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銀翼の飛翔  作者: fey5
第6章 学園と仲間と ―2年度―
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99話 個人戦準々決勝

新暦1348年 ガレリア大陸 アルゼン帝国南東部 コロムロ




団体戦2回戦の試合はアリジニステンAチームがヒッポフAチームに勝利したと後に聞くことになった。


ヒッポフの生徒会長ロッペンは普通の装備を身にまとって試合に臨み、初戦ほどの勢いはなかったものの他の生徒の腕も確かで有利に試合を進めていたらしい。


しかし、前衛のキョウヘイ=ショウブとトラヒコ=アサヒナが倒された時、試合開始から攻撃に参加せずに集中していたチヅル=シラスカの魔法がヒッポフを襲った。


遥か上空から巨大な氷塊が落下してきたのだ。


ライ=エンの雷魔法を上回る轟音が闘技場に鳴り響き、これによってヒッポフ側は全員戦闘不能になるという結果になった。


最初から織り込み済みだったのか、倒れた味方をも巻き込むその大規模な魔法と作戦に観客は恐怖した。


そして、傷ついた者を敵味方分け隔てなく聖属性による治癒魔法をかけるオウカ=サカノウエの姿に拍手を送った。


話を聞いたトキの反応は冷めており、あっそと一言で片付けた。




「さぁ、個人戦準々決勝が始まります。第一試合はアイシュタット=フォールセム君対トキニア=ゼペルルクス君です。会場は依然として先ほどの試合の熱が冷め切らないといった雰囲気ですね」


