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発達障害

 先日、おかきよしの生涯を奥さんの視点で描いたテレビドラマを見た。


 いやぁすごいねぇ… 俺よりすごくて、思わずニヤニヤしちゃったよ。「ニヤニヤしない!」ってカミさんに窘められちゃったよ。


 世界最先端の難問を解決して現代数学の発展の礎を築くなんて偉業をたった1人で成し遂げた大天才だ。すごいに決まってるんだけどさ。俺なんか足下にも及ばないっていうか、比べようなんておこがましいにも程がある。それはわかってる。でもね、そこじゃない。そこじゃないんだ。


 岡潔、その奇行の数々。ドラマだから多少の演出や誇張はあるだろう。それにしても…である。妙な言い方だが、変人ぶりには俺にも自信がある。俺より奇行が目立つ奴も…まぁ、いるんだけどさ。ほら、傾向と言うか、ジャンルと言うか、あるよね?これだけ俺と同じ匂いがして俺よりすごいってのは、なかなかお目にかかれないんだよなぁ。うん、奇行自慢もどうかと思うけどな。


 俺は、発達障害だ。発達障害って知ってるかな?最近は割とちょくちょく話題になるよね。どっかで耳にした事くらいはあるんじゃないかな。ま、無責任な掲示板の噂話なんかだと、ロクな話になってないけどさ。


 一言で発達障害と言っても、一括りにまとめて論じられるもんじゃない。一人一人みんな違うとも言われている位だ。それでもそれなりに分類みたいなものはできている。特に最近は脳科学と結び付いて、ものすごい勢いで研究が進んでいる。


 俺の場合は、わかりやすい言葉に翻訳すると、過集中と注意欠陥と多動と情緒不安定の併発らしい。普通のルールで診断すると、診断名はアスペルガー症候群になるんじゃないかな。この辺はルールが時々更新されたり、アメリカと日本ではルールが違っていたり、当事者にとっては診断名に意味が無かったり、医者のルールと行政の都合との間で温度差を感じたり、医者の間でも捉え方が違ったり、ま~とにかく訳がわからなくてね。


 一般人にしてみれば、はぁ?だから?って首を捻りたくなる話題だろう。そんなネタを取り上げたのにはワケがある。俺が思うに、発達障害に関する知識は個性についての理論的背景を与えるんだ。個性はどこから来るのか?行き過ぎた個性は何を齎すのか?とかね、小説を書くなら考えた事があるんじゃないかな。


 個性的な登場人物の絡み合いは小説の大きな魅力だよね。小説を書く側に立つならば、個性とそれに基づく言動を考えるのは極めて重要な作業の一つではなかろうか。そして個性にも流行のテンプレってものはあるだろう。テンプレをなぞれば労せずして人気者を用意できる。しかし流行を追いかけるだけでは、どうしても底が浅くなる。一山いくらの有象無象の作品群に埋もれてしまうんじゃないかな。


 そんな時に発達障害の知識があれば、多様な選択肢を検討できるんだ。どんな個性が存在するのか?どんな問題を引き起こすのか?長所は何か?そういった疑問には既に答えがあるんだよ。正確には、答えを集めて体系化してる真っ最中と言った所か。


 そうだな、例えば… 頑固な職人気質は、過集中の発露の一つだ。ぽやぽやしたおっとりちゃんは、注意欠陥の可能性が高い。落ち着きの無いお騒がせ野郎は、多動なんだろう。泣き虫は、情緒不安定なのかも知れない。


 これらは自閉症スペクトラムと呼ばれる中での一群の形質だ。そこから派生する性格には、他にも様々なものがある。猫の集中力、忘れっぽい、視覚優位の記憶、極端に信心深い、衝動的な行動、攻撃的な性格、遅刻が多い、マイナス思考、無気力、理屈屋、夢想家、などなどなどなど。


 一般的には発達障害には含めないが、脳機能の問題という観点から一緒に考えたいものもある。パニック障害とか、学習障害とか、協調性運動障害とか、感覚過敏とか。ちょっとした切っ掛けで過呼吸の発作を起こしたり、テストでいつも0点のいじめられっ子だったり、皿を割ってばかりのドジっ子メイドであったり、それほど熱くないお湯でもヤケドしそうに感じて風呂嫌いになったり。


 そんなあれこれが心の傷と結び付いちゃったりすると厄介だ。拗れるってヤツだな。リアルだと周りの苦労は察して余りある訳だが、小説なら格好のネタになるんじゃないかな。興味本位でほじくったりすると、心の闇に引き摺られて大変な事になるんだけどさ。


 障害に起因したイジメや極端な躾から心に傷を負う事を、二次障害と言う。育児で気を付けなきゃいけないのは、この二次障害を防ぐ事だろう。俺の場合は非常に幸運だった。二次障害はほとんど無い。親を始め、人との出会いに恵まれていたからだと思う。それに自分の性格は自分でかなり正確に掴んで、おおよその事には自力で対策してきた。何を隠そう、コーピングの帝王とは俺の事だ!ま、問題が色々残ってるのは認めるがね。


 残ってる問題の一つ、人の心がわからない。発達障害の当事者に対して総じて言われるのが、共感できない・共感してもらえないって話。こいつはかなり深刻な問題だな。なぜなら人間の幸せに直結するから。


 幸せとは何か?百人に聞けば百通りの答えが返って来ると思うでしょ?実はこれ、科学的な解明が進んでる。幸せとは金銭や地位に無関係で、人間同士の関わり合いにある事が明らかになっている。偉そうな宗教家が知った風な事をしたり顔で上意下達した言葉じゃないよ。人生の大規模な追跡調査で客観的に分析した結果だ。要するに統計から導いた結論だから、たまには孤独を愛する人物ってのもいるんだろうと思うけどさ。言っとくけど、孤独が好きだと言いながら、社会はもっと俺を認めるべきだなんて愚痴をこぼしてるような輩は、自己分析が足りないよ。うん、それも小説のネタになるな。


 そういう訳だ。他者との関わり合いが苦手でも、孤立して良い訳じゃない。コミュニケーションが苦手な人間にこそ、周りが手を差し伸べる必要があるって事だ。


 そう考えると、岡潔は幸せだったと言えるのかも知れない。奥さんが最大の理解者・支援者になってくれて、少数ながら友人も居て、研究は欧米で大いに認められて。ものすごく苦労したんだとは思うけどさ、苦労と幸福とはまた別物だからね。


 カミさんが呟いていた。「あたしはこんなのとは絶対一緒になれないわ…」そうだろうな。苦労がイヤだってんじゃない。カミさんも発達障害で、得意と苦手が極端だからな。カミさんに聞いてみた。俺と一緒になってどうだ?来世に生まれ変わったらってドラマで会話してるけど?「来世?絶対ヤダ」即答。女は子を産むと強くなる。夫婦なんてこんなものか。恋人時代はねぇ… まぁ、愚痴ってもしょうがない。熟年離婚なんて事にならないように、せめて俺に出来る事を頑張ろう。

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