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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
味の旅人
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32/32

お一人様 王都観光 露店編

 列に並んだ時の十数人が進み、私の番になり、店内に入った。

 選ぶ料理は既に決めている。看板にも売りとして書かれていた逸品を、席に来た店員に注文する。

「お待たせしました。こちら、塩野菜パスタです」

 ほどなくして運ばれたのは、その名の通り、王都で出回っている野菜を具とし、一本一本が細く長い食べ物。聞いたけれど忘れた名前の植物を粉にして練って作ってるとかいないとか。

 私は、一番食べやすそうな青々とした野菜にフォークを突き立てた。

 口の中に運べば、料理名の通り、舌で感じる塩の味。

 でも、私が食べなれた樹塩よりもトゲトゲしい。王子が悩まされたケーキの甘さように塩気が強すぎる。いつまでも舌に残っているその強さを弱めたくて、水に手が伸びる。

 朝の一発目からこの塩気は私には受け入れられないと思った。

 次は未知の存在であるパスタ。フォークですくってみる。けれど、隙間に挟まらずに落ちていく。うん、食べ難そうだ。でも、そんなのは並ぶ前に中の様子を確認した時は分かっていた。

 ただ試してみたかっただけだ。やってみて、これは無理だと分かったら、次は覗かせてもらった人の食べ方を真似てみる。

 フォークをパスタに垂直に立て、くるくると動かしていく。するとパスタが巻き取られ、口に運びやすい大きさになった。なれない動作で少し戸惑ったけれど、形になったそれをパクリと口の中へ。

 パスタだけでは味気ない。微かに塩気を感じるのは、野菜の味がパスタに僅かに残ったせいだろうか。

 それぞれだけで食べてみた感想だけれど、個別では通う気にはなれない味だ。

 じゃあ、外れを引いたのかとがっかりするにはまだ早い。

 やり方を試し、理解した私は、まずパスタをフォークに巻き付け、逃げないようにと野菜を突き刺した。

 今度はそれを一緒に口の中に運んだ。

 するとどうだろう。濃すぎる野菜の塩気がパスタで程よい塩気に感じるようになった。

 先ほどまで寄っていた眉間のシワが解されていた。

 これから汗水流して働く体に、確かな力をくれる。

 まあ、私は働いてないけど。

 どちらかだけでは駄目だった。両方を食べて初めて完成される一皿だった。

 そこからはその食べ方であっという間に食べきってしまった。

 うん、感じたままに入って良かった。満足してお店を出る事が出来た。

「ああ、美味しかった。あのパスタっていうの、何で作られてるんだろ」

( 小麦です。粉状にした物を練り、あの形にしたのです)

「そうそう、その名前の。へぇ、凄いねぇ」

 答えてくれてスッキリしたけど、私はその小麦という物を知らない。

( まだ市場が開かれています。朝市なので、そちらへ向かうと良いでしょう)

 現物を見た方が一番と百科事典。まだお店巡りをしたい気持ちはあったけれど、それをやっては朝市が終わるか、行けても良い出会いが出来ない。

 だから次の目的を朝市巡りに変更した。

 とは言っても場所を知らない。その時、数組の親子を見つけた。

 王都に暮らす家族は、朝一で朝食の材料を仕入れると聞く。

 それを思い出した私は、こっそりと後を付けさせてもらった。

 そのおかげで到着する事が出来た朝市は、朝も早いというのに至る所から客寄せの声が聞こえていた。

 母は買い出し、子は荷物持ち。父は火起こしなんて分担なのか。まだ下積みの歳ではない子どもと母親の姿が目立つ。

 村での私の生活時間は、王都の平民とそんなに変わらないみたいだ。

 ただ、ここの方が買い出しと調理する分の時間だけ朝食が遅い。

 村じゃどこの家も食料が既に家に在って、メシイモを焼くか茹でるかの二択が基本だからお手軽だ。

 どうやら一日の始まりを知らせるラッパは、朝市や平民用の食事処の開店を知らせる意味合いの方が強そうだ。仕事はこの時間からでなければしてはいけない、みたいな感じの。

(王都ではラッパよりも前に開店させる、市場で売り買いをするという事をしていけません。破った場合は罰金として一日の売り上げを徴収されます。監視付きなので誤魔化す事は出来ません。買収しようものなら、監視者と共に一年の無給労働を強いられますから)

