第三章
「どっせぇーいっ!」
操作者の気合と共に、画面内の警官風の男が襲い来る腐った犬を蹴り飛ばす。が、その後ろから飛び出してきた皮膚の赤黒い異様な風貌の人型によって首を刈り取られ、あえなく死亡した。
「これ、無理だろ………」
サムはコントローラーを握ったまま、「You Are Dead」と表示されている画面を呆然と見て呟いた。
「いや、可能だ」
その横で寝転がって観戦していたバートが軽く言う。机に置いてあるディスクケースの外側には「自作版生物災害・弐」と書かれた(もちろん英語でだよ?日本語じゃないよ)ラベルシートが張られていた。これは、某サバイバルホラーゲームを参考にバートが己の技能とパソコンを限界まで駆使して創り出したビデオゲームソフト「自作版生物災害」シリーズの第二弾である。立ち塞がる敵を蹴散らしつつ町の外へ脱出を計る、というありがちな内容だが、マップが存外に広い上にクリーチャーの種類が豊富でかつ個体数が異様に多い為、根本的に高難易度なのだ。それに比例して武器弾薬は山のように入手でき、キャラは体術でも戦うことができる。しかしそれでも滅茶苦茶難しいことに変わりはなく、サムは1時間で既に15、6回は死んでいる。
「なんでイージーでこんなムズいんだよ!?」
「お前が下手なんだよ。第一弾の時もクリアに半年もかかったろ?前回は寝落ちで終わったが、今回はそうはいかん……終わるまでリアルで寝かさんからな」
「聞きようによってはアダルトなセリフですね、バックにバラの花が浮かぶ系の」
「やめんかキモいわ…ってかホラ、続けて」
「はいはい」
再挑戦するも、開始直後に歩く死者の群れに圧殺される。
「んじゃあ今夜は1ステージ突破するまで寝ないってことで。そこを最低ラインにしよう」
「それつまりどこまでだ?」
「敵100体以上撃破後に警察署エントランスに入れば1ステージ終了。そこでセーブできる」
「そこまでハンドガンとナイフでいけと?」
「リアルだろ?」
「追求しすぎだっての!」
「いやいや現実的に考えてみろよ。武装してるだけありがたいじゃないか」
「武装少ないよ……てかこのハンドガン、弾が出ないことあるぞ!?」
「仕様。100分の1の確率で発射不良が起きる。おまけに言っとくと、排莢不良もたまにあるから」
「お前な……」
サムの恨めしそうな顔に冷たい微笑を返し、バートは立ち上がってドアの方へ歩いて行った。
「どこ行くん?」
「お仕事。ま、頑張んな~」
「うるせー!」
怒号を聞き流し、部屋を出た。サムが持ってきた箱を小脇に抱えている。向かうは、居間。から伸びる通路の先の小部屋である。この部屋はバートが趣味と実益とを兼ねた仕事をする為だけに造られた。
仕事机に箱の中身を適当に広げ、椅子に腰を下ろす。
「あれこれやってる内にもう25時か」
呟き、作業に取り掛かった。
バタン、タン、タン、タン、タタタン、タン、タン、ガチャ
「ノックしろよ」
「ごめんねー。ハンドローディングの真っ最中ですか」
射撃後に必ず残る(最近はそうでもないけど)空薬莢に雷管・発射薬・弾頭を詰め直すことをリローディングと言い、また自分で簡単な工具を用いて手作業でこの作業をすることをハンドローディングという。
「ああ、弾薬代がかさむからな」
実際、『ライフル実包の値段の半分は薬莢代』と言われている。
「なんか食べるもの無い?」
「なんやかんやで晩飯抜いたっけか。う~ん、冷蔵庫の中のもの好きに食ってくれ」
「はいよ」
サムがキッチンへ消えるのを見届け、作業再開する。ちなみにこの男が製作しているのは強装弾―――薬莢の寸法をそのままに、火薬量を増やしたり、より強力な火薬を使ったりして威力を上げた実包―――である。これは一歩間違えると、射撃時に銃身を破壊する結果を招く。それ故、合衆国の業界による研究所「SAAMI」の規格で、「安全範囲」を定めている。俗にその規格内のものを+P弾、規格外のものをホットロード(またはオーバーロード)=カートリッジという。バートは一応は規格内―――今回に限って言えば通常の110%の+P弾―――を、暇でかつ気の向いた時or依頼を受けて造る。
普段は正真正銘の引きこもりだが、仕事(半分くらい趣味)はキチっとやる人間なのだった。
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炎上する家屋、地に伏す人々、そして土気色の怪物たち。両親の部屋からはそれしか見えなかった。いかんせん窓が小さいのだが、外には本当にそれしか無いのではないか。そう直感的に思った。両親は教会にいるという本人たちからのメッセージ。それを見つけ、恐怖に震えながらも適当に荷物をまとめ、戸口の前で友を待つ。少しして、待ち侘びた友が飛び込んできた。顔面蒼白で。「逃げよう!」彼はそう言って、有無を言わさず腕を掴む。「な、何が起きてるの?それに親が教会にっ」「だめだ!!」こちらの言葉を遮って彼は怒鳴った。そのまま腕を引き、森の方へと走り出した。
逃げて逃げて、町から2キロメートルほど離れた森の空き地で、2人はようやく立ち止まる。「ねぇ、ボクたちどうなるの?」彼は答えない。「み、みんな、まだ町にいるんだよね…?ボクたちだけこんなトコに…」叫び出したい衝動を押さえつけ、なるべく冷静に話そうとした。「ねぇ、」「俺たちは死なない……死ぬわけにはいかない」〝死〟という語を聞き、絶望的な恐怖で涙が零れる。声が出ない。震えが止まらず、思考が止まった。「大丈夫、大丈夫だ。とりあえずは俺がお前を守るよ」彼は静かな、しかし強い声で告げ、肩を抱いてくる。途端に、泣き声が漏れた。肩に顔を埋め、むせび泣いた。長い時間、ずっと、ずっと。
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缶が落ちる音でサムは目を覚ました。意外と広いダイニングキッチンでうたた寝していたのだ。時刻は午前2時10分。身を起こすと、背に掛けられた毛布がハラリと床に落ちる。
「バートにゃ、助けられてばっかだな。昔からずっと」
毛布を拾い上げ、しみじみと呟いた。
「さて、と。ゲームの続きやりますか。……ん?」
何気なく目を向けた窓の向こうで何かが動いた気がした。
「何だ……?」
ゆっくりと窓辺に近寄り、外の闇に目を凝らす。
「気のせいか……」
身を引き、ダイニングを後にする。だが警戒を怠らず、S&Wの拳銃を抜き、弾の装填状態と撃鉄の位置を確認した。暴発しないように1発少なく装填されている弾薬と、ハーフコック―――倒れている撃鉄を少しだけ起こして指を離すと、そこで撃鉄が止まる。その状態では引き金を引いても撃鉄は動かない。撃つためには、改めて撃鉄をいっぱいに起こす(=フルコックする)必要がある―――にしてある撃鉄を見、拳銃をベルトに挟み込んだ。そして居間のソファーで泥のように寝ているバートに毛布を被せ、階段を音も無く駆け上がっていった。
バートはNです。サムはG(ry
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