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春風のヒストリア  作者: モトハル
春風_神官学校編
19/61

ゴレム召喚

魔法には三種類ある。


神聖魔法、精霊魔法、古代魔法である。


古代魔法はすべての魔法の源流であるが、暗黒魔法を含むので一般にはその使用が禁じられている。


〜分校魔法クラス一回生の教科書より抜粋〜

春風の頭の中には自分が置かれている状況についての疑問がたくさんあったのだが、ソフィエの事で全ての疑問が上書きされ、何も考える事ができなくなった。


恋の魔法にかかり思考回路が停止して幸せな気分に満たされた春風は、そわそわしてベッドの上で横になっていられなくなった。


上体を起こした春風は、自分が見知らぬ服を着ている事に気がついた。


シックで洒落たデザインのその服は着心地も良かった。


周囲を見ると机と診察台があり、医務室なのだとわかった。


昔風の医務室で物珍しかったが、最も目を引くのは杖立てとそこに並ぶ杖だった。


医務室の入り口からベッドまでの壁が杖立てになっていて、それはビリヤード場のキューラックに似ていた。


十本置ける杖立てに三本だけ立てかけられていたが、中でもついさっきソフィエが立てかけた杖の存在感が凄かった。


不等間隔の螺旋形状をしたその杖は、ソフィエの背丈より大きい気がしたし、象牙のような滑らかな白さは心なしか青白く発光しているようにも見えた。


他の黒と茶の二本の杖も、大きさこそソフィエの杖よりは小ぶりだったが、作り込みも立派で高級感があった。


触ってみたい気もしたが倒したら大変そうだったので諦めた春風は、そわそわしたまま周囲を見た。


ソフィエが座っていた一人掛けの椅子の右横に小さなテーブルがあり、一冊の本が置かれていた。


その本はA4くらいの大きさで分厚く、革っぽい黒表紙に綴じてられた茶色がかった髪はところどころ破れたり欠けたりしていて、ずいぶん古めかしい雰囲気の本だった。


表紙を見ると薄れて消えかかった文字で、大元魔術書、と書いてあるようだった。


そしてその文字は漢字のように見えた。


「おおもとまじゅつしょ?」


きっと天使の本に違いなかったので見てはいけないと思ったが、重度の恋の病をわずらい倫理的思考能力が欠落した春風は誘惑に負けてその本を手に取った。


本を開きパラパラめくっていくと、どのページにも見開きで挿絵と文字が書いてあった。


漫画のような挿絵も楽しげで興味を引いたが、春風は文字に驚いた。


黒インクで書かれたエッジの効いたそれらの文字はカタカナに似ていた。


と言うより、ところどころ反転したり変形したりはしていたが、ほぼカタカナそのものだった。


本の中ほどに一際ひときわ派手な挿絵さしえのページがあり春風はそこで手を止めた。


見開きの右ページには土人形が描かれていて、人形の大きさは対比してえがかれた人間よりずいぶん大きかった。


これはもしや、と思い左ページの文章に目をやると、やはりカタカナで「ゴレム」の文字があった。


黙読した春風はその文言が厨二ちゅうに感満載で吹き出し、思わずその一文を声に出して読み上げた。


「我、暗黒神あんこくしんワーの名において召喚す。出でよゴレム、大地の我がエメスバーシア


医務室に空虚な言葉が響き、まだベッドにいた小鳥がピピッと鳴いて飛び去った。


鳥にあきれられた思いがして、恥ずかしくなった春風は赤い顔で咳払いをして本をテーブルの上に戻した。


恋で熱くなった体に羞恥の熱が加わり、春風の体はさらに火照ほてった。


汗ばんだ体を冷やそうとして窓へ行き取っ手に手を伸ばした春風は、窓ガラスにうっすらと映り込む自分を見た。


その顔がなんだかずいぶんと若くなったように見えた。


おそらく二十歳前後くらいであろう若い女の子に舞い上がり、暗黒神がどうとか、三十歳の自分が何をしているのかと春風は苦笑し、窓ガラスに映る若く見える自分の顔から目をそむけた。


窓を開け、部屋の中を手持ち無沙汰に歩いた春風の心臓が、どくんと一回大きく収縮した。


春風は苦しくて立ち止まった。


まただ。


確か猫少女の時も心臓が苦しくなった。


得体の知れない不安に駆られた春風の周囲に突如赤い光が発生した。


どんよりとした赤い光は部屋中に広がり大きな円形の魔法陣になった。


春風の心臓がもう一度大きく脈打つと、立っていられなくなった春風はその場にしゃがみ込んだ。


春風の体を中心にいくつもの円形の輪となった魔法陣には幾何学模様やカタカナのような文字がびっしりと描かれていたが、俯いたままの春風の目には入らなかった。


体がどんどん熱を帯びていき、全身から汗が噴き出した。


胸が苦しい。


体が熱い。


魔法陣の赤い光から黒い煙が立ち込めると、煙はあっという間に部屋に充満した。


体はさらに熱くなり汗だくになった春風は、時間が遅く流れている事を感じた。


魔法陣の光は黒い煙に完全にかき消され、黒い煙は春風の目、耳、鼻、口を含む身体中の穴から体内へ入り込むと、全身が電流を受けたように痺れ、激しい痛みが駆け回った。


と同時に、心の中に怒りと悲しみの感情が流入し、どす黒い怨念に包まれたような感覚に襲われた春風はたまらず絶叫した。



「ぐああぁぁぁ!」



心臓が連続して大きく脈打ち、春風の目は充血し赤くなり、凶悪な形相へ変貌していく。


医務室の黒い煙がなくなり、地鳴りがして、校庭に大きな魔法陣が出来た。


春風が声に出した呪文は土から泥人形ゴレムを生成する古代召喚魔法だった。

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