 想像よりも罰が重い。まあ、そうでもしないとどんどんお店を開く時間を前倒しにしてしまうからなのだろう。

 さてと、私も小麦を探しつつ、食べ物系の出店を回ってみましょうか。

 粉って言ってるんだから、粉を扱っているお店を気にしていれば見つかるでしょ。。

 ちょっとした冒険。いや、この場合は宝探しになるのかな。

 見つけられるかどうかのドキドキも醍醐味の一つだ。

 今回は新発見もあるだろうし、どう転んでも徒労にはならないのも良い所だ。

 人が詰まっているから進めない分、通り過ぎるまでの間に品物を確認するだけの時間もある。ある意味で良く出来た混雑さだと思っていたら、複雑な香りが鼻の中に入ってきた。

 どこからするのだろうと嗅ぎ辿ると、前の方らしい。

 私は、その香りのするお店の前まで来ると、列から抜け、店の主に声をかけた。

「すみません、ここは何を扱っているお店なんですか?」

 呼吸と一緒に鼻が動く。見れば色んな色をした粉が小瓶に詰められて並んでいた。

 もしかして、これが小麦だろうか? 早速当たりを引いたのかもしれない。

「いらっしゃい。ここは香辛料屋だよ」

「香辛料?」

 視線を落とし、改めて品を見る。瓶一つから売られているらしい。

 しっかり蓋をされているみたいだけど、それでもこのお店から匂いがする。

 一つ一つが強烈な個性を放っているのかな。

 それに、村では透明な瓶なんて滅多に手に入らないから、小さいとはいえ沢山ある透明瓶を見ると、王都に居る事を実感する。

「お姉さんは香辛料を知っているかい?」

「初めて聞いたわ。調味料とは違うの?」

「調味料の中の一種だよ。使うと匂いとか辛味とかを付けられるんだよ」

「へえ。私の住んでる所だと言葉一つで纏められてたから知らなかったわ。目移りしそうなほど種類があるけれど、ここに並んでいる全部がそれぞれに味とかが違うって事?」

 百科事典から香草を教わるまでは、料理で使うのは樹塩くらいだったし、後は全部素材の力だったから、こんなにも食を彩る物がある事に驚く。

「そうだね。味が違ったり、効果が違ったりするんだ」

 効果? 効果って何? そんな疑問が浮かんだけど、それよりも私の頭の中で大きかった事がある。

「……これ、フドクルさんに渡したらどうなるだろ」

 つい呟いていた。

 彼女は調味料の乏しい村で十分に美味しい料理を作ってくれた。という事は、この香辛料というのがあれば、更に美味しくなるという事。

 ううん、絶対に美味しい物を作ってくれる。結果、村を活気づかせる。

 これ絶対にフドクルさんが喜ぶやつだ。うん。それで、私も後で美味しい思いが出来るやつだ。

 色んな算段をした結果、私は決めた。

「全種類、三つずつください」

「お姉さん、正気かい?」

 お店の人が本気で信じられないという顔をしていた。全種類だから量は確かに多いけど、市場ってこういう買い方をするものじゃないの?

