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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
50/61

合同レク2 それぞれの覚悟

悲鳴を上げながら四人は必死で走った。


方向などお構いなしだった。


ただひたすらに走った。


一匹でも危険な怒った虎蜂が、群れをなして追って来るのだから無理もなかった。


先頭をひた走るマロンは目の前に迫る岩壁を見て青ざめた。


行き止まりだった。


岸壁の高さは数十メートルあったが、マロン一人なら一瞬で駆け登る事もできた。


が、人間であるポルポと春風がここを登るには時間がかかりすぎるし、運動の苦手なメロンに至っては登れるはずもなかった。


三人を置いて行くわけにはいかない。


マロンはどこかに隠れる場所がないか目を走らせた。



春風、ポルポ、メロンは三人で走っていた。


だが、メロンがだんだんと遅れていた。


「急げメロン!」


春風とポルポは走りながら顔だけを後ろに向けメロンに叫んだ。


メロンは必死で走っていたが、ちらと後ろを向くともうすぐそこまで先頭の虎蜂が迫っていた。


「わあああ!」


その時、ポルポが急に立ち止まって振り返った。


「ポルポ!」


叫んだ春風も止まった。


「先行って!」


と言ったポルポはたすき掛けに背負っていた杖棍(ワンドソード)に手をかけると、左手で鞘から一気に引き抜いた。


杖の先端に小さな赤い魔法石がはめ込まれている。


杖棍を引き抜いたと同時に腰に下げた魔法瓶を右手で取り上げ、瓶のふたを全開にすると中に入っていた魔法水を杖棍にふりかけた。


魔法水で水浸しになった杖棍を頭上で数回振り回し両足を広げ腰を下ろすと、ポルポは杖棍を両手で持って


「来い!」


と大きな声で虎蜂に叫んだ。


ポルポは心中でここしかないと思った。


頑丈に木にぶら下がっているはずの虎蜂の巣が落ちてきた理由はわからない。


しかし、解毒剤を作るには巣の蜜がどうしても必要だ。


巣を探すのは大変な事だ。


この後どこかで運良く巣を見つける事ができたとしても、どのみち虎蜂とは戦わなければならない。


巣の蜜を手に入れる事ができなければ、ウーノが死んでしまうのだ。


戦うなら今しかない。


ウーノのために覚悟を決めたポルポには、春風たちがどうなるかなど頭から飛んでいた。


「岩影に隠れろ!」


マロンがメロンに指差して叫んだ。


メロンは走りながらマロンが指差した方を見た。


そこに岩があり、ぎりぎり入れそうな細い隙間があった。


メロンはそこへ滑り込んだ。


ポルポの目は、迫り来る虎蜂の群れをはっきり捉えた。


赤く充血した目の巨大な蜂の群れは岩影に入ったメロンは素通りし、ポルポに照準を定めた。


先頭を飛ぶ虎蜂が牙を向いてポルポに襲いかかった。


ポルポが白い光で包まれた杖棍(ワンドソード)を頭上に掲げると、虎蜂はその杖棍に噛み付いた。


魔法水によって光の精霊を宿したポルポの杖棍の先端の魔法石から稲妻が走った。


魔法石から発せられた稲妻に撃たれた虎蜂は悲鳴を上げて地面に落ち、焦げた匂いと白い湯気を出して絶命した。


仲間の死に怯む事なく二匹目の虎蜂がポルポに牙をむいて襲いかかった。


ポルポが再び杖痕で虎蜂の牙を受け止めると、杖の先端の赤い魔法石から稲妻が飛び、虎蜂を撃った。


しかし稲妻は初撃より遥かに弱々しく、虎蜂の動きを一瞬怯ませるのが精一杯の威力で、杖に噛み付いたまま虎蜂は尻の先から鋭い針を出してポルポに突き立てた。


針を防ごうと杖を下げたが間に合わず、ポルポは咄嗟に右足を上げて針をかわすと、そのまま右足で針のすぐ脇の下腹部に蹴りを入れた。


針はポルポを貫かなかったが、先端がポルポの右腕上腕をかすった。


「ぐあっ!」


羽をさらに速く羽ばたかせた虎蜂は杖から口を離しポルポの顔を噛もうとした。


が、ポルポは横っ飛びに転がってその一撃を回避した。


噛み損ねた虎蜂がポルポに襲いかかると同時に、後ろから追いついてきた別の虎蜂が大きな口を開けて襲いかかった。


ポルポは一匹目の虎蜂の牙を杖で受けた。


弱々しい稲妻が魔法石から発せられたが、もはや虎蜂にダメージはない。


次撃を防ぐ手立てがないまま、二匹目の虎蜂の牙がポルポに襲いかかった。


噛みつかれる覚悟をして一瞬目をつぶったポルポの耳に金属音が響いた。


ポルポを襲った虎蜂の固い牙が春風の短剣に噛みついた音だった。


「ハル!」


虎蜂は春風の短剣を噛み砕(くだ)かんばかりにギリリと噛み締めながら針を出して春風を襲った。


虎蜂の殺気が春風に向けられた。


強い殺気を浴びた春風の心拍数が跳ね上がった。


春風の周囲の動きがスローモーションになった。


春風は自分を襲った虎蜂の針の初撃をかわすと、その後に続く針の攻撃も三度続けてかわした。


