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第四章

久々の投稿ですよ~。

今回は今までに比べると若干長めです。

パソだと相変わらず短いですが。

でも各話さっくり読めるのが売りなので、

別にいーや。

 “上手い狩人”は技術に関してだけ言うものではない。いかに技術が高かろうと、本人が周囲から丸分かりでは意味が無い。己の存在をどれだけ隠せるか、どれだけ風景に溶け込めるかが重要なのである。獲物を狩る技術と、自身の存在感ないし気配を消す能力。その2つがあれば軍配は自分に上がる。逆に相手がそれらを持ち合わせていれば、そのかいなから逃れるのは至難の業となるであろう。それは例えるなら、タカとネズミほどの差があるだろうか。


 深い森の中を1匹のネズミ―――ベデットという手負いの老ネズミが走っていた。彼の左肩は大きく、骨が見えるほどに削がれ、右手の指も何本か無くなっている。そんな状態でも痛みが感じられないくらい、彼は焦っていた。その後方を複数の何かが追っている。一応四足歩行してはいるが、手が器用なようで木の上を移動しながら追うものもいた。

 どれほど走っただろう。気合だけで進む彼の前方に明かりが見えた。何も考えられぬまま駆け寄り、扉を叩きまくる。助けを求め、必死に。



 ドンドンドンドンドン…………

激しく扉を叩く音に、バートは飛び起きた。反射的に周囲を見回す。

「誰だ?こんな時間に…」

自衛用に持ち歩いているグロック17自動拳銃を抜き、遊底スライドを引いて薬室チェンバーに初弾を送り込む。銃口を下に向けて両手で持ち、体勢を低くして玄関へ素早く移動した。相変わらず音は止まない。止んだら止んだで逆に怖いが。鍵と閂を解除しつつ、声を掛ける。

「どちら様で?」

返ってきたのは悲鳴混じりの叫び。

「私だ!ベデットだ!!助けてくれ!!」

バートは無言で扉を内側に開いた。と同時に血塗ちまみれのベデットが転がり込んできた。そして更にその後ろから、何やら人型のモノが……

パンッ

問答無用で放たれた弾丸はソレの腹部に当たった。はずなのだが……

「んな!?」

撥ね返ったのだ。弾は跳弾となり、すぐ横の壁にめり込む。敵は怯みもせずに突っ込んできた。勢いで押し負け、後ろに吹っ飛ばされる。

「ぐっ……」

後転して起き上がるとそこには、1体の異形が腰を落とした突撃体勢をとって立っていた。それはまるで、人間と爬虫類を掛け合わせたような姿だった。基本的にヒトの形をしているが、体には体毛の類が見当たらず、その代わりのように全身を土気色のウロコが覆っている。手足の指には鋭い爪。顔には薄い鼻梁と蛇のような口。切れ長の眼の奥で、細い瞳が光る。本来耳があるべき場所には小さな穴が開いていた。蛇で言うところのピットだろうか。

「お前は……!」

9年前の記憶が一気に脳裏によみがえってきた。間違いない。故郷を襲った化け物と同じ姿をしている。

「よくもっ!」

叫び、続けざまに引き金を絞る。けれど、いくら撃っても怯みもしない。どの箇所に当たっても弾き返されるのである。

 その内、弾が切れた。敵は笑うかのように口元を歪め、跳び掛かってきた。万事休すかと思ったその時、

バァ――ン!!

という物凄い音が後ろから聞こえ、熱い物体が左耳を掠めた。突き飛ばされたような衝撃によって、床に崩れ落ちる。顔を上げると、敵が仰向けに倒れていた。

「大丈夫か!?」

サムだった。近寄ってくるなり、バートの腕を掴んで引っ張り起こす。彼の右手にはS&WのM617より大きい回転式拳銃が握られていた。

「レッドホーク、持ってきたのか……」

「助けられた第一声がそれかよ。手入れしようと思ってさ、これ」

拳銃を示しながら、そう言う。

「とりあえず扉閉めよう。まだ外にいるっぽいから」

「だな」

言い終えた直後、地に伏していた敵が外に引きずり出された。扉の向こうに2体ほどがこちらの様子を伺っているのが見える。サムがレッドホークの撃鉄を起こして構えると、2つの顔は死角に消えた。2人は顔を見合わせ、バートがそろりそろりと近づいて扉を閉めて施錠するのを、サムが見守る形になった。