 私が疑問に思っていると、お店の人が察して答えてくれた。

「いいかい。ここにあるのを全部買うとそれなりな金額になるんだ。お姉さんはそれを支払えるだけのお金を持っているのかい? お付きの人は?」

 お付き? そんな人は居ない。でも分かった。払えるか分からない相手だから疑っていたんだ。

「安心してよ、おじさん。お金は持ってるから。で、いくらくらい?」

「銀貨二十枚だ」

 お財布である袋の重さと膨らみからして、その金額を払っても余りある財力。そこに問題は何もない。

「買うわ」

 袋から銀貨を取り出し、店主に渡す。

「おいおい、どうかしてるぜ」

「これは銀貨よ? それくらい間違えないけど」

「そういう意味じゃない。一言さんがふらっと表れて買うようなもんじゃないんだよ。見た所、料理人でもないんだろ?」

「ええ、その通りよ。これはお土産と自分用なの」

「土産用なのは良いとして、お姉さんが自分用?」

 何が引っかかっているのかまるで分らない。

「おじさん。私の目を見て。こんなに綺麗な目の人間が、今日初めて立ち寄ったお店の人に嘘を吐くと思う?」

 睡眠だけはしっかり取れている目を近づけて問いかける。

「いや、綺麗さだけで判断なんか出来ないよ。俺にはすさん……いや、疲れた人の目に見えるぞ。とにかく巻き込まれてしまうような奴の目だ」

 逆にどんな目だっ!! と聞きたくなった。私、そんなに疲れた人なの? まだ若いし、父さんみたいに体にガタが来てないから大丈夫だと思ってるんだけど……。

 お店の人の発言が、私は若くないと言われているようで動揺を隠せない。

「あ~、分かった分かった。俺の負けだ。疑って悪かったよ。お詫びと大量に買ってくれるお礼にとんでもねぇのをやるよ」

「と、とんでもねぇの?」

 お店の人の言葉遣いにつられて聞き返す。

「ああ。すごいぜぇ、これは。使えば一発で吹っ飛ぶぜ」

 それって確実に危ないものでは? 香辛料というか、食べる物でその表現は絶対におかしいと思うもの。

 商品を置いている台の下から中身の見えない小袋を取り出してきた。

「これだよ、これ。って、分からないよな」

「うん、全く」

 そう答えると、お店の人は周囲を確認してから顔を近づけろと私に指で指示した。これに従い、近づく。

 するとお店の人が小声で言った。

「シリカラヒデターだよ」

 うん、やっぱり分からない物だった。これは買っちゃダメそうな気がする。

「おじさん。それは要らないから、頼んだのだけお願い」

「あー、待った待った。これ、危ないのだと思ってるでしょ」

「うん。疑われたくない」

 だから早くして、と求める。

「違う、違うんだよ、お姉さん。これはね、合法。でもね、刺激を求めて使いすぎちゃう人がいるから、こうしてるんだよ」

 疑わしい。まだ疑わしい。

「さっき、食べ物には使わないような表現をしていたじゃない」

「ん? ああ、あれか。いや、実際、なるんだよ。突き抜けるぜぇ。へっへっへ」

 お店の人の様子が段々と怪しくなる。市場の人ってこんな感じが普通なの?

 ここで百科事典が口を開いた。

( ただのとても辛い味付けになるものです。己の体の限界を求めるように探求、追及する者がいるため、彼は慎重にしているのですよ)

 何がどう転んでか分からないけれど、認められてしまったらしい。

 それを嬉しく思うかは置いておいて、一つの疑問が生まれた。

 なんでこの人は段々と雰囲気が怪しくなるのだろう。

 これについて、百科事典は答えてくれた。

( 彼もまた、この香辛料の虜だからです)

