第6話 雪原の手紙と二人の記憶――後編――
光の柱が雪原を貫く。無数の手紙が風に舞い、白い夜を照らした。
「すご……本当に届いてるの?」
「届いてる。宛先は、たぶん“昔の誰か”だ」
声が少しだけ静かになる。
その時、ひとつの封筒がミナの足元に落ちた。雪の上で光りながら、誰かを待つみたいに震えている。
「ルイ、これ……」
ミナが拾うと、手紙が勝手に開いた。淡い光の中――少年時代のルイ。
『――また、遊びに来いよ。』
短い言葉。封筒をポストに入れようとした映像は、そこで途切れた。
「……今の、ルイ?」
「昔、仲のよかった奴がいた。けど、その手紙、出す前に燃えた」
「燃えたって……どうして?」
「あの頃、家が火事になってな」
ルイは遠くの雪を見た。
「だからさ。届かない手紙の気持ちは、だいたい分かる。――それでも、今、届いてる気がする」
吹雪がやみ、空の光が落ち着く。ポストの赤がやわらかく灯り、口がひとりでに閉まった。
「……依頼完了だな」
ミナがこくりと頷く。
「ポスト、うれしそうに見える」
「そりゃそうだ。長いこと冬休みしてたし」
「冬休みってレベルじゃないよ!」
「ポスト界の有給は、長期なんだよ」
「うらやましい!」
二人の笑い声が、白い空にほどける。霊体馬が軽く嘶き、馬車の扉が開いた。
ミナがふと振り返る。ポストの上に、一通だけ光る封筒。
「ねえルイ。あれ、まだ残ってる」
「……最後の一通だな」
ルイは拾い上げ、封を開く。中から、やわらかな声。
『あなたに、ありがとうを。』
ただそれだけ。けれど、その一言が風に乗り、雪を溶かすみたいに広がった。
「……ちゃんと、届いたな」
「うん。届いたね」
霊体馬が足踏みする。
「さて、戻るか。次の依頼が待ってる」
「今度こそ、あったかい所で!」
「願うだけならタダ」
「言い方が冷たい!」
「ま、場所が雪原だからな」
「うまくない!」
ミナは笑って馬車に乗り込み、ルイは手綱を引いた。扉の向こうに春のような光が広がる。進むたび、雪原に小さな花が咲いた。白い世界で、その色だけがはっきり残る。
★ ★ ★ ★
厩舎へ戻ると、主任が出迎えた。
「おかえり。……顔、真っ赤だぞ」
「凍った想い、全部溶かしてきました!」
ミナは胸を張る。
「溶けすぎて風邪引くなよ」
「大丈夫! 心はポカポカ!」
「寒暖差のある発言すんな」
主任は報告書をめくり、顎を上げた。
「手紙の件は“完了”で処理する。次は南方で新規反応だ」
「お、南! やった、あったかい!」
ミナがガッツポーズ。
「暑さで倒れるなよ」
「倒れたら運んで?」
「重いからやだ」
「即答!」
霊体馬が鼻を鳴らす。定期券がピッと光り、風がやさしく抜けた。
「さて、次の配達だ」
ルイは手綱を握る。
「うん! また誰かの“想い”、届けに行こう!」
雪原の記憶を背に、馬車は再び走り出した。蹄跡は、春の風に溶けていった。




