【番外編】12.“社交界の魔性の女”と呼ばれた令嬢
.
妊娠が発覚してから数ヶ月後。
未だにお腹の子の父親は自分だと名乗り出る令息たちはエククレム子爵に任せ、アナベルは元気な男の子を産んだ。
「良かった……良かった……」
母子共に無事なことを確認し、アナベルの手を握りながら泣きじゃくるマルク。
産まれたのが嫡男だと分かると夫人は放置されることがあるが、マルクは邪魔にならない程度にアナベルの側を離れなかった。
産まれたばかりの息子を気に掛けて欲しいと思いつつ、アナベルはマルクが自分を優先してくれることが嬉しかった。
アナベルは息子を“ラキ”と名付けた。
子の名付けは父親か祖父が決めるのが多い中、アナベルが名付けることを反対する者はいなかった。
アナベルは周りに頼りながら子育てを頑張ろうと意気込むのだった。
「マルク殿。お前には“血の審判”を受けてもらいたい」
「!」
数日後、ハネスト男爵邸へ訪れたエククレム子爵がアナベルとマルクに告げた。
「そんなお父様……」
「勘違いするな。マルク殿もエククレムの人間も誰一人、お前の托卵も不貞も疑ってはいない。お前はマルク殿にべた惚れでマルク殿以外の男が眼中にないのも知っている」
「じゃあ、どうして……」
分かっているのにマルクへ“血の審判”を受けろというエククレム子爵に、ショックを隠せないアナベル。
“血の審判”とは産まれた子が実子かどうかを調べられる制度だ。
教会で父子の血を一滴ずつ専用の器に滴して、交ざり合うかを確認するのだ。
父子の血が繋がっていれば“半分”交ざり合うが、血が繋がってなければ絶対に交ざり合うことはない。
貴族夫人が“公認愛人”の子を夫の子と偽って産む可能性があるため、作られた制度だった。
だが、“公式”の場で“血の審判”を利用する者は少ない。
「ラキの父親だと名乗る令息たちが跡を絶たないんだ。高位貴族から“公式”の場で“血の審判”をしろとお達しが来た」
「なんですって!?」
高位貴族は伯爵からで、下位貴族であるエククレム子爵とハネスト男爵では逆らうことができない。
「分かりました」
「マルク!?」
「“公式”の場での“血の審判”、お受けします」
アナベルが取り乱しそうになる中、マルクは冷静に答えた。
「エククレム子爵の言う通り、僕はアナベルの不貞も托卵も疑ってません。だけど、このままではアナベルはずっと社交界で言われ続けます。それにラキを巻き込みたくありません。“公式”の場ではっきりさせましょう」
「!」
マルクは父親の顔をしていた。
「アナベル。君の潔白を晴らすために、ラキから血を採取することを許してほしい」
「………」
いつもならマルクは慌てふためいて、アナベルが宥めているが今は逆だった。
「………分かったわ」
「!」
「私はなんて思われてもどうでもいいけど、ラキに関係するのよね」
「うん」
「マルクも血を採取されるけど良いの?」
「そんなのへっちゃらさ。アナベルのためならいくらでも血を差し出すよ」
「マルク……」
「こほん。続きは私が帰った後にしてくれるか?」
「っ、すみません」
エククレム子爵がいるのに、いちゃつこうとしていたマルクとアナベル。
「私から承諾の返事を出す。日時は分かり次第すぐに伝えるからどんと構えてなさい」
「分かりました。お願いします」
「どれ。帰る前に可愛い初孫に会いに行くかな」
「ラキは寝ていると思います」
「顔を見るくらい良いだろう。そういえば、前ハネスト男爵はラキに会えたのか?」
「いえ、まだです。時期を見て、父の元にラキを連れて行こうと考えています」
「そうか。前ハネスト男爵も初孫だからラキに会えるのが待ち遠しいだろうな」
「そうだと嬉しいです」
話が終わると、寝ているラキの顔を見てエククレム子爵はデレデレしながらエククレム子爵邸へ帰ったのだった。
.




