尊敬できる女性
学校も冬服に変わり、風も秋の風から、冬の風に移り行く時期。街のお店にブーツやコートが並びだす。
外国にある雑貨店を意識しているような白の壁に、青い屋根をしたお店の前で足を止めた。英語のプレートを一瞥し、お店の前の椅子の上に置いてある花弁がたくさんついた白い花を見て目を細めた。店のショーウインドウには白いコートに、スカートとニットが合わせて、足元には茶色のブーツが置いてある。
秋物の洋服は春や夏に比べて落ち着いた色合いやデザインなども好み物もが多く、見ているだけで楽しくなるものだった。満足して、家に帰ろうとしたときだった。
「安岡さん?」
通る声につられて振り返ると、宮脇先輩の姿があった。
彼女は買い物をしてきたのか、小さなビニール袋を持っていた。
「お久しぶりです」
「そろそろ冬物の時期だね」
わたしが見ていた洋服をちらっと見ると、宮脇先輩は笑顔を浮かべる。目の前の洋服を彼女が着ているのをイメージし、彼女であればどんな洋服も着こなせそうだと納得する。こうした少し甘い洋服だけではなく、かっこいい感じの洋服もオーダー服のように彼女に似合ってしまいそうだった。
二人は幼い頃と同様に一緒に過ごしていくのが羨ましかった。わたしや他の子のように離れるから告白しないといけないという気持ちも皆無なんだろう。
「安岡さんは稜の隣の家に住んでいるのよね?」
「はい。そうです」
「夏休み、稜の家に遊びに行ったけど、見晴らしがすごくよくて驚いちゃった。いいよね」
わたしはその言葉にドキッとする。
夏休みが明ける少し前に、宮脇先輩が先輩の家に入っていくのを目撃したのだ。
そのあとすぐに依田先輩も来て、二人きりでなかったことにほっとしていた。
「花火とかも見られるんですよ。もう少し高かったら、もっとよかったかも」
「そっか。花火も見られるなんて便利だね。今から帰り?」
わたしが頷くと、彼女は一緒に帰らないかと誘ってきた。
わたしは彼女と一緒に帰ることになった。
「安岡さんって弟さんがいるの? 稜に聞いたんだけど」
少し首を傾げ、わたしに問いかけた。
「いますよ。今、小学校六年です」
「そうなんだ。わたしも弟がいるんだ。今、中二」
そこまで言って宮脇先輩は首をかしげる。
「同じだね」
理解できないわたしに彼女は笑顔で答えた。
「年齢差。四歳差だから。でも、わたしにはお兄ちゃんがいるから、違うといえば違うんだけど」
宮脇先輩のお兄さんに弟さんの話を聞いて、やっぱり二人とも顔が整っているんだろうなと思ったのだ。
「弟さんって好き嫌いあったりする?」
「裕樹はほとんど好き嫌いないですよ」
文句を言ってくれたほうが可愛げがあると思うくらい自分の意志を明確には出さない。
「そうなんだ。偉いね。わたしの弟は好き嫌いが多くて困っているんだよね。来年からは弟に家事を頑張ってもらわないといけないから、あまり好き嫌いは困るんだよね。それを結構悩んでいて。嫌いなものって作らないよね。なかなか」
「家事って、先輩が家事をしているんですか?」
「そうだよ。わたしの家、お母さんがいなくて、お父さんは忙しい人だし、お兄ちゃんは今は働いているけど、昔から不器用で中学に入った頃からわたしがしているの」
宮脇先輩は笑顔を浮かべていた。
「無神経なことを聞いて、ごめんなさい」
「そんなことないよ。わたしも言ってなかったし、不思議に思うよね」
今のわたしよりも三歳も下の頃から料理をやっていたということに戸惑いを隠せないでいた。
「弟さんが嫌いなものって何なんですか?」
「きゅうりやピーマンとニンジン。野菜が嫌いなのかな」
「ニンジンって結構食べますからね」
「そう。本人は大丈夫って言うけど、いまいち信用できなくて」
あまり厳しい顔をしない先輩がそんなことで、眉をひそめていることが、なんだか微笑ましかった。
宮脇先輩の家ってどんな感じなのか興味がある。ただ、彼女の表情の節々から仲のいい家族なのではないかという気がした。
目の前の信号が赤になり、足を止めた。
手のだるさからわたしが持っていた荷物を持ち替えようとしたときだった。
「荷物、一つ持つよ」
先輩が指差したのはわたしの持っているビニール袋と、今日誕生日の弟に買った誕生日プレゼントの時計が入った紙袋だ。
「大丈夫ですよ」
「でも、荷物が多いから持ちにくそうかなって」
「大丈夫ですよ。そんなに荷物は重くないから」
だが、宮脇先輩はしきりにわたしの荷物を気にしていた。だが、重い荷物を持ってもらうのは忍びなく、弟への誕生日プレゼントの入った紙袋を先輩に渡した。
「これをお願いします」
彼女の細い指先が、紙袋に通されている紐に絡む。
「無理に持つと言ってごめんね」
わたしは彼女の言葉を否定しておく。
そのとき、車の流れが止まり、信号が赤から青に変わる。
「今日、弟の誕生日なんです。何がいいか分からないから時計を買おうかなと思って。この前、時計が壊れたと言っていたから」
「そうなんだ。男の子って何をあげていいか分からないよね。毎年迷うから。そんなに高いものは無理だもんね」
宮脇先輩はいつも優しく先輩のいうような過去があったということを感じさせなかった。今も受験で忙しいはずなのに、わたしのことを気遣ってくれる。そんな先輩はわたしの憧れだった。高校に入って半年以上が経つがいまいち成長できたとは思えない。ただ、少しずつでもそんな宮脇先輩のようになりたいと思ったのだ。
視界の隅にマンションが移る。その前まで来ると彼女は荷物を渡してくれた。
「ありがとうございます。わたしにできることがあったら、何でも言ってください。いつもお世話になってばかりだから」
彼女はしばらく考えると、明るく言い放つ。
「じゃ、一つだけお願いしていい?」
「何ですか?」
「わたしも真由ちゃんって呼んでいい?」
そう言ったときの先輩の頬はわずかに赤く染まっていて、すごく可愛かった。
「無理にじゃないの。無理ならそう言ってくれればいいから」
わたしが戸惑って黙っていると、先輩はそう付け加えた。そんな先輩の動揺した様子に少しだけ笑う。
憧れの対象だった先輩のそんな姿に勝手に親近感を覚えていた。
「いいですよ」
「ありがとう」
宮脇先輩と別れを告げ、別れた。
わたしは遠ざかっていく宮脇先輩を目で追っていた。
先輩の彼女だったとか、同じ大学に行くとかそんなことがどうでもよくなるほど、彼女は魅力的な人だと思ったのだ。先輩の好きな人が彼女ならすごく分かってしまうし、敵わなくても仕方ないと感じたからだ。
憧れてばかりで羨ましく思うばかりではなく、少しでもわたしもそんな風になれるように、しっかりするようにしないといけない。
決意を新たにし、中にはいって行こうとしたときだった。
「何、ボーっとしているんだよ」




