第十三章:輪廻の鶏(にわとり)、あるいは最強の左遷
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霧の山脈を抜け、ようやく人里が見えるかと思った矢先、空を割って現れたのは「世界のバグ」の集大成とも言える漆黒のドラゴンでした。聖女・歩花までもが再び降臨し、この歪んだ世界の消去を迫る絶体絶命の瞬間。 第13章では、不殺を誓った俺にしか許されない、ある意味で死よりも残酷な「救済」が炸裂します。最強の竜が辿り着いたのは、まさかの「焼き鳥」の一歩手前。胃を痛めながら新メンバー(?)を迎える羽目になった俺の受難、どうぞ見守ってください。
1. バグの飽和、聖女の再臨
「……嘘だろ。これ、全部お前の仕業か、スカル」
霧が晴れた山脈の麓、俺たちの目の前には、空を埋め尽くすほどの「バグ」が渦巻いていた。 空間はノイズのように震え、物理法則を無視した岩石が浮遊し、地上には歪な姿の魔獣が溢れかえっている。 「ごめんなさい……! 僕が不正にシステムを書き換えたせいで、世界が自己崩壊の連鎖を止められなくなってるんです!」 スカルがランドセルを抱えて地面に膝をつく。
「……穢れが、臨界点を超えましたね」
背後から響く、清浄すぎて温度のない声。 黄金の光と共に、聖女・歩花が再び姿を現した。 「タイガ。貴方が『ノイズ』と呼んだ不完全さが、今や世界を食い潰す癌となりました。……これ以上、見過ごすことはできません。今度こそ、私がこの世界を救い(消し)ます」
「待て、歩花! まだ書き直せる! 俺の……」 俺が言いかけたその時、空が引き裂かれた。
咆哮一閃。 雲を割り、バグの奔流を突き抜けて降りてきたのは、全長百メートルを超える漆黒のドラゴンだった。それはスカルの不正な改ざんによって、本来の強さを数万倍に増幅された、この世界の「バグの王」だった。
「グォォォォォォォッ!!」
ドラゴンのブレスが大地を焼き、歩花の黄金の結界さえも軋ませる。 「お兄ちゃん、これ本気でマズいよ! キュアのマシンガンでも、今の出力じゃ掠り傷も負わせられない!」 キュアが叫ぶ。不殺を誓った俺に、選択の余地は残されていなかった。
2. 創造主の権能:不殺の輪廻転生
「……キュア、手を貸せ! スカル、システムの全権限を一時的に俺へバイパスしろ!」 俺は、震える手で白紙のノートを掲げた。 「えっ、タイガさん!? 何をする気ですか!」 「こいつを殺さずに、この世界から『退場』させてやるんだ。……創造主だけに許された、究極の脱字——『輪廻転生』を発動する!」
俺の脳内に、ドラゴンの膨大な構成データが流れ込む。 強欲、破壊衝動、そしてスカルが植え付けた不正なコード。それらすべてを「物語の因果」というフィルターで濾過していく。
「お前の魂は、あまりに重すぎ、そして邪悪すぎた。……その報いは、命ではなく『姿』で受けてもらうぞ!」
俺の指先から放たれたのは、破壊の光ではない。 魂の属性を再定義する、不可逆の「書き換え」の奔流だ。 眩い光が黒龍を包み込み、巨大な質量が急速に収縮していく。 「……ガ、ア、ア……コケッ……?」
光が収まった地上にいたのは、黒龍ではなかった。 そこには、小刻みに震える一羽の、どこにでもいる「黒い鶏」が立ち尽くしていた。
「……えっ? 鶏?」 スカルが呆然と呟く。 「ああ。こいつが犯した『殺戮』の因果が、最も弱く、食われる側の存在へと転生させたんだ。……殺しはしないが、こいつにとっては死ぬより屈辱だろうよ」
鶏になった元ドラゴンは、自分の翼(手羽)を見つめ、絶望に満ちた声で叫んだ(ように聞こえた)。 「コケェェェッ!?(貴様、不殺の悪魔かッ!? 殺せ! いっそ殺せぇぇぇッ!!)」
その姿を見て、歩花は静かに魔方を収めた。 「……命を奪わず、尊厳を奪う。……タイガ、貴方のやり方は、死よりも残酷ですね。……少しだけ、様子を見ましょう。この『ノイズ』がどこへ向かうのかを」 聖女は再び光の中に消えていった。
3. 焼き鳥の危機と、奇妙な道連れ
山脈を降りた俺たちは、近隣の小さな村に立ち寄った。 45歳の疲れを癒すのは、やはり人の営みの気配だ。だが……。
「おい、いい黒鶏じゃないか。今日の晩飯はこれの串焼きで決まりだな!」 村の男が、俺たちの後ろをトボトボ歩いていた鶏を、ひょいと掴み上げた。 「コケェェェッ!?(やめろ! 触るな下等生物! 貴様、私が誰だか……火を、火を噴かせてくれぇぇぇッ!!)」
「ちょ、ちょっと待ってください! それ、俺たちの……その、ペットなんです!」 俺は慌てて男から鶏を取り返した。 腕の中で、鶏はガタガタと震え、俺の胸元に顔を埋めた。
「……助けてくれて、ありがとうなんて言わないんだからね! コケッ!」 「……喋るな。焼き鳥にされたくなかったら、大人しくしてろ」
元ドラゴンは、自分が最も蔑んでいた人間に命を救われた事実と、自分が「食材」として認識された恐怖に、完全にプライドを粉砕されていた。 だが、このバグだらけの世界で、元ドラゴンという「知識」を持つ鶏は、意外な戦力になるかもしれない。
「……お兄ちゃん。1+1は?」 キュアが、鶏を指差して笑う。 「……2だ。だが、このメンバーだと、合計点数はマイナスになりそうだな」
45歳のタイガ。 不殺を貫いた結果、最強の竜を鶏に変え、その身を守りながら旅をすることになった。 胃の痛みは増すばかりだが、物語の「続き」は、どうやら思わぬ方向へ羽ばたき始めたらしい。
第13章、いかがでしたでしょうか。 「不殺」という誓いが、最強のドラゴンを「鶏」に変えてしまうという、創造主ならではの皮肉な救済を描きました。死なせないことが、必ずしも慈悲ではない。45歳のタイガが放つ権能の「重み」を感じていただければ幸いです。 そして、まさかのパーティメンバー加入(?)。鶏になった元ドラゴンの明日はどっちだ。
【感想・高評価のお願い】 「ドラゴンの転生先が鶏って……!」「不殺の悪魔、タイガが怖い(笑)」など、皆さまからの感想や高評価をぜひお聞かせください。 皆さまの応援が、タイガと「黒鶏」の明日の献立を決めます! (ぺこり)




