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第二章

 2004年6月30日

 黒い中型のワゴン車が、かろうじて地ならしされている程度の砂利道をノンビリと走っていた。長めの金髪をオールバックにした20代後半の男が、くわえタバコで運転している。助手席にはギターケース。

 唐突に、合衆国の国歌が鳴り響く。男は上着のポケットから携帯電話を取り出し、耳に押し当てた。

「はい…お前か…ああ、分かってる……えっ?ああ、今…」

一瞬カーナビに視線を落とす。

「後5、6分で着く。土産持ってきたよ。…例のモノ?持ってきた持ってきた。相変わらず心配性だねぇ……はいはい、もう分かったから切るよ」

携帯電話をポケットに戻し、森の一本道を抜け、草原に囲まれた道を走る。既に太陽の下半分は沈んでおり、西の空が茜色に染まっていた。


 5分後。ワゴン車は速度を落とし、優に大型車3台が駐車できるくらいに巨大な車庫の右端に停まった。運転席の男はエンジンを切ると、ギターケースと黒っぽいザックを手に車から降りた。車庫から出て、両開きの扉を軽く叩く。

「どちら様で?」

「開けてくれ、サムだ」

サムが答えると、カチャカチャという金属音の後、扉が開いた。そこに立っていたのは、疲れた顔をした男だった。背丈は185センチ程で、黒髪を刈り込んでいる。彼もまたサムと同じく20代後半だ。

「来たか」

「久し振り、バート」

「元気そうで何よりだ」

「バートは疲れてるみたいだね、大丈夫?」

「どうにか。ま、とりあえず上がってくれ」

「じゃ、遠慮無く」

サムが居間に行くのを見、バートは扉を閉め、二重に施錠した。そして上下2本のかんぬきを掛けた上に、南京錠を掛けて居間に向かう。

「バート、これ土産」

そう言ってサムはザックに入っていた焦げ茶色の木箱と、銀白色の金属製の箱を投げ渡した。

「金属のほうは割りとどうでもいいけど、もう一方のは丁寧に扱ったほうがいいよ」

「投げといてよく言うな」

バートは苦笑しつつ、手近なテーブルに2つの箱を置き、フタを取った。木箱の中は3つに仕切られており、薬莢と弾頭と雷管が詰まっている。金属箱のほうは種類毎に小分けに袋詰めされた大量の銃火薬ガンパウダーが入っていた。