「そうですね。かなり強烈な印象がある試合でしたから無理もありません。この試合もきっと熱い試合となるでしょう」



コキコキと首を鳴らすトキにアイシュタットが腕を組んだまま話しかける。



「貴様、よくも勝ち残ったものだな。よっぽど相手に恵まれたのであろうな」


「……あ~お前か。え~とアインシュタインだっけか?すぐ負けると思ってたのは俺も同じだよ。まさか当たることになるとはな」


「誇り高きフォールセム大公家嫡男であるアイシュタット=フォールセムだ!下賎な輩の分際で軽々しく私の名を口にするな!」


「話しかけてきたのはお前だろう?名前を訂正しておいて名を口にするなって滅茶苦茶なこと言うな、お前」


「私をお前呼ばわりとは無礼な!無事には済まさん!」


「どうぞご勝手に。妄想だけは一丁前だな。エレスに手を出したんだ。簡単には終わらせないからな」



試合開始の合図がされ、アイシュタットは自身が得意とする火属性魔法を発動する。


発動時間、規模、威力ともにこの年齢にしてはトップレベルと言えるだろう。


高速で連射される火炎弾がトキに向かって飛来する。


その光景を見て、炎に包まれたトキを予想した者は多数を占めた。


命中して火が舞い、それをふふんと不敵に笑うアイシュタットだが、真横から声が聞こえてきた。



「ふぁああぁああ。眠たくなる攻撃だな。真面目にやってんのか?」


「なっ!!?貴様っ!?どうやって!?」


「どうやっても何も。おっそい攻撃だから余裕を持って回避しただけだよ」



闘技場で肘をついて頬をつき、横になるトキを見てアイシュタットは驚愕するとともにその態度に怒りを覚えた。


交流戦のみならず、かつてこの闘技場でこのような態度を取った者は他にいないだろう。


すぐさま今度は速度に優る火矢を飛ばす。


だが、それはトキに当たることなく空を切り、闘技場の壁に突き刺さった。



「だ~か~ら~遅すぎんだよ。まっ、てめーの実力はそんなもんか」



今度は真後ろに回り込まれていた。


シアユタットに焦りが生じ始め、振り向きざまに火球を、そして周囲に対して無差別攻撃を放ち続ける。



「はあああああああっ!」



周囲を火の海にしたアイシュタットは肩で息をしながら、トキの姿がないことを確認した。



「ふ、ふふ。くくくく……はぁぁはっはっはっはっは!」


「いや~ホントお前って面白いな。滑稽で笑えるわ」


「はっは……は?」



アイシュタットの目の前に空からトキが降りてきた。


魔法の音と自身の声で聞こえていなかったが、空に退避していたトキは一生懸命に魔法を放ち続けるアイシュタットを一人笑い続けていた。


この時になってようやく剣を抜いたトキは、剣で肩をトントン叩きながらアイシュタットをニヤニヤと笑っていた。



「実力が中途半端にあるからって天狗になるやつが多すぎ。まっ、Aランクくらいはありそうだしわからんでもない、か。でもな、Aランク(お前)SSランク()に勝てるはずがないだろ?」


「うっ……う、うおおおお!」


「遅い」


シュイン



右手を伸ばし、魔法を発動しようとしたアイシュタットにトキがついに攻撃を仕掛けた。


右剣を一閃。


瞬時にしてトキの立ち位置はアイシュタットの背後へと変わった。


下から斬り上げた斬撃によってアイシュタットの右腕がクルクルと宙に舞う。



「ああがぁああああああ!」


「エレスに触ったのは右手だったよな?手癖の悪いやつにはお仕置きだ」



腕を押さえて転げまわるアイシュタットにトキは冷ややかな視線を送る。


幾多の試合で見られてきた多くの怪我は治癒魔法によって回復可能であったが、回復不可能である四肢の損失という状況は初めてだったため、会場中から悲鳴が聞こえてきていた。


試合続行不可能と判断した審判の仲裁により、試合はトキの勝利が決定した。


すぐにその場で止血を施されるアイシュタットは呂律が回らないままトキに唾を吐きながら怒鳴る。



「きしゃまぁ!許しゃん!絶対殺してやりゅ!殺す!こぉろすぅ!」


「まだまだ元気だな。次は腕だけじゃ済まさんぞ」



そう言ってトキは会場から退場する。


控え室に戻るまで、後ろからはアイシュタットの怒声がずっと聞こえていた。


控え室に入ると秋宮伊吹と視線が合った。


彼女は何かを言いかけて止め、席に座ったまま再び俯いてしまった。


(この調子じゃ、次に当たるのは順当にライ=エンかな)



