第十四章:聖女の相席、あるいは監視という名の晩餐
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最強の黒龍を「黒い鶏」に変えてしまうという、作家としても創造主としても少々やりすぎたかもしれない権能の発動。その余波に胃を痛めながら、俺たちはようやく村の小さな宿屋に辿り着きました。 しかし、安らぎの場であるはずの食堂で、俺の隣にはあってはならない「聖なる気配」が……。第14章は、監視という大義名分を掲げた聖女との、まさかの相席エピソードです。美女との食事に緊張する暇もないドタバタ劇、どうぞ見守ってください。
1. 宿の香りと、震える鶏
「……ふぅ。やっぱり、木の匂いとスープの香りは落ち着くな」
俺は、村の宿屋『麦の穂亭』の食堂で、深く椅子に身体を沈めた。 テーブルの上には、具だくさんの野菜スープと、焼き立てのパン。そして、スカルがどこからか調達してきた、銘柄こそ不明だがよく冷えたエールが並んでいる。 「お兄ちゃん、お疲れさま! 100点満点中、今日は特別に80点あげちゃう!」 キュアが、フォークを振り回しながら機嫌よくスープを啜っている。
「……コケッ(……屈辱だ。この私が、人間どもの餌の残りを待つ身になるとは……)」 足元では、紐で繋がれた「黒い鶏(元ドラゴン)」が、恨めしそうに俺を見上げていた。 「いいか、お前。さっき村人に『美味そうな鶏だ』って言われた時、俺の後ろに隠れたのを忘れるなよ。今は大人しくしてろ」 俺はパンの端切れを放ってやった。元ドラゴンはそれを猛烈な勢いで突き、また情けなく項垂れた。
2. 監視の聖女、降臨(相席)
「……失礼。ここ、空いていますか?」
不意に、周囲の喧騒がスッと消えた。 透き通るような、それでいて有無を言わせぬ圧を伴った声。 顔を上げると、そこには白銀の法衣を纏い、神々しいまでの美しさを放つ聖女・歩花が立っていた。
「……あ、歩花!? なんでここに……」 「タイガさん。貴方がこの世界で行った『不殺の転生』……。あれは、世界の因果を大きく歪める危うい行為です」 歩花は、俺の返事も待たずに、極めて自然な動作で俺の隣の席に腰を下ろした。
「えっ、監視? いや、俺たちはただの旅の……」 「ですから、監視が必要なのです」 歩花は、俺の前の野菜スープをじっと見つめ、それから俺の目を真っ直ぐに見据えた。 「貴方がこの世界をこれ以上どう『書き換える』のか。そして、その結果、生命が真に救われるのか。……私が隣で、その一部始終を見届けることに決めました」
「……はぁ!? 聖女様が俺たちと一緒に旅をするってことかよ!」 スカルがパンを喉に詰まらせて咳き込む。 「……迷惑ですか?」 歩花が、わずかに小首を傾げる。その完璧な造形美を前に、45歳の独身作家は、言い返すべき言葉をすべて喉の奥に飲み込んでしまった。
3. 聖女、初めての「世俗」
「……それで、これは何という料理ですか?」 歩花が、スプーンを手に取ってスープを指差す。 「……ただの野菜スープだ。食べたことないのか?」 「私のいた領域では、栄養は魔素として摂取していましたから。……こうして『噛む』という行為は、非常に非効率的で……あ」
一口運んだ瞬間、歩花の動きが止まった。 彼女の白い頬が、ほんのりと赤らむ。 「……温かい。……不純物が多いはずなのに、なぜか、不快ではありません」 「それが『味』ってやつだよ、歩花」 俺は苦笑いしながら、自分のエールを一口飲んだ。
「……タイガさん。貴方は、この不完全な『食事』という行為にも、価値があると言うのですか?」 「ああ。腹が減って、食べて、うまいと思う。……それだけで、生きてる意味なんて十分だろ。45年生きてきて、俺が辿り着いた結論の一つだ」
歩花は、しばらく無言でスープを見つめていた。 やがて、彼女は隣でパンを突く黒い鶏に視線を落とした。 「……黒龍。貴方も、この創造主の気紛れによって、この『味』を知ることになったのですね」 「コケェッ!?(聖女よ、同情するなら私を元の姿に……いや、今はその……このパン、意外に悪くない……)」
聖女、AI、改ざん犯の子供、そして鶏になったドラゴン。 45歳の俺の食卓は、いつの間にか、この世界のあらゆるバグと矛盾を詰め込んだような、カオス極まりないものになっていた。
「……お兄ちゃん。1+1は?」 キュアが、ニヤニヤしながら俺の隣の歩花を指差す。 「……無限大だよ。胃の痛みも、な」
不殺の創造主・タイガと、監視の聖女・歩花。 相容れないはずの二人の正義が、一杯のスープを囲んで交差し始めた。 この「共食」が、世界の物語をどこへ導くのか。 俺のペンは、また予想外の一行を書き加えざるを得なかった。
第14章、お読みいただきありがとうございました。 圧倒的な敵対勢力だった歩花が、まさかの「隣の席」へ。監視と言いつつ、タイガの価値観に触れていく彼女の姿は、冷徹な聖女から少しずつ「一人の少女」へと変化していく予感を感じさせます。 そして鶏。彼はもう、プライドよりも食欲に負け始めています。
【感想・高評価のお願い】 「歩花が意外と可愛い!」「鶏の順応が早すぎる(笑)」など、皆さまからの感想や高評価をお待ちしております。 皆さまの応援が、タイガの「相席旅」をより賑やかにします! (ぺこり)