「既製品で良かったんだが?」

「せっかくガンスミスの資格取ったんだから横着するなっての。なまるよ?」

「面倒なんだぞ、意外と。まあいいけど。…時にサム」

「ん?」

「実は今夜はもう一人客が来るんだ」

「んなら俺は2階に引っ込んでるよ」

「いや、ここにいてくれ。それと、武器を手放すな」

意味深長な言葉を聞いて、サムは目を吊り上げる。

「そういった手合いの客なん?」

「察してくれ。7、8時には来る。一応念の為だから、これ見よがしに持つな」

「了解した」


 数時間後

「遅い、遅過ぎる」

「もう11時近いぜ。来なかった方が悪いってことで、諦めて寝ない?」

「う~ん、そうするか……」

2人が階上に行こうと立ち上がったその時、トントンというノックの音がした。

「おいでなすったか」

「えらく遅いお着きで」

2人共皮肉気に呟きながら、玄関へ向かう。鍵等を外し扉を開けると、黒いスーツケースを提げた中肉中背の老人に片足踏み込んだ外見の男が立っていた。

「こんばんは、遅かったですね」

「うむ。車のタイヤが途中でパンクしてしまい、歩いてきたのでな」

「そうスか」

壁に寄り掛かったサムがボソっと言うのを聞き、男はサムをギロリと睨む。

「誰だね?」

「彼は僕の友達でして……」

「バーソロミュー君は黙っておれ。そこの君に尋ねておる」

「…サミュエル=リーチ」

サムは腕組みして、不機嫌そうに答えた。そして男が二の句を継げぬ内に続けて言った。

「あんたは?」

「私は生物学者のベデット教授だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

「知らないね」

「ほう。よっぽど育ちが悪いとみえる」

「とにかく上がって下さい。話は中で。サム、居間の箱を僕の部屋に運んどいてくれ。頼む」

後の展開を危惧したバートはそんな消化弾を撃ち、2人を一旦引き離すことに成功した。当然、一時的でしかないが。

 「(なんだろう、この気まずい空気は)」

肘掛け椅子で踏ん反り返っているベデットと、バートの横でベデットと向き合うように座っているサム。互いに警戒し合っているのが丸分かりだ。

「えーとりあえず今夜の御用件をお伺いしたいのですが」

「俺も聞きたいねぇ。大先生のお話を」

「(サム、後生だから波風立てないでくれ)」

心の声は本人には伝わらない。ベデットは空咳の後、問い掛けた。

「君たちは『J-cys(ジェイシス)』を知っているね?」

バートとサムは揃って固まった。

「無言は肯定ということかな?まぁ、知らないはずがないけどね」

2人は沈黙している。

「J-cysは記録上最強の生物兵器であり、各国の生物学者が血眼になってサンプルを探している。彼らは高い知能と超絶的な生命力を持ち、身体能力もオリンピック選手並みに高い。私も彼らを追い続けてきた者の一人だ。そして5日前、幸運にも私は某軍事資料を入手した。それによれば、1995年7月13日にJ-cysの試作型20体を乗せた大型輸送ヘリがノースカロライナ州からミズーリ州の研究施設へ向かう途中、何らかの原因で墜落したという。場所はテネシー州のウェルズという小さな集落、つまり君たちの生まれ故郷だ」

バートは熱演するベデットに若干引きながらも、彼が何を求めているのかなんとなく分かってきていた。サムはというと、殺気立った目でベデットを睨んでいたが、やがて口を開いた。

「要するにあんたは奴らのことを俺らに話せと言いたいんだろ?実体験してる俺らに」

「君がいるのは予期していなかったが、まぁそういうことだ。誰々がどうなったというのは正直どうでもいい。J-cysのことを聞かせて欲しい」

「断る」

サムは鋭く言い放った。

「君たちがあの数日間に地獄を見たのはこちらも理解している。しかし」

「帰れ」

更に言い募ろうとするベデットに、サムは念の為隠し持っておいた護身用拳銃を向け、そう冷たく言った。ベデットはバートを見て何か言いかけたが、バートはそれを無視して言った。

「お引き取り下さい。僕らはもう関わりたくないんです。J-cysについて話すべきことはひとつだけです。決して関わってはいけない、ということだけ。それ以上は、ご容赦下さい」

釣り上げた魚に逃げられたような表情になっているベデットの背中に銃口を押し付け、サムは彼を玄関まで誘導した。バートが施錠を解いて扉を開けるのを見計らって、ベデットを夜闇に放り出す。

「待ちなさい!こんな夜更けに老人を野外に放置するのか、君たちは!?」

「確かに老人は敬うべきだが老害は死ねばいい。そして野外放置プレイの趣味は俺らには無い。帰れ。もう来んな」

サムの殺意に満ちた言葉と不気味な存在感のある銃口に気押され、ベデットは悪態をつきながら歩いて行った。バートは無言で扉を閉め、施錠し、サムを伴って居間に戻った。

「ったく、迷惑な奴だったよ……」

ソファーに寝転がったサムが呻く。拳銃は無造作にテーブルに置いている。

「あまり古傷を弄らないでほしかったんだが…」

「弄るどころか塩塗りこまれたような気がするけどね。ってか、俺がいて良かったね?」

「ああ、そうだな」

「バートだけなら押し切られてたよね?」

「だろうな。正直さっきの敵意丸出しのお前が普段とキャラ違い過ぎて怖かったですはい」

「感謝せよ」

「五体投地するわ」

「冷やし土下座で」

「勘弁して下さい……それはそうと」

「うん?」

「お前はまた、マイナーなの仕入れたんだな」

「何が?」

顔を上げて聞き返すサムに、テーブルの上の拳銃を指し示す。

「S&W(スミス アンド ウェッソン)のM167か。俺ガンマニアだけど初めて実物見たわ。使い勝手は?」

「護身用としては申し分無いよ」

「他に何か無いのか?」

「あるよ。車内に置きっぱだけど」

「どんなん?」

「我が国最強のリボルバー、スタームルガー・スーパーレッドホークアラスカン.44マグナム弾ver.だ!」

「.480ルガー弾仕様の方が強いはずだが…実用的じゃないからか?」

微妙にテンションが上がっていたサムはその言葉に動きを止めた。

「近所の銃砲店でタッチの差で買い損ねたんだよ……」

「それにまぁ実際米国最強はS&WのM500だしな」

「予想外に高くて買えなかったんだよ……言わんといて…」

死んだ目をしたサムを見やり、バートはクックッと含み笑いを漏らした。

「悪い悪い。んじゃ、階上うえ行こうか」

「はぐらかされたような気がするんですが」

「いいからいいから」

バートは笑顔でサムの背を押し、2階へ上がって行った。そのまま寝室に押し込み、穏やかに声を掛ける。

「それじゃ、恒例のお楽しみといきますか」

サムがベッドに身を預けて微苦笑を浮かべたのに呼応して、バートも上着を脱ぎ悪戯っぽい微笑を浮かべる。そして言った。

「前は頑張り過ぎてふたりとも疲労で意識失ったからな、今回はそうはいかんよ」

そして頭上の蛍光灯が消え、残る明りはひとつだけになった。

※ウチの主人公は某悪魔の実の能力者とは何の関係もありません。

  そして彼の友人は某ウィンチェスター君とは(ry


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