 「で、どうするよ?」

食パンにバタークリームをこってりと乗せたものをガツガツと頬張りながら、サムが誰にと言うでもなく言った。

「専門家の御意見を伺おう。教授の御意見を拝聴したいのですが」

バートは慇懃無礼にベデットに話を振る。

「…………」

ベデットは身を震わせて閉口していた。応急処置した怪我を見、サムを無視してバートに目を向け、おずおずと口を開いた。

「私には……分からない。J-cysは完全無欠にして最強最悪の生体兵器だ。軍隊でも呼べばよかろう」

「無理だ。先程確認したが、回線を切断されたらしく固定電話が使えない。携帯電話も最低600メートルは移動しないと圏外になる」

「んだな」

携帯電話のフリップを開いたサムも頷く。

「では、どうすれば…」

身を竦ませるベデットを見据え、バートは高らかに宣言する。

「戦おう。幸いにも食料は山のようにある。あと3ヶ月は篭城可能だ」

「大賛成」

「というわけで、教授は地階の客室で安静にして下さい」

言いながら客室まで連れて行き、中に押し込む。弱々しい抗議の声を完全に無視して居間に戻った。

「さて、何か言うことはあるかねサム君?」

「お前は議長か」

「では真面目に……胸中を吐き出してみ?」

ソファーに腰かけたバートに促され、サムはゆっくりと口を開く。

「外の奴ら、故郷で見た奴と同じ見た目をしてた。あれが……教授の言うJ-cysなのか……?」

「おそらく」

「さっき弾撥ね返してたよな……?」

「ああ。9ミリの+P弾が全く効かない。外殻のなんと堅いことよ」

「俺のレッドホークならいけるけど弾数が……」

「.44マグナム弾をどっさり持ってくるアホもいないから仕方ないわな。まぁでも、一応狩猟用の散弾銃を備えてあるからどうにかなるさ」

「いやでも散弾が効くと思う?」

「スラッグ弾(散弾ではなく単発の、大型動物猟用の弾)が残ってるはずだから、そっち使おう」

「おう」

数秒の沈黙の後、バートが思い出したように言った。

「そういや今何時だ?」

「AM2:40。やっぱりどっちかは起きてないとってことで俺は寝るわ」

「急な展開に目眩がするよ。俺を更に不規則夜間生活者にする気か貴様は」

「寝る子は育つと言うじゃないか」

「30手前の大人のどこがどう育つんだ?」

素早く姿を消すサムに混ぜ返し、バートはちらりと窓を見て銃を向けた。こちらを凝視していたJ-cysは己へ向けられた銃口を見て、サムもかくやという速さで闇に引っ込む。ため息をつき、窓枠の上部の突起に指を掛け、下に引く。この家の窓にはどれも強化ガラスがはめられており、鉄板を降ろすこともできるように改造されているのだ。実際、このあたりは大型の野生動物が多く、強化ガラスとはいえ破られたことは一度や二度ではない。表のJ-cysがその機に乗じて侵入してくると非常に厄介なことになる、と考えてのことだった。



 「これで助かる……。こんな沈みかけの船からはさっさと脱出するに限る」

こっそりと部屋を抜け出たベデットはサムが乗ってきたワゴン車に乗り込む。そして燃料計に視線を移し、目を見張った。

「残量ゼロ……だと……?なんという杜撰な男だ……」

慌てて車外に出、ガソリンを探す。と、

ヒタヒタヒタ……

心理的に不安になる足音が聞こえ振り返ると、中腰の人型の何かがいた。

「ば、バーソロミュー君かな?そそそそれともリーチ君か…な…」

一瞬だった。ほとんど予備動作なしで飛び掛かられ、片手で首を絞められたのだ。隻腕にしては信じられないような怪力で、ベデットの意識は早くも飛びそうになる。必死に腹を蹴るも全く効いてるようには見えない。霞みゆく視界の端に非常用の消火斧が映った。とっさにそちらに腕を突き出し、薄いプラスチックを破って柄を握り締める。なぜか一切反応しないJ-cysの頭に渾身の力で斧を振り下ろした。が、

ガアアァァァァン

ほぼ垂直に叩き付けられたはずの刃はいとも簡単に砕け散った。そしてそれが彼の最期の抵抗になった。

 「おいちょっと待ってぇぇぇ!?」

杜撰な男の声は遠く聞こえた。遅すぎる……。そう思いながら、意識は失われた。



 遡ること10分前。

 「あ、バート?今どこ? っと」

『ピク○チャットがこんな形で役立つとは思わなんだ。日本のゲーム会社に感謝しなきゃな。……今、自室』

「今さっき車庫の方から不審な物音が聞こえたんだけど? っと送信」

『知らん。パ○テラのライブ放送の撮り溜めヘッドホン装着で見てたから、大音量で』

「お前好きだよな、そっち系。ってか、ホントにヤバい感じなんだケド? 送信」

数分待って音沙汰ないので直接行ってみることにした。レッドホーク片手に部屋を出る。

 地階に下りると客室のドアが半開きになっているのが目に留まった。いわずもがな、ベデットを放置した部屋である。小さく舌打ちし、中を覗き込んだが誰もいない。ベッドの上に灰色の小箱が乗っかっているのが見えるが……

「うん、無視しよう。マズいフラグが立つかもしれないし」

 次に居間に顔を出し、ため息混じりに問題の車庫に向かう。

「なんかイヤ~な空気が濃密に漂ってるんだが……っと、何か聞こえる……?」

そっと近づきドアを開くと、自分の車の真上に開けられている穴が目に飛び込んできた。そして車を挟んだ反対側からプラスチックが割れる音、いで金属が砕ける音が響く。

 「おいちょっと待ってぇぇぇ!?」

ベデットを片手で吊るし上げている人影を目にした瞬間、そんな声が出た。ソレはこちらの姿を認めると、ベデットを手放し中腰になった。突撃体勢。頭で考えるより早く反射的に横に跳んでいた。ギリギリ突進をかわす。ソレが対象物を見失い壁に突っ込むのを尻目に、入ってきたドアの内側に慌てて滑り込んだ。急いでドアを閉め、内鍵を掛ける。ベデットの生死はどうでもいいとしても、反撃するとかそういう考えは全く起きなかった。恐怖に完全に呑まれていた。肩で息をしながら、とりあえず近くの棚や什器をドアの前に積み、即席のバリケードを張っておく。

「知らせないと……!」

バートの元へ走り出す。が、何かに足を掬われ、空中で一回転する形で床に叩きつけられた。

「ぐっ……」

後頭部をしたたかに打ち、急速に視界が暗くなる。体に力が入らず、声も出せない。すぐに意識が闇に堕ちていった。

次回予告:バートの男泣き

     サムはどうなるのかっ?

     教授は……どうでもいいや

 の3本でお送りいたします。(嘘   

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