そこに、虎蜂の第二集団四匹追いついた。


四匹の虎蜂は二人の頭上から牙を剥き出して襲いかかった。


四匹のうちの一匹だけに襲われた春風は、その頭上からの一撃もスローモーションの中で完全に見切ってかわした。


が、一方ポルポには残り三匹の虎蜂が一斉に襲いかかり、ポルポにはそれら全てをかわす余裕はなかった。


助けようとして春風はポルポの方へ動こうとした。


しかし、感覚はスローモーションでも、自分が早く動けるわけではなかった。


春風にはポルポに迫り来る三匹の凶暴で巨大な蜂をなす術なく見つめる他なかった。


そこに、頭上からマロンが飛びかかった。


戦闘モードになって瞳孔が縮み全身の毛を逆立たせたマロンは、ついさっき春風がポルポの元へ走り出したのと同時にポルポの元へ走っていたのだった。


ポルポを襲う虎蜂の牙を春風の剣が止めた時、マロンはすでに空中から迫り来る四匹の虎蜂を見て跳躍していた。


飛びながら、春風が虎蜂の攻撃を見切っているのを見たマロンは、思考ではなく感覚で判断し春風の援護ではなくポルポの援護に回った。


マロンはポルポを襲う三匹の虎蜂に狙いを絞ると、虎蜂たちの横っ面に次々と手足の爪を見舞った。


マロンのスピードに虚をつかれた虎蜂たちは何が起きたかわからないままフラフラと飛び、ポルポたちから離れて距離を取った。


三匹が離れると、ポルポと春風を襲っていた残りの虎蜂も二人から離れ上空の虎蜂と合流した。


六匹の虎蜂は春風たちの頭上でホバリングした。


自分に向けられた強い殺気が消え春風の感覚が元に戻った。


「ぷはっ!」


息ができなかった春風が一気に息を吸った。


「なんで!」


一人で戦うつもりだったポルポは、自分を助けにきた二人に叫んだ。


「バカッ!」


空中で春風たちの様子を伺う虎蜂たちを見ながら、戦闘体制のままのマロンが怒った。


「何やってんだよ!死にたいのか!」


マロンがポルポに怒鳴ると


「助けてなんて言ってない!」


とポルポが怒鳴った。


そこに、虎蜂の本体集団がやってきた。


二十匹以上の大集団だった。


「逃げるぞ!」


マロンが言った。


「行って!僕は戦う!」


「なっ!」


マロンとポルポが言い合いをする間もなく、虎蜂の集団は一気に三人に向けて牙をむいた。


これほどの数の虎蜂の攻撃をすべてかわすことなど到底できない。


三人の頭に死がよぎった。


その時後方の岩影に隠れたはずのメロンの声が聞こえた。


「水と大地の精霊よ!我に力を!」


メロンが精霊魔法で水の精霊シーラを呼び出していた。


メロンの焦茶色の小さな杖の先に次々と現れるシーラが春風たちの元へ飛び水の壁になった。


壁は一瞬でドーム状になり三人を包んだ。


虎蜂は何度も水の壁に噛み付いたが、その度に水の感触を嫌って離れた。


三人がメロンを振り返った。


岩陰から出て杖を掲げたメロンが三人を見て叫んだ。


「長くは持たないよ!」


「どうするんだ二ャ!」


マロンがポルポに怒りをぶつけた。


「頼んでない!」


ポルポは水の壁の向こうにいる虎蜂の集団を見ながら言った。


「何か弱点とかないの?!」


春風が大きな声で言った。


「水!それと光!後は風!」


メロンが遠くから叫んだ。


春風たちを囲んでいた虎蜂の数匹がその声に反応し、マロンを見た。


「ヤバい!」


数匹の虎蜂がメロンに向けて飛んだのと同時に、マロンは水のドームから飛び出してメロンの方へ向かおうとした。


そのマロンの腕を春風がひっ捕まえて壁の中に引き戻した。


「離せ!」


「今出たらやられるぞ!」


春風は怒鳴ったが、自分たち三人を守るために魔法を使っているメロンにはメロン自身を守る術がない。


誰かが助けに行かなかればメロンがやられるのは明白だった。


ポルポが水のドームから飛び出した。


「僕が引きつける!行って!」


虎蜂の集団がポルポへ一斉に襲いかかった。


ポルポが言い終わる前にマロンは春風の手を振り切って水のドームを飛び出し、メロンの方へ走った。


すでにメロンに向けて飛んだ数匹の虎蜂の背後を追ってマロンが全力で走った。


しかし、距離を詰めるには遠すぎた。


ポルポを襲う虎蜂の大集団、メロンを襲う小集団。


虎蜂の弱点は水と光、そして風。


春風はこの状況を打破できるかもしれない手をひとつだけ思いついた。


春風は朝晩の練習でいくつかの新しい古代魔法を覚えていた。


しかし魔法書なしで呪文はまだうまく唱えられず、そして今、きちんとした呪文を詠唱する時間的猶予もなかった。


呪文が暴走するかもしれない覚悟をして、腹をくくった春風は呪文を唱えた。


「我、暗黒神の名において命ず!嵐の神アクアルスよ!嵐を起こせ!」

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