第十九章:ペガサス・おばあちゃん、あるいは創造主の絶筆
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完璧な救済を掲げる聖女・歩花と、その夫でありすべてを無に帰す虚無の化身・キョム。この時空を超えた壮大な夫婦喧嘩……じゃなくて、夫婦愛に巻き込まれた俺。第16章でキョムの「不安定な存在」を俺の物語で強引に繋ぎ止めましたが、彼はそのまま霧のように消え去ってしまいました。 第17章は、姿を消した夫を追う歩花の切実な想いと、思わぬ形での再会。そして、キョムが連れてきた、これまたとんでもない「新メンバー」の登場です。胃薬代わりに冷たい水を煽る俺の受難、どうぞ見守ってください。
1. 霊能おばあちゃんの「一体化」
「……お兄ちゃん。1+1は?」 キュアが、俺の隣で、ニヤニヤしながら、歩花とキョムを指差す。 「……3だ。……いや、無限大かもしれないな」
再会した聖女と虚無の夫。彼らの間には、俺の「物語」さえも介入できない、あまりに濃厚な「愛の重力」が渦巻いていた。不惑の作家、斉木大河。この旅で最大の敗北感を、胃の痛みと共に味わっていた。
「……タイガさん。私の夫を……私たちの『家族の物語』を取り戻すために」 歩花の瞳に、強い決意の光が戻る。
その時だった。 ペガサスから降りた霊能おばあちゃん玉代が、突然、眩い光に包まれた。 「……あ。……貴方……?」 歩花の動きが止まった。
光の中から現れたのは、老婆ではなかった。 それは、一頭の、真っ白な、神々しいまでの翼を持つ「ペガサス」……おばあちゃんだった。 「……おばあちゃん!? 貴方、その姿は……!」
「……歩花。貴方は、誰よりも生命を愛し、不完全な世界を救おうとした。……だから、おばあちゃんが、貴方の『おバカな救世』を、サポートしてあげるね」 ペガサス・おばあちゃんは、威厳に満ちた声で告げた。 「さあ、歩花。おばあちゃんの背中に乗りなさい。この世界の『ノイズ』がどこまで続くのか、見極めさせてもらうよ」
2. 世界の否定と、創造主の危機
「……おばあちゃん! 貴方まで、どうして……!」 歩花が、ペガサス・おばあちゃんに駆け寄り、その背中に乗った。
俺は、45歳の独身作家、斉木大河。 目の前で繰り広げられる、壮大な「家族の物語」に、完全に敗北を認めた。 完璧な救世を掲げる聖女、すべてを無に帰す虚無の夫、そして、ペガサスと一体化した最強のおばあちゃん。 揃いも揃って人外なのに、感覚は普通の人間と変わんないなんて、これってどうなんだか。
「……お兄ちゃん。1+1は?」 キュアが、俺の隣で、デレデレの夫婦と、老婆を指差す。 「……無限大だよ。胃の痛みも、な」
不殺の創造主・タイガと、監視の聖女・歩花。 そして、その夫キョムと、おばあちゃん玉代。 俺のペンが描く物語は、いよいよ世界の根源を巡る、最も不条理で熱々(あつあつ)な「家族の揉め事」へと足を踏み入れてしまった。
3. ペンは剣よりも……重すぎる
「……これって、俺の物語、もう要らなくない?」
俺は、一冊の白紙のノートと、一本のペンを手に、その場に立ち尽くしていた。 完璧な救済、すべてを無に帰す虚無、そして、最強のおばあちゃん。 彼らの前では、俺の「不殺の物語」も、ただのノイズとして吸い込まれるだけだ。
「……お兄ちゃん。1+1は?」 キュアが、俺の隣で、デレデレの夫婦と、老婆を指差す。 「……0だ。……いや、マイナスかもしれないな」
俺は、45歳の重い腰を上げた。 「平和を愛する博愛主義者」なんて、クソ食らえだ。 俺が創ったこの世界が、俺の目の前で、不完全なまま守り抜かれる。 それを、ただ眺めているわけにはいかない。
俺は、白紙のノートを力一杯開き、ペガサス・おばあちゃんに対峙した。 「キュア、全魔力を俺に貸せ! スカル、あいつの『一体化』を解除する記述を叩き込め! 無を吸い込むなら、そこに『愛の質量』を詰め込んで、再構築させてやる!」
「お兄ちゃん、無茶だよ! 吸い込まれたら、存在そのものが消えちゃうんだよ!」 「消える前に、書き込んでやるんだよ! 45年間の、俺の泥臭い執筆人生をな!」
俺の指先から、今までで最も眩い、そして最も「雑多」な光が放たれた。 それは家畜の鳴き声であり、農民の笑い声であり、酔っ払ったスカルの戯言であり、黒鶏の情けない叫び。 「不殺の権能」が、吸い込まれる力に抗うように、ペガサス・おばあちゃんの虚無の内部に「存在の質量」を流し込んでいく。
「……おばあちゃん。貴方が救ってきた世界、本当に今、幸せか? 誰も泣いていないかもしれないが、誰も笑っていないんじゃないか?」
「……っ……」 ペガサス・おばあちゃんが言葉に詰まる。彼女の瞳に、初めて微かな「揺らぎ」が生じた。
「……タイガ。貴方は、本当に……おバカで、そして温かい人ですね」 歩花が、俺の隣に膝をつき、そっと背中に手を置いた。その手は、微かに震えていた。 「私のおばあちゃんに、あんな泥臭い……でも、懐かしい物語を無理やり飲ませるなんて」
俺は、白紙のノートと、一本のペンを手に、その場に倒れ込んだ。 「……ふぅ。……死ぬかと思った。本当に、死ぬかと……」 俺は、激しく咳き込んだ。
不殺の創造主・タイガと、監視の聖女・歩花。 そして、その夫キョムと、おばあちゃん玉代。 俺のペンが描く物語は、いよいよ世界の根源を巡る、最も不条理で熱々(あつあつ)な「家族の揉め事」へと足を踏み入れてしまった。 だが、そのペンは、もう俺の手の中にはなかった。
第18章、いかがでしたでしょうか。 物語は急展開を迎え、聖女・歩花の過去、そして最大の宿敵「キョム」が、まさかの「ラブラブな夫」として登場しました。 牧場での幸せな生活、そして妻を心配してスマホ一つで異世界へ追ってきた夫。冷徹な聖女から一転、愛に生きる一人の少女へと変化していく彼女の姿を描けたと思います。 そしてタイガ。不惑を過ぎてなお、他人のノロケ話に胃を痛める彼の活躍、どうぞ見守ってください。
【感想・高評価のお願い】 「歩花とキョムのラブラブ設定が最高!」「タイガの『愛の再創造』がかっこいい!」など、皆さまからの感想や高評価をお待ちしております。 皆さまの応援が、タイガの「胃痛の旅」を支える最高の処方箋です! (ぺこり)




