかったがね」
人手は回復したといっても、まだまだお客さんが学園ギルドの店の前に並んでおり、その列がなくなるという気配はない。
「相変わらず君は騒ぎの渦中にいるね。もはや好んでそうしているように思える」
「これだけの大所帯になるとは私も想像していませんでした。少ない仲間と活動してもいってもいいと思っていましたから」
「だが、そうはならなかった。君が嫌がりそうな貴族との関わりもできているようだしね」
「と、言いますと?」
「つれないね、トキ。私は合格報告よりもそちらを君から聞けるものだとばかり思っていたのだが。……婚約したらしいじゃないか?公爵家のご令嬢と」
「ぶっ!……それは相手が勝手に言っているだけです。私は了承していません」
「ほう!そうかそうか。ではうちの娘はどうかな?公爵家のエレスティナ嬢ほどとはいかないが、なかなか素敵な女性になると思うんだが?」
「きょ、局長!勘弁してくださいよ。まだまだ先のことですし、そんなのをこんなところで言われたらますます面倒なことになるじゃないですか」
周りには聞かれてなかったようだ。
そうしてキョロキョロしていたら、今度はファウスタイン侯爵夫妻が見えた。
(なんか、知り合いがそろい踏みしてきたな)
「トキニア!久しいな!っと、これはレクディアン卿。失礼した」
「いえ、ファウスタイン卿。今は私的な時間ですのでお気になさらず。ところで、ファウスタイン卿はこの者と面識がおありなのですかな?」
「ええ、トキニアは私の友人の子でして、私の領地出身になるのです。レクディアン卿もトキニアをご存知で?」
「ええ、冒険者の依頼で知り合いました」
お互い初耳だ、という視線がトキに向けられる。
そういえば、故郷の話はしてもどこにあるのかは言っていなかった。
お互いにお世話になったことなどを話し、ついでにハウゼン男爵やギルドマスター達にも紹介した。
ファウスタイン侯爵はトキが離れてから2年の間に王都には来ていなかったため、その間のトキについて何も知らなかったらしい。
散々ギルドメンバーには報告・連絡・相談するよう言っていたのに、自分がこのザマでは説得力もない。
その件も含めて謝っておいた。
トキと話すときはだいぶ表情も柔らかくなったレクディアン伯爵だが、仕事や社交場では最初トキが出会った頃のように厳しい人柄のようで、こうして和やかに話す人物だとは知らなかったとハウゼン男爵とファウスタイン侯爵が驚いたように言った。
「トキニアさんの話をするようになってからですよ。最初は珍しいこともあるものだと私も思いましたわ」
妻の告げ口に止めないか、とさらに珍しく焦っていた。
三家とも今まで顔見知り程度で直接的な繋がりはなかったが、トキという存在が架け橋となった。
今後ともよろしくお付き合いください、との締め括りで今日は解散となった。
夏休みには帰郷することをファウスタイン侯爵夫妻には話しておいた。
すぐに帰るとトキの方が早く着くためまずは墓参りからとなるだろう。
再び店の手伝いに戻り、順調に販売数を伸ばしていった結果、4の鐘が鳴った頃には見事全ての料理を完売することができた。
お疲れ様とお互いを労う中、ジャクエルら商業部は売上と支出の計算を頑張っている。
日が沈む頃にはお客さんの姿も見えなくなり、学園祭終了を告げる5の鐘が鳴り響いた。
誰が言いだしたのか、無事終わったのでキャンプファイヤーをすることになった。
野外修練場の中央で炎が舞う。
売り物はなくなったが、それぞれが食べ物を持ってきて宴会が始まっていた。
学園ギルド以外の生徒も次第に集まってきて、火を囲って今日の話に花を咲かせている。
一通りの片付けを幾人かで終わらしたトキはその端っこで腰を下ろした。
(疲れたぁ。なんとか、無事終わったな)
隣に降りてきたギンの首を撫でながら一息つく。
目の前の光景を見ていると、パイオニル村の収穫祭を思い出してしまった。
火が焚かれ酒を飲む大人、料理を頬張る子供、皆が手拍子を叩き若いものが踊り、笑い合っていたそんな昔の光景。
印象深かった思い出も、最早一枚のモノクロ写真のようにしか思い出せない。
一人で座っているためか少しだけ寂寥感が募った。
ギンが首を捻ってトキの顔を覗き込む。
「大丈夫さ。お前とハクがいるもんな」
キュエエ
ひと鳴きしてギンが飛び立った。
少し泣きそうになったトキに後ろから声がかかる。
「お疲れ様でした。気を遣ってもらったのでしょうか。ふふ」
「これはこれは、エレスティナ先輩じゃないですか。お疲れ様でした」
「トキニア君?なんだか他人行儀ですけど、どうかしたんですか?」
「いえ、何も。これが普通です。では私はこれで」
「ちょ、ちょっと!そんな避けなくてもいいじゃないですか」
「引っ張らないでください。私はこれからは平穏な日々を送ることにしたんですー。むぎぎぎ」
「そうはいきませんー。すーわーりーなーさーいー」
「はぁはぁはぁ。しつこい女は嫌われるって師匠が言ってましたよ」
「乙女はしつこいくらいでいいのです。そうじゃなきゃトキニア君が他の子に迫られそうですから」
「寄ってくる子なんていませんよ。だから安心して遠くから時々チラッと見るくらいにしてください」
「昼にうちの娘はどうって言われてたじゃないですか」
「だから、お前の情報網はどうなってんだよ!?」
「噂を少し聞いただけです。それより今日の私頑張ったんですよ?何かご褒美があってもいいんじゃないですか?」
「エレスティナ先輩に差し上げれるものは今持ち合わせていませんので、ちょっと取ってきますね。ではこれでぇひゅ!?」
コートの裾を引っ張られて後ろに倒れこみ、素早い動きで態勢を作りトキを受け止める。
丁度膝枕される状態になり、エレスティナの小さな顔を見上げる格好となった。
「そんな急に膝枕をしてくれだなんて、照れちゃいます」
「おい、首がキュって締まったぞ。殺す気か?お前が無理やりしたんだろうが」
ため息をついて起き上がり、あぐらを組み、またため息をつく。
「は~ほんといい加減にしてくれよ。マジめんどくさい」
「それは……ちょっと傷つきます、ね……。めんどくさい、ですか。私……。」
「…………」
お互いに沈黙する。
それ以上なにも言わないトキを残して、エレスティナは無言で立ち上がり去っていった。
(あ~聞こえてきそうだな。非難轟々ってな。言いすぎたかもしんねーけど、正直なところそうなんだから。かわいいは正義なんて空想です)
もしエレスティナが公爵家の令嬢でなければ、どうだったか。
トキはそんな仮定の話を思い浮かべかけたが、中断した。
そんなことを考えても時間の無駄。
現実は違うのだから。
後味の悪い最後だったが、1年目の学園祭はこれで幕を閉じた。
これまでの選択の先にあるものは何だろうか。