トキの予想は的中し、精細を欠いた秋宮伊吹はあっさりと雷魔法によって敗北を喫した。



「まるで試合に集中してない感じだったね。試合中に考え事してたみたいだ」


「距離を置いてぼさっとしてるなんて当ててくださいって言ってるもんじゃない。どういうつもりかしら?」



チーグルとユユの言に、さぁなと他人事として片付けるトキ。


彼女らに対する興味は最早失っていた。



「次はケオランだね。大丈夫かな?」


「ケリーも馬鹿じゃないわ。彼女みたいなことはしないでしょう」


「あいつにとっては難敵ではあるだろうな。でも、ラッキーボーイだからわからんさ」



とは言うものの、正直勝ちの見込みは薄いと思っていた。


相手の火力はアイシュタット以上だ。


弾幕を張られては自分の戦いをすることもできないだろう。


どうやって戦うか見ものである。



「アイシュタット君は命に別状はないようです。少し冷やっとしましたね」


「もう少しいい試合になると思っていましたが、ゼペルルクス君はやはり一人だけ数段上の実力がありますね」


「そのようですね。次に彼と戦うのはライ=エン君となりましたが、どう見ますか?」


「いずれにしろ長期戦はないでしょう。両者の実力から言って決着は短期決戦となるでしょうね」


「なるほど。さぁCブロックの頂上決戦、準決勝第三試合が始まります。火魔法の使い手、グレン=ホオツキ君対ケオラン=マッキス君の対戦です」



二人共気負った雰囲気はなく、落ち着いた様子だ。


ケオランは槍の感触を確かめるように、その場で演舞のような素振りをしている。


そして、ブンと振り落として構えを取った。


試合開始の合図が告げられる。


突撃するかと思っていたケオランはその場を動かず、構えたままだった。


グレン=ホオツキはそれを見て魔法の発動に集中する。



「おいおい、ケオランのやつどういうつもりだ?」


「あれは相手の距離だよね?どうしたんだろ」


「ケリー……あれをするつもりね」


「ん?ユユ、あれってなんだ?」


「見てればわかるわ」



ユユの言うとおり、見ているとケオランに変化が見られた。


ケオランの穂先が赤くなり、次第に焔が迸り始めた。



「見るからにあの槍熱くなってそうだけど、持ってて平気なのか?」


「平気じゃないわ。熱してるのは穂先だけど、槍全体も高温になってしまってジョーさんに作ってもらった特性の手袋をしててもなお火傷するくらいよ。実際に何度も手の皮が剥けていたわ」


「うへぇ。で、そんな槍を熱くしてどうするんだ?」



ユユはそれ以上何も言わないが、見ていればわかると再度言っているように試合を見つめていた。


すると、穂先の焔が何か形作り始めた。



「……竜?」



誰かがそう呟いた。


確かにそれは火でできた竜の頭に酷似している。


極度に集中するケオランが狙いを定めたかのように相手目掛けて中段突きを放った。



「ふんっ!!」



するとボッと音が鳴り、穂先から火の竜が飛び出した。


『火槍 竜牙』


それは入学時に見せてもらったものとは比較にならないほどの速度で、真っ直ぐに相手を貫く竜の顎。


ケオランが遠距離攻撃として密かに鍛え上げた魔法であった。


(速いっ!)


グレン=ホオツキは躱せないと瞬時に思った。


だが、次の瞬間――


ドドドドドドドォン


ケオランの放った火竜は連続した爆発によって収束していき、ついには消えてしまった。


グレン=ホオツキがメガネをくいっと持ち上げながら口を開く。



「随分と集中している様子だったので、念のため魔法を発動していて助かりました。そうでなければ僕の負け、だったかもしれませんね」



初手必殺として放ったケオランは内心で舌打ちをしていた。


相手は目に見えぬ防御魔法を発動していたようだ。


(あれは……やっていることは俺の風の囁き(ウインドウィスパー)に似てるか。だが、役割は感知ではなく防御、つまりは結界みたいなもんか。それも……)


ケオランが再度火竜を放つ。


だが、最初と同じ結果に終わった。


(やっぱり間違いない。あいつは……)



「どうやら、これ以上攻撃力のある魔法はないようですね。次は僕の番です」



グレン=ホオツキはそう言って手を前に出した。


見たところ変わった様子はないのだが、トキは突如立ち上がり叫んだ。



「ケオラン!逃げろ!」



周囲の人間が驚くが、次の瞬間、ケオランがいくつもの爆発に包まれてしまった。



「ケリー!!」



ユユが立ち上がって叫ぶ。


爆発が収まると倒れて全身から煙をあげるケオランが見えてきた。


審判がグレン=ホオツキの勝利を告げ、急ぎ救護班を要請する。


(致命傷にはならない規模の爆発の連続……。あの野郎っ!)


ケオランは担架で運ばれ、気づくとユユもいなくなっていた。


心配して駆け出したようだ。


トキもチーグルと一緒に後を追った。


救護室の前に行くと、ユユがその前で立ったまま祈っていた。


火傷がひどく、治癒魔法をかけている最中のため部屋には入れないそうだ。


トキの感情は高ぶっていた。


(許さない!俺の仲間に手を出すやつは誰であろうと!)


試合の結果だとしてもトキには許せなかった。


自分の大切な人に対して、トキは異常とも言える過敏な反応を示す。


それは過去の出来事がトキを縛っている結果でもあった。


激昂するトキにチーグルが恐る恐る控え室に行かなくてはならないんじゃないかと言葉をかけた。


長く深い深呼吸をしてトキはケオランを頼むと一言述べてその場を離れた。


(腕一本じゃ済まさん!ダルマにして首を刎ねてやる!)


トキの怒りの矛先は次の対戦相手、ライ=エンへと向かうことになる。

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