占いじみた利用者さん
二週間後に挙式を控えたこのタイミングで大事な結婚指輪をどこかに無くしてしまう沙絵。
しかも、挙式までに休みは四日間しかない。
◯登場人物
沙絵 46歳
訪問介護の仕事をしている。
凰太 43歳
沙絵の彼氏 家電量販店で販売の仕事をしている
千沙 18歳
沙絵の娘 保育の専門学校に通う。
おーくんとの電話を切ったあと、私は朝イチの見守り&ゴミ大量掃除の利用者さんのお宅に向かう。
このお婆ちゃんは足が悪くて杖をついて移動するんだけど、会話は全然問題なく出来るんだよね。
ただ、十年以上も前に亡くなった旦那さんを今でも想っているのか、旦那さんが今でもいるかのように振る舞う時がある。やっぱりずっと連れ添ってきた旦那さんが亡くなったら悲しいよね……
「おはよ〜、来たよ〜」
「おはようございます、最近寒くなってきたねぇ……」
私が訪問すると、いつも玄関まで出迎えてくれる。
「わざわざ出迎えんでもいいよ〜、ゆっくりしとってね。朝のお薬飲もうね」
一応この利用者さんの支援のメインは服薬の見守りとなる。まぁでもほとんどゴミ掃除なんだけど。
パパっとお薬を飲んでもらって、そのあとは部屋中に散らかっているゴミ、生ゴミを優先的に片付けて、冷蔵庫の中にたまに潜んでいる危ない食材を片付けて、そして、袋にまとめてゴミ置き場に出しにいくんだ。
「ねぇ、ひとつ聞きたいんだけどね。私、最近大事な指輪を無くしちゃったんだよね……色々心当たりのある場所を探してるんだけど、全然見つからなくて。どうしたらいいと思う〜?」
私は作業をしながらダメ元で聞いてみた。
「ん〜、あなたの大事なものは、きっと近くにあると思うわよ」
「えっ!? 近くって、ホント??」
意外とハッキリ答えてくれたから、私は逆にびっくりした。
「ええ。大事なものってたくさんたくさん探すんだけど、結局は意外と近くにあることが多いんですよ」
なんかのコトワザだろうか。
「あははー、そ、そうやんね。ありがとね、身近にあるところを探してみるね」
もぉ〜、テキトーなことばっかり言ってるんじゃないの!? まぁ、藁にもすがる思いだから、この意見もありがたく頂いておこう。灯台もと暗しと言ったりもするもんね。ん? どういう意味だっけ。
私は次の訪問先に向かった。
◇ ◇ ◇
「おーくん、おつかれさま〜。外寒くない? 大丈夫?」
仕事が終わって、おーくんに電話をかける。
私は車移動だから外の寒さもまだ全然マシなんだけど、おーくんは電車とバス通勤だから、外はきっと寒いはず。
『さーちゃん、おつかれさん。うんうん、まだ十一月やし全然平気やで。冷たいビールでも飲めそうなくらいやわ』
そうそう、おーくんはお酒はそんなにたくさんは飲まないんだけど、飲むとしたらビールが好きなんだよね。
「おーくんは暑さ寒さに強いよね〜。私もう今くらいでも寒いわ、もう少ししたらマフラーしないとダメかなって思ってるくらい」
『それは早すぎるやろ。まぁでも風邪ひかんように温かくするんやで。あ、そろそろ電車に乗るわ〜』
電話を切る。
そういえば、大事なモノは近くにある、って言ってたよな、あの占いお婆ちゃん。
車の中かな……?
私は家に着いてから、車の後ろのトランクを開けてみた。滅多にトランクは開けないから、こんなところに指輪が落ちてることはないんだけど、一応念のため。
「え……何これ? 鎌??」
車のトランクに入っていたのは夏の日除けのサンシェードと、たぶんだけど草刈りに使っていた鎌だった。
やば、これ香川に住んでた時に自治会の備品を借りてたやつだ……私はそのトランクをそっと閉じた。うんうん、見なかったことにしておこう。
え〜ん、指輪全然見つからないよぉ〜〜!!
私とおーくんの結婚式まで、あと13日。
訪問介護の利用者さんのアドバイスで、大事なものは意外と近くにあると言われる沙絵。
車の中を探してみるが、見つかったのはサンシェードと鎌だけだった。




