休日の買い物
春の風は湿気を帯びたものに変わっていく。ここ最近は雨が降ることも多かったが今日は明るい光が窓辺から差し込んでいた。
黒のマーメードスカートにピンクのカットソーを着た自分の姿を鏡で確認する。今日は咲と愛理の誕生日プレゼントを買いに行くことになっていたのだ。髪の毛がはねていないか確認し終わったとき、タイミングよくメールが届く。咲から下についたとのメールが届いたのだ。
エレベーターを降り一階まで行くとバッグを手にした咲の姿があった。彼女の細い体がふわりとした茶色をベースとしたチェックのワンピースに彩られていた。足元には濃い茶色のサンダルがアクセントを与えている。髪はいつも通りに下ろしているが、それでも目を引く可愛さだった。
「可愛い」
「この洋服、安かったんだ」
彼女はスカートの裾を右手で軽くつかむと、洋服を褒められたと勘違いしたのかそう笑顔で答えていた。
本当は咲がと言いたかったが、あまりしつこく言うことも気恥ずかしく、それ以上は言わないことにした。
わたしたちは歩き出す。もう目的地はおおまかに決まっていた。咲によると、この前依田先輩と偶然会ったお店の近辺がこの辺で一番可愛い店が揃っているらしいので、そこで買い物をすることになったのだ。
お店のある通りに入ると一気に人の数が増える。同時に人の視線が集まるのを感じていた。最近よく感じるようになったわたしでない誰かを見ている周囲の視線だ。
男女問わずに視線を集めている本人は、涼しい顔で時々お店のショーウィンドウの中を観察している。慣れなのか、気付いていないのか。いつもと変わらない彼女の様子に思わず聞いてみたくなった。
「何か感じない?」
「何?」
咲は自分の腕を見て、周りを見る。眉をひそめていた。
「体調が悪い? 買い物は今度でもいいよ」
心配そうに聞いてくる咲に逆に申し訳なくなり、その場を誤魔化すと、適当なお店に入ることにした。
周りに気を使うタイプなのに、自分に関することだけは謀ったように鈍いというのが不思議になってくる。
人は自分への視線だと鈍くなってしまうのだろうか。
そんなことを考えるわたしとは異なり、咲はショーウィンドウ越しに愛理のプレゼントを買う店を厳選しているのか店の中に時折視線を送る。その彼女の足が止まる。
「ここはどう?」
店内を見渡すと、様々な小物が並んでいるのが一目でわかる。わたしたちはその店の中に入ることにした。お店の中に綺麗に並んだティーポットを咲は嬉しそうに見つめていた。
そんな彼女が手にしていたのは可愛い花がプリントされたティーポットで、愛理よりも咲に似合いそうなイメージだ。
「シンプルじゃないよね」
「そうだね。モノトーンのほうがいいかも」
彼女の誕生日プレゼントにほしいものとして聞き出したのがティーポットで、できるだけシンプルなものがいいと言っていたのだ。ほかは物がたくさんはいるバッグでもいいらしい。
彼女は今度は別のピンクのものを手にとって吟味していた。わたしも商品を探そうとは思うが、視線を感じ動きを止める。
彼女は店員や他のお客さんからも注目を集めており、周りの視線を集めながら妹のプレゼントを選んでいた依田先輩のことを思い出し、思わず笑ってしまっていた。
そんなわたしを咲は不思議そうに見る。
「この前といっても一ヶ月程前だけど、依田先輩が愛理のプレゼントを買いに来ていたんだ」
咲が少し目を丸め、わたしを見ていた。
「どこで会ったの?」
依田先輩の買ったものに興味があったのか、いつもさらっと流す咲が珍しく食いついてきた。
「後で寄ってみようか。財布を買っていたの。でも、一応愛理には内緒ね」
咲が笑顔で頷くのを確認し、まずは愛理の誕生日プレゼントを選ぶことにした。
バッグでもティーポットもどっちもそれなりにいいのがあったが、最終的にティーポットを選ぶことにした。
わたし達は悩んだ末、ティーポットに決める。好みや持っている洋服に影響されそうなバッグは選びにくかったからだ。
買い物を済ませた後も咲は興味深そうに名残惜しそうに店の中を見渡していた。
食器や家具などを売っているお店だけど、他にも文具やキャンドルなども売っていたりする。咲はそっちのほうに興味があるようだった。
「まだ時間があるし、ゆっくり見ようか」
わたしの言葉に咲は驚いていたが、目を細めて頷いていた。
「気を遣わせてしまってごめんね。わたし、こういう店に入ったことなかったんだ。だから面白くてつい」
「そうなの?」
「買う予定がないのにあれこれ見ていたら悪いかなって思うとなかなかね。それにこういう店に入るのって少し場違いな気がしてしまうの」
高校に初めて入ったときも違和感があるように、そうしたお店に入ることは慣れていないということなのかもしれない。
「気にしなくていいと思うよ。たまに学校帰りでも少し遠回りして見に行こうよ」
咲はわたしの言葉に少し驚いていたが、何度も頷く。
わたしから見ると咲は完璧な人に見えた。だが、どこか控えめで、不器用なところがある気がした。目を輝かせながらお店の中を見ている彼女を見ていると、いつか彼女がわがままを言えるようなそんな関係になれたらいいなと思ったのだ。
お店の中を一通り見学し終わった後、依田先輩に会ったお店に行く。咲は戸惑ったように店の中を見つめていた。興味があるけど入れないって顔をしている咲の腕をつかむ。
「入ろうか」
渋る咲を説得するために言い聞かせる。
「平気だって。お店の中にいっぱい人がいるし。半分くらいは買うつもりがなくて見ているだけだと思うよ」
「そうなのかな」
半信半疑な咲を説得するためにそうだと言い聞かせた。見ているだけでお店から出て行く人もいるし、お店側もそんなものだと思っているに違いないとおもったからだ。
わたしは咲を説得し、お店の中に入る。彼女はビーズなどのきらきらと輝くものに目移りをしているようだった。咲に似合いそうなレースの髪飾りに手を伸ばすと、咲がそれを覗き込む。そんなわたし達の近くを同じくらいの年頃の子が通り過ぎる。
「清枝が学校帰りに知らない人から手をつかまれたんだってさ」
「それって、本当だったんだ」
「まだ明るい時間帯だったから大丈夫だと思ったんだけど」
二人はそんな言葉を残し、店の外に出て行く。
わたしと咲は髪飾りのことを忘れ、顔を見合わせていた。
「あれって本当なのかな」
咲が心配そうな顔をする。
そういう話の信憑性がどの程度あるのか分からないが、最近、この辺りに不審者が出没するという話は最近ちらほら聞き学校でもそうした注意がされていた。
「そろそろ帰ろうか」
どちらからともなく出て着た言葉に互いに頷く。今は五時を回っていた。まだ外は明るいが、そんな話を聞いた後に遅く帰ることは気が咎めた。
家まであと少しとなったとき、背後から声が聞こえた。
「安岡?」
その声に振り返ると、先輩が立っていた。




