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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
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合同レク1

ポルポと春風がウーノの解毒剤の作成に必要な三つのアイテムを探すために迷いの森へ入る事を決めた翌日。


一日がかりで行われるブリテン神官学校春の恒例行事、全校合同魔法訓練、通称合同レクが開催された。


合同レクに参加する本校と分校の生徒は、分校の裏山へ出発し、北へ広がる雑木林を進み、目的地となる迷いの森の入口の祠に向かった。


人ほどの高さしかない小さい石作りのその祠に、合同レクのために小さな丸い石が置かれた。


石は青と黒の縞模様に塗装されていて、竜の卵に似せてあった。


合同レクはうまく雑木林を抜けてこの石を取る課外授業であった。


剣士や魔術として一人前の人間なら雑木林を抜けるのは容易い。


しかし、雑木林にはいくつかの注意を要する生物が生息していたので、まだ若くて未熟な生徒たちには少々骨の折れる行事だった。


そのため、二人以上のパーティを組んで参加する事が義務付けられていた。


二人でパーティを組んだポルポと春風は、途中マロンとメロンの二人と合流し、結果四人パーティになって雑木林の中を進んでいた。


雑木林が中程までくると、だんだんと気が高くなってくる。


もう周囲の木は迷いの森と遜色がないほど高くなっていた。


マロンは木から垂れ下がった木の枝から実や果物を摘み、メロンと春風、そしてポルポは周囲の木々に警戒感を強めて黙々と進んでいた。


春風たちの後をばれないようにずっとつけてきた本校の生徒三人組がいた。


アルファンたちだった。


三人は高い木々の上を見ながら歩いていた。


「あるか?」


「いえ、まだないようです」


三人は木の上の部分を見ながら何かを探していた。


「あ、アルファン様。あれではないでしょうか?」


アルファンたち三人は高い木の先端を凝視した。


そこに大きな蜂の巣があった。


巣の大きさは十メートルを優に超えていた。


白と黒のマダラ模様を呈し、ふんわりとしたいびつな楕円状の巣には六角形の穴がたくさん空いていた。


「よし、あれだ。準備しろ」


友人の一人が弓矢を取り出した。


それは小型弩だったが、弦が張ってなかった。


本体に添うように弓の部分の中央上に細長い棒が二本あった。


取手部分は本体と直角に取り付けられ、銃のような作りになっていた。


取手にはトリガーがあったので、その部分はもはや銃そのものだった。


小型弩の材質は木でも鉄でもなく不気味に黒光していた。


アルファンのお付きの友人が弩本体後尾にある小さな取手を指で後方に引っ張ると、本体に沿ってまっすぐだった細い二本の木が引き起こされ、棒はそれぞれ半円を描くように曲り、二つの棒が合わさって円形になった。


それは顔ほどの大きさの円形の照準になった。


さらに友人は袈裟がけにかけた自分のカバンから魔法瓶を取り出すと、慣れた手つきで小型弩の右側の穴へ魔法瓶を差し込み少し回した。


かちりと音がした。


小型弩全体がうっすらと光り、何もなかった円形の木の照準の中にライフルの照準のようなメモリが浮かび上がった。


セットが出来上がった小型弩を受け取ったアルファンはそれを右手で持ち、木の上に向けた。


照準の中には大きく拡大された、蜂の巣の付け根が映し出されていた。


「よく見える」


アルファンが魔法瓶を時計回りに回すと、小型弩に固定された瓶のフタが周った。


アルファンがフタのメモリいっぱいまで瓶を回すと、小型弩の上部に矢の形をした青白い光が発生した。


「あいつらが木の下に来たら合図しろ」


アルファンが言って少しした時


「来ました、今です!」


と友人が言った。


アルファンは躊躇なく小型弩の引き金を引いた。


音も反動もなく通常の弓よりも速く発射された青白い光の矢は1ミリのブレもなく真っ直ぐに飛び、完璧に巣の根元に当たった。


木からぶら下がっていた巣は根元を破壊され十メートル以上ある木から地面へ落下した。


巣は春風たちの後方に二十メートル付近にどさりと落ちた。


メロンがその音に振り返った。


「今何か落ちてきたよね?」


メロンがそう言うと、三人は上を見上げた。


目が早いマロンが揺れている木を見つけそこに残された巣の残骸を発見した。


それは虎蜂タイガービーの巣だった。


この雑木林で唯一かつ最も凶暴な魔獣である虎蜂は、地面を覆う強いマナを嫌い高い木の上に巣を造る習性があった。


頑丈で決して下に落ちてこないはずの巣が、何かの弾みで下に落ちてきた。


地面のマナに当てられた虎蜂は暴走する。


それはブリテンに住む人間ならば皆知っていた。


「やばい!」


とマロンは叫んだ。


二人がどうしたのかと口を開く前に


「走れ!虎蜂タイガービーの巣だ!」


と言ってマロンは走り出した。


「ええっ!?」


それを聞いて悲鳴を上げメロンが走り出すと状況がわからない春風もそれに続いて走り出した。


巣から一匹、虎蜂が姿を現した。


白い全身に黒い虎縞模様の蜂はマロンたちよりも一回り大きかった。


目が赤く充血し、怒りを表すかのように羽音は通常より甲高く攻撃的に響き渡った。


虎蜂は巣から次々と現れ、五匹の虎蜂の目に備わった動体温度検知センサーが走り去る春風たちを捉えた。


「ガアァァァ!」


蜂たちは牙を剥き出しにして吠えると春風たちの方へ一気に飛び立った。


春風たちは一目散に駆け出した。


その様子を見てアルファンが大きな声で笑った。


「はっはっは!どうだ!ざまあみろ!あいつらほえ面かいて逃げていったぞ!」


「さすがですアルファン様!」


「虎蜂初めて見ましたけど、あんなに大きいんですね。あいつら、大丈夫ですかね?」


「あいつらの事なんか心配する事はない。全員この国に必要のない下民どもだ」


お付きの友人たちはどちらも貴族とはいえ元々身分の低い家柄であった。


アルファンの言葉を聞いて二人はなんとも言えない気持ちになって黙り込んだ。


「久しぶりにすっきりしたな。では竜の卵を取りに行くぞ!」


アルファンは気落ちする二人の友人を引き連れ、意気揚々と雑木林の中を進んでいった。

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