 歯止めをかける立場にある存在が、その魅力に取り込まれてしまったという事か。

 食材が豊富な王都であるが故に生まれた悲劇の犠牲者なのだろう。

 深く考えちゃいけない気がするし、そういう事にしておこう。

「あ、じゃあ、それも含めてください」

「へへ、嬉しいねぇ。仲間だねぇ。へへ」

 このお店の人、ほんの少しの間に随分と印象が変わってしまったな……。

 でもおかげで小話が増えた。故郷に戻ったら、メイティアに面白おかしく話してあげよう。

「ほら、待たせたね。持てるかい?」

 全ての品を三つずつ買ったら、今後の行動に問題が出そうな量になってしまった。

「これは荷物だわぁ」

 困っていたら、お店の人が提案してくれた。

「なら、届けてあげよう。ここの市場は昼前には終わるんだ。午後からは大量に買ってくれた相手の家に配達してるんだよ。」

「へえ、そんな素敵な事してくれるの? 個人客でもそんな事をしてくれるなんて、王都って凄いわ」

「お姉さんだからだよ。見込んだ相手には良くしなくちゃな」

 私は何を見込まれたというのだろう。でも、やってくれるというのなら、お願いしよう。

「じゃあ、お願いします。場所は――」

 届け先を伝えるとお店の人の顔が引きつっていた。おまけに腰を抜かしたような反応だった。まあ、平民がお城を指定するんだから、当然か。

 初めてのお買い物を十分に満足のする結果に出来た事に、私は満足していた。

 さて、次のお店を探していかなくっちゃね。

 味を付ける物を買ったとなると、次はやっぱり食材よね。

 王都の市場は野菜や果物まで種類が本当に豊富で目移りしてしまう。中でも驚かされたのは、移動式で肉を焼いているお店がある事だ。

 最近、隣町でも外売りで焼いていたお肉を出すお店が出来たけど、それはその場で食べるための露店。焼きたてを食べるならお店の中に入らなくちゃいけない。

 王都ではお店の中に入らず、冷めたお肉を売らない。焼きたての食欲をそそる匂いで客を呼び、熱々を頬張る事が出来るのだ。

 これは凄い。上手い事村でもやれないかな。

 興味を持ったので、布を頭に巻いているお店の人に声をかけてみた。

「お兄さん、今焼いてるのって味付いてるの?」

「らっしゃい。何にもしてないよ。自分でやるんだよ」

「ただ焼いただけなのに人気なの?」

「皆、薪代を節約したいのさ」

 火を使う以上、燃やすものは必要だものね。

 村ではお肉は保存食にして取っておくし、普段の食事はメシイモが中心だから、どれだけ薪の消費が減るのかさっぱり分からない。

「そうなんだ。これ買う人って、包んでもらったのを家に持って帰って他の食材と合わせる感じなの?」

「そういう客も居るな。でも、ここの市場で朝飯を作って行く人もいるよ。一人暮らし向けに食材を売ってる店もあるからな」

 隣町だと食材は塊で売ってたけど、流石王都なのかな。一食分用にしたのを売るとか。

 でも、腐らせないようにするためについつい食べすぎるなんて事が無くなるから、良いのかな?

 村じゃ絶対に出て来ない発想だ。人が多いと色んな食材の売り方があるんだなぁ。

 せっかくだし、王都のお肉を知り合いの枚数分持ち帰りたいところだけど、生肉は流石に痛むんだよなぁ

「ねえ、保存肉って売ってないの?」

「うちは専門外だな。うちは当日に食うための肉を売ってる店だからな」

「そうなんだ。分かったわ。ありがとう。あ、一枚だけもらえる?」

 話を聞かせてもらったお礼にと、買って食べてみた。

 何の動物の肉なんだろう。村で狩るのとは感じが違う。こっちの方が焼いていた時の匂いが良い。でも、食べて食べられない事は無いんだけど、味付けが欲しい。村な樹塩を使っていたから、しょっぱみが欲しくなる。

 そういえば、香辛料は見つけたけど、調味料のお店は見つけられていないな。

 離れる前に聞いておこう。

「ねえ、調味料を扱っているお店ってこの市場にある?」

「調味料は無いな。あれは朝市で出す店じゃないからな。何だい、お姉さん。味付きの肉が欲しかったのかい? なら先に言ってくれよ」

 そう言うとお兄さんは後ろに向いて何かを取り出した。

「串焼き?」

「ああ。最近醤油っていうのを手に入れてね。それに漬け込んでるんだよ」

 なんだかしょっぱそうな匂いが鼻をくすぐる。塩とはまた違った感じだ。

「それ、一本焼いてもらえる? 後、醤油っていうのとか、調味料や小麦を扱っているお店を教えてもらえる?」

「ああ良いぜ。じゃ、店の話をしよう」

 焼いている間に情報を貰う。

 なんか少し、手のひらで転がされた感じがしないでもない。でも、この醤油漬けを焼いた匂いが鼻から入ってお腹を刺激する。なんか、この屋台へ注がれる視線が増えている気がする。

「ほらよ。客寄せしてもらったお礼に、同じ値段で良いぜ」

 本来ならもう少し高いらしいけど、得をさせてもらった。

 うん、良い流れが続いている。

 話に聞いたお店はまだ開店していないし、市場を回った後で行ってみよう。払う物を払ったから邪魔だろうと、離れようとする私に、お店の人が言う。

「お姉さん、人混みの中で食うには危ないから、ここで食べちまいな」

 確かに、喉に刺さったら危ないものね。私はその厚意に甘え、お店の横で食べさせてもらった。

 すると、なんだかまた人が集まってきた。

 その人達は挙って私の方を見て同じものが欲しいと言ってくる。

 この店の人、相当な商売人だ。人が人を呼び、いつしかお兄さんが焼いていた素材そのままのお肉と醤油に漬け込まれていたお肉が無くなりそうな勢いで売れていた。

 食べ終わった私は、忙しそうにしているお兄さんに軽い会釈をして離れた。


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