36話 王様と宰相
新暦1346年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
春を迎え、カルティア魔法学園が開校された。
少し前には多くの受験者が王都に押し寄せ、一層の賑わいを見せていた。
150名という定員に対して入試希望者1100名余りが来ることになり、倍率は7倍超えだったという。
トキは局長のコネを頼りに、今年の試験内容と受験者たちの実力を耳にすることができた。
内容はナルビス王国にあるクロウリア魔法学園の入試と変わらないようだ。
しかし、今年の受験者の中で突出した力を持った者が一人いたらしい。
低くともAランク並の力を発揮したらしく、カルティア王国の公爵令嬢でわずか12歳という話だ。
トキのひとつ年上らしいが、Aランクの実力がどの程度なのかわからないのでピンとこなかった。
その歳では、学生ではすごいのだろうといったくらいだ。
トキはあの一件以来からも度々カルティア―ナルビス間を行き来していた。
親書を渡すついでに長い時間話をするようにもなった。
手紙のやり取りの中でもトキの話題はあがるようだ。
というより、毎回話題という名のネタにされていた。
お互い肖像画を交換して、実物とどこが違うか聞かれるのでうんざりしたこともあった。
肖像画はその優れた容姿を見事に描かれており、お互い気に入ったようではあったのだが、何かと心配していた。
並べば絵になること間違いないのに世話のやける兄姉である。
二人とこういう関係であることであることは周囲には秘密のままにしてある。
ちなみに、肖像画の件はトキによるものではない。
正式な使者を立てたもので、二人はめでたく婚約したのだ。
結婚は来年、トキが入学したならそれからおよそ半年後のカルティア王国の建国記念日と発表された。
毎年お祭り騒ぎとなるのだが、来年はさらに盛り上がることになるだろう。
今日はセルクス王子殿下に呼び出されたため、王城に来ていた。
しかし、今日通されたのは王子殿下の私室ではなかった。
王城の奥側、後宮の手前にある部屋に案内される。
広い部屋の中央に丸いテーブルがあり、それを囲むように4つのソファーチェアがあった。
その内、3つには人が腰掛けていて、奥側に40代くらいの中肉中背の男性が煌びやかな服装で座しており、右側には奥の男性より歳をとった厳格そうな表情の細い男性が、左側にはセルクス王子殿下がそれぞれ寛いでいた。
(なんか、俺場違いなところに来たんじゃね?)
そんな思案をよそにセルクスがトキに声をかける。
「トキよ、よくきたな。こちらに来て座りなさい」
言われたとおりに失礼致しますと言って席につくとセルクスが話かけてきた。
「トキよ、ここも私室になるのでな。いつものように気楽にしてくれてかまないんだぞ?」
「恐れながら殿下、ここがどなたの私室なのか私は存じ上げません。さらに言えば、目の前のおふた方をどなたかも存じ上げない身であります故、滅多なことを口にできるものではありません」
「お主から見て我らはどう映る?」
奥側に座る男性が唐突に問いてきた。
無礼をご承知で、と返すと許す、と言われたので正直に答える。
「人を見抜き、見分け、使い、判断する、そんな経験・立場をもつ方に見えます。判断の基準は自分の中ではない別のところに置いていて、物事を客観的な視野で見ることができる人物のようです。加えて、イタズラや遊び心がおありのようで、最近ではセルクス王子殿下やアリビア王女殿下が似た瞳の輝きをしておりました。正直、またもや厄介そうな人物と出会ったものだと感じております」
あたかも内面を読み取ったように言うが、適当に憶測で答えてみた。
最後のは本音だ。
セルクスと右側の男性が吹き出して笑い、言われた男性は眉を寄せて両者を見やった。
次いで、右側の男性を見て答える。
「厳格そうな風態はそのままに一本木のあるお方とお見受けします。それが他人なのか、信念なのかはわかりませんが、心情などを何かと隠すことが上手なようです。その反面、気苦労を背負っていそうですが、自分の孫などには甘い好々爺といった表情もあるように思えます」
今度は奥の男性とセルクスが吹き出して笑ったが、右側の男性は無表情のままだった。
(正直に答えすぎたかな。まぁいいや)
「では、そんな我らは何者だと考えるか?」
「正面のお方はカルティア王国国王陛下、右側の方はカルティア王国宰相閣下、もしくは大臣、いずれにせよ国家の要人であられると思います」
「そうと理解していて、そこまで言えるお前は本当に大物だよ」
セルクスは呆れたように笑いながら言う。
トキは既に諦めの境地にいたので、それも仕方がない。
「確かにの。聞いたとおりではあったがな。そなたが考えた通り、余がカルティア王国第23代国王マルキス=カルティアである。そして、こやつがわが国の宰相を務める好々爺でイレント=バッカヌという。そう、睨むな。すまぬすまぬ」
予想はしていたが、やはり平民である自分には場違いな状況のようだ。
「そなたのことはセルクスから聞いておってな。大体のことは知っておる。今日呼んだのは顔を見ておきたかったからだ。後日になるが、そなたに依頼を頼むことになりそうでな」
国王はちらっと宰相の顔を見たが、宰相は変わらず無表情だった。
問題があれば宰相が口を挟んでいたのだろう。
「おそらく、ナルビス王国のクロウリア魔法学園とタルム女王国に新しくできた魔法学園に書状を届けてもらうことになるであろう。わが国とその二カ国は同盟関係になるのでな。魔法学園に関する情報交換といったものだ。頼むぞ」
(拒否権はないんだろうなぁ)
「拝命したしました。必ず依頼を達成いたします」
いつの間にやら流通局だけでなく国からも配達依頼がくるようになってしまった。
果たして学生になったら開放されるのか怪しくなってきたとトキは心配になっていた。




