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いにしえの獣  作者: 明日香狂香
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40/49

母

 カナタの心《こころ》が闇《やみ》に耐《た》え切《き》れず、憎《にく》しみの淵《ふち》に沈《しず》もうとした時《とき》、急《きゅう》に暖《あたた》かな感触《かんしょく》に触《ふ》れた。それは、幼《おさな》いときに感《かん》じた懐《なつ》かしい温《ぬく》もりだった。不思議《ふしぎ》と落《お》ち着《つ》いた。カナタの心《こころ》は赤《あか》ん坊《ぼう》のころに戻《もど》っていた。


 ユナの優《やさ》しい笑顔《えがお》とその腕《うで》の柔《やわ》らかさ。背中《せなか》の温《ぬく》もり。すべてが、幸《しあわ》せだったころの出来事《できごと》だ。お弁当《べんとう》を持《も》って野原《のはら》へも行《い》った。鳥《とり》のさえずりや川《かわ》のせせらぎを聞《き》いた。歌《うた》が聞《き》こえる。そうだ、よく母《はは》が歌《うた》っていた。


 カナタの心《こころ》はさらに過去《かこ》に戻《もど》っていった。

「この子《こ》に名前《なまえ》をつけなきゃね。」

母《はは》の声だ。

「どこにいても私《わたし》たちの心《こころ》が側《そば》にいられるように。カナタ。」

 そうだ、父《ちち》、ゲノがつけてくれた名前《なまえ》だ。

「いい名前《なまえ》ね。カナタ。よろしくね。」

 母《はは》、ユナのキラキラと優《やさ》しく愛情《あいじょう》に満《み》ちた笑顔《えがお》が目《め》の前一杯《まえいっぱい》に広《ひろ》がる。

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