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冒険者は塔に挑む  作者: 結城 からく


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第1話 そこに塔がある

 あなたは新人の剣士だ。

 不安な面持ちで、たまに石につまずきながらも荒野を歩いている。

 緊張によるものか、あなたは何度目になるか分からない装備確認をする。


 中古品の革鎧。

 履き慣れた茶色いブーツ。

 少しサビの浮いた鉄の直剣。

 表面だけ磨いた円盾。


 あなたが少ない資金で調達した武器と防具である。

 このうち直剣だけは親の形見だった。

 まだ頼りないあなたも、格好が整うと多少は違った印象になるかもしれない。


 あなたの前方には石の建造物がある。

 上空まで延々と伸びたそれは冒険者の塔だ。

 数千年以上も前から存在すると言われているが、実際のところは誰も知らない。

 そもそも何階まであるのかも不明で、頂上は雲を突き抜けて見えなかった。


 冒険者の塔では、一階層ごとに魔物が待ち構えている。

 十階層区切りで転移による脱出が可能だが、それ以外の場所からは出られない。

 魔物に勝利すると報酬が手に入る。

 敗北は死を意味する。

 一攫千金を求める者や、己の限界を知りたい強者がこの地を訪れるのであった。


 今回のあなたは前者らしい。

 低階層で効率よく小銭稼ぎをするのが目的だった。

 それくらいなら、平凡な村人だった自分にもできると信じている。


 あなたは右手に直剣、左手に円盾を構えて進んだ。

 順番待ちの冒険者がいないことを確かめてから、塔の扉をゆっくりと開ける。

 そのまま勢いよく室内へと踏み込んだ。


 塔の一階は殺風景な石の部屋だった。

 外観の雰囲気や噂の割に大した広さはなく、階段すらどこにも見当たらない。

 天井から吊り下げられた蝋燭の炎が、室内の暗闇を誤魔化していた。


 部屋の中央には、緑色の肌をしたゴブリンがいる。

 人間の子供くらいの背丈の、魔女のような顔立ちが特徴的な魔物である。

 ゴブリンは片手に木製の棍棒を握っていた。


 あなたの後ろで扉が閉まり、自動的に施錠される音がした。

 ゴブリンが喉を鳴らし、棍棒を構えながら出方を窺っている。

 既に臨戦態勢なのは言うまでもない。


 あなたは戦闘の始まりに焦る一方、己の幸運に喜んだ。

 冒険者の塔は常に変動する。

 階ごとに登場する魔物も挑戦するたびに変わるのだ。

 一階層でのゴブリンは、初心者としては当たりの部類であった。


 あなたは盾を前に出して直剣を振りかぶる。

 そこにゴブリンが跳びかかった。

 力任せに叩き込まれた棍棒が盾を下方向に弾く。

 前のめりになったあなたは、慌てて直剣を振り回した。


 刃がゴブリンの腕を掠めた。

 たまたま当たっただけだったが、ゴブリンは悲鳴を上げて飛び退く。

 腕の傷は浅く、少し血が滲むだけに留まっていた。

 ゴブリンは怒りに顔を染めている。


 あなたは強く叫んで斬りかかった。

 この状況で戸惑っている余裕はないと理解したのだ。

 新人の冒険者としては及第点の動きであった。


 ゴブリンの顔面に直剣が突き立てられた。

 切っ先が眉間を抉り、さらに頭蓋まで貫こうとしている。

 倒れたゴブリンは、棍棒を捨てて刃を掴み、必死に押し戻そうとした。


 馬乗りになったあなたは体重をかけて直剣を押し込む。

 気味の悪い感触と共に、錆びた刃がゴブリンの頭を串刺しにした。

 傷口から血が溢れ出す。

 泡を吹いたゴブリンは、白目を剥いて痙攣し始めた。

 やがて力尽きて動かなくなる。


 あなたは直剣をこじってゴブリンの死体から引き抜いた。

 刃にへばり付いた血と脳の破片を見て、少しだけ嫌そうな顔をする。


 直剣の汚れを振り払ったあなたは、速まった呼吸を整える。

 胸の内に満ちるのは勝利の充足感だった。

 塔との戦いを制したのだ。

 たった一度だが大きな一歩であろう。


 死体のそばの床が反転して古めかしい宝箱が出てきた。

 さらに壁の一部が砂のように崩れて上に続く階段が現れる。

 どちらも勝者に対する報酬だった。


 あなたはすぐに宝箱を開いて中身を見る。

 ガラスの小瓶に入った青い液体と銅貨が数枚。

 小瓶の臭いを嗅いだところ、あなたは故郷の薬草を連想した。

 どうやらそれは回復薬らしい。

 あまり質の高いものではないだろうが、この場においては貴重なアイテムである。


 あなたは回復役と銅貨をポケットに入れて階段を上がった。

 すぐに二階が見えてきた。

 今度も殺風景な石の部屋だが、先ほどと違って魔物すらいない。

 中央にはぽつんと宝箱が置かれている。


 それを見たあなたは歓喜した。

 ここは当たりの部屋なのだ。

 魔物との戦闘を抜きにして、ただ報酬だけが貰える時があるのだと聞いたことがある。

 塔もただ難しいわけではないのだった。


 あなたは宝箱に駆け寄ろうとして、足元が沈む違和感に気付く。

 ごとん、と何かがずれ落ちる音がした。

 直後に壁の小さな穴から複数の矢が放たれた。


 あなたは胸は腹や首に矢を受けた。

 報酬に夢中になったあなたは、もう周りが見えていなかったのである。

 仮に警戒していれば、丸盾で致命傷だけは防げたかもしれない。


 あなたは苦痛と後悔に苛まれながら倒れた。

 大量に血を流して、四肢の末端から凍るような感覚と共に目を閉じる。

 あなたは矢に射られて死んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか1980年代に流行った某有名ゲームブックを読んでる気分になりました。 [気になる点] ……いきなり「14に行け」? [一言] 続きを気にしながら待ちます。
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