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あなたの瞳に私を映してほしい ~この願いは我儘ですか?~  作者: 四折 柊


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20.窮屈な生活

 ソフィアはイライラとしながらお茶会の招待状のリストを書いていた。

 公爵夫人としてお茶会を開くためだが、結婚前の自分はお茶会とはただお茶を振る舞い笑っているだけでいいと思っていた。いざ結婚したらリストの作成やお茶や菓子の手配などやることがいっぱいだ。客人の好みまで調べなくてはならない。自分はずっと持て成される立場だったのに持て成す方をしなければならないのだ。全て使用人に任せればいいのにエイブラムは最低限のことはするように言う。


 結婚式の日ソフィアは世界一美しい花嫁となったのに、隣には自分に相応しくない不器量な男がいた。喜びはなく酷く冷めた気持ちになった。

 祝福の言葉が苛立たしく不愉快だった。ちっとも嬉しくない。私の隣に並ぶにはエイブラムでは役者不足だ。自分を引き立てる男よりも並ぶことで更に互いの美しさを高める相手が良かった。贅沢さえ出来れば我慢できると思っていたが、いざ結婚してしまえば不満が募る。学園に在学中は周りがソフィアを持て囃してくれたので心を満たすことが出来た。


 結婚後は状況が一変した。学園での取り巻きたちは比較的に爵位の低い人達が多かったので結婚後は疎遠になった。金で取り巻きをさせていた人たちも卒業と同時に縁は切れた。エイブラムが取り巻きに金を渡すのをやめた途端に蜘蛛の子を散らしたようにソフィアの周りからは人がいなくなった。


 エイブラムは男性との接触を厳しく制限する。そのせいでソフィアは男性からの賛辞の声を聞くこともなくなり自尊心が満たされずいくら贅沢しても楽しくない。


 しかも今まで疎かにしていた公爵夫人としての勉強をしなければならなくなった。本当はしたくないが、社交界で何も知らないと馬鹿にされるのは耐えられない。一応努力はしているが、全く頭に入らない。もともと学校では勉強せずにテストは不正をしていた。基礎がないので困難を極めた。時間は無情に流れ必要な知識が身につかないままソフィアは社交に出ることになった。


 それでも深刻には考えていなかった。自分は公爵夫人だから周りがフォローしてくれると思っていた。家格から考えれば王族に次ぐ立場だ。同等の公爵家は除いてもほとんどの貴族に対して優位な立場でもあるし、学園にいた頃のようにソフィアの美しさに皆がひれ伏すと考えていた。


 その考えはすぐに否定された。年齢も立場も様々な人がいる社交場では美しいことは絶対ではない。物事の一部でしかなく失敗したとしても免罪符にはならなかった。公爵夫人とは言えソフィアには何の実績もないのだ。女性たちの社交場では爵位が下でも幅を利かせるご夫人は多い。ソフィアは軽くあしらわれていた。そのことも屈辱だった。


 招かれたお茶会では早々にソフィアの知性を試すような話題になる。今までのソフィアはお洒落や宝石やドレスにしか興味がない。基本的にいかに自分を美しく見せるか、その一点のみだけが大事だった。婦人たちの交友関係、付き合いのある貴族の領地の特産品、隣国の王族や貴族の話、どれも初めて聞く内容だった。返事なんて満足に出来るはずがない。それでも不機嫌さを露わにするほど愚かではなかった。


「勉強不足で申し訳ございません」


 殊勝に笑みを浮かべ謝罪した。悪い印象を与えれば、あっというまに悪い評判が広まる。ソフィアは自分が圧倒的に知識も教養も努力も足りていないことに気付いていなかった。上辺さえとりつくろえば簡単に周りを誤魔化せると信じていた。


「ソフィア様は学園を首席で卒業したのですよね? それなのにこの体たらく……。隣国語は必修科目ですのに理解できないなんてどうされたのかしら? それに普通なら言語の勉強と一緒にマナーも習得すると思うのですがソフィア様はどれも不得意の様ですね。自分磨きに没頭し過ぎていたのでは?」


 そのお茶会には隣国から来ていた貴族が招かれていて、周りは彼女の為に隣国語で会話をしていた。皆の談笑にソフィアはついていけない。嘲笑を受け屈辱に体を震わせた。


 何度思い出しても腹が立つのは、結婚式が終わってから最初に行ったお茶会だ。散々な目にあった。


「先日の結婚式のお礼状、届きましたわ。でもあまりにも酷い字で驚いたわ。まさかソフィア様の直筆ですの?」


「…………」


 本当はソフィアだって書きたくなかった。だがエイブラムに言われ仕方なく書いたのにこの人たちから字が汚いと貶められた。この国の貴族は結婚式に出席してくれた相手に、一通ずつ妻が手書きでお礼状を書くことが習わしとなっている。


(あんなにたくさんの枚数を頑張って書いたのに酷い)


 ガルシア公爵家ならば出席者の数はその辺の貴族の比ではない。そしてお礼状を出すのが遅くなれば使えない妻だと侮られる。毎日毎日、腕や指が痛くなるまで書いたことを思い出しソフィアは唇をぎゅっと噛んだ。自分の努力を踏み躙られた気がした。


 どうしようもないその鬱憤を屋敷の中で晴らした。使用人に当たり散らすこともあるしエイブラムに文句も言ったが彼は聞き流すだけで何も言わない。気が晴れないので商人を呼んで自分に相応しい宝石やドレスを買い求める。大きな宝石のついたアクセサリーが一番のお気に入りだ。それを身につけると自分が尊い何かになれた気がする。


 ソフィアは食事、特に嗜好品を食べてストレスを解消することはない。どれだけ美味しそうなものがあっても太ってはソフィアの美しさが損なわれる。肌が荒れたら最悪だ。芸術を愛でる趣味もないのでストレス発散方法は買い物に限定されてしまう。

 そんな満たされないソフィアの日常で心をかき乱す光景を目にすることになる。


 夜会でスラリとした長身で容姿端麗な素敵な男性が現れた。ソフィアが今まで出会った男性の中で王族を除いて一番素敵な男性だ。思わず見惚れ息を呑む。


「あの方はどなたなのですか?」


 とある侯爵夫人に問いかける。


「彼はフィンレー公爵子息、ジョシュア様よ。ずっと隣国に留学していたのだけど最近帰国してご結婚されたのよ。大変優秀な方のようね」


「そうなのですね。そんな素晴らしい方がいらしたなんて存じませんでしたわ」


 もし、知っていれば……彼こそがソフィアの隣に相応しい。爵位も美しさも完璧だった。


(ああ、私をエイブラムから攫って欲しい。救い出して欲しい。フィンレー公爵家こそが私の居るべき場所だったはずなのに、エイブラムのせいで!!)


 ソフィアはジョシュアを熱の籠った眼差しで見つめた。瞳を潤ませ縋るように。こうすれば男性はソフィアを見つめ、心を捧げる。そしてソフィアに愛を乞う。ジョシュアがソフィアの視線に気づいたようでこちらを向いた。


(目が合った!)


 それなのにジョシュアの瞳はガラス玉のように無機質でソフィアの美しさに感動した様子はない。すぐに興味なさそうに目を逸らした。こんなことは初めてだった。


(誰だって自分の美しさに目を奪われるのにどうして?!)


 違う。こんなことあり得ない。目が合ったと思ったけど彼はソフィアに気付いていないだけかもしれない。気付けば絶対に自分に話しかけてダンスを誘うはずだ。


 だがジョシュアがソフィアをダンスに誘うことはなかった。それどころか声をかける令嬢すべてを断っていた。ダンスを踊ったのはただ一人、妻であるシャルロッテだけだった。


「侯爵夫人。フィンレー公爵子息と奥様はどういう経緯でご結婚されたのでしょうか?」


「ああ、あのお二人は従姉弟で幼馴染ですからその縁なのかもしれませんね」


 なるほど。親戚ならばあの平凡なシャルロッテと結婚したことも納得がいく。きっと言い寄ってくる女性除けに都合がよかったのだろう。もっと早くソフィアの存在を彼が知っていれば絶対に自分を選んだはずだ。


(シャルロッテの前の婚約者はサイラスだった。どうしてあの女は素敵な男性と縁があって私はエイブラムと結婚しなければならなかったの。世の中は不条理だわ)


 あの夜会からソフィアはジョシュアを思い出しては溜息をついた。いつも愛される側にいたので気付いていなかったがソフィアは一目惚れをして恋に落ちていた。

 シャルロッテにはジョシュアを魅了するような特筆するほど優れたところがあるとは思えない。だが侯爵夫人の話だとシャルロッテの実家ディアス伯爵家はかなりの資産家で大きな商会を営んでいる。きっと彼は女性除けと家の利になるからシャルロッテを選んだに違いない。


(私たちは出会うのが遅すぎたのだわ)


 ジョシュアのことを考えるほどエイブラムを本気で嫌悪するようになった。この男さえいなければジョシュアと巡り合えた。彼は地位も美しさも兼ね備えていてエイブラムを凌ぐ男性だ。

 ソフィアは贅沢で不満を晴らすことが出来なくなっていた。心が満たされないのだ。エイブラムはソフィアを所有したがるが愛を言葉にしたり褒めたたえたりもしない。自分を妻にしたことを泣いて喜ぶべきなのにその態度は不遜だ。


 結婚して知ったのだがエイブラムの部屋には美しい絵画や美術品が多数ある。彼は収集癖があり集めたものは人目に晒すことなく仕舞っておきたいようだ。自分で見る為だけに大金を払うなんて馬鹿馬鹿しい。

 そして気が付いた。彼にとってソフィアは美術品と同じ存在だったと。


(私は鑑賞物だとでもいうの!)


 それに気付いて以降、夫婦として公の場にいる時は完璧な妻としてエイブラムに寄り添うが屋敷の中では取り繕うことをやめた。


 ソフィアの望みはジョシュアがシャルロッテを捨ててソフィアをエイブラムから救い出してくれることだ。彼の爵位と権力ならそれが出来るはずだ。早くその勇気を出して欲しい。ソフィアは彼が迎えに来てくれる日をうっとりと夢見ていた。



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