第6話 雪原の手紙と二人の記憶――前編――
厩舎の扉を開けた瞬間、冷気が一気に流れこんだ。
「うわっ、さむっ!」
ミナが肩をすくめる。
外は一面の雪原。白い風が吹きつけ、空まで凍って見えた。
「ここが“北の記憶帯”か」
ルイはマフラーを引き上げた。
「見渡す限り、真っ白。……きれい、って言いたいけど、寒すぎて無理」
「正直な感想で助かる」
「だって手も口も凍りそう」
「口は凍らせとけ」
霊体馬が蹄を鳴らし、馬車は雪の上を静かに滑っていく。吹雪の向こう、一本だけ立つ影が見えた。
「ねえ、あれ……ポスト?」
赤い郵便ポストが、雪の中にぽつんと立っている。
「生き残りか。よく立ってたな」
「でも、ここ無人地帯って主任が」
「なのに未送達反応は出てる。……つまり、こいつが呼んだ」
「ポストが依頼人!?」
「立派な呼び出し主だ。喋らない分、真面目そう」
「喋ったらホラーだよ!」
馬車を止めると、ポストの周りに封筒がいくつも散らばっていた。どれも凍りつき、光を返す。
「……全部、手紙?」
「未送達だな」
ルイはしゃがみ込み、ひとつ拾い上げた。宛名も切手も消えている――が、表面がふっと光り、記憶が立ち上がる。
――雪の街。若い兵士と、少女。
「必ず帰る」
「待ってるから」
その一言は風に消え、映像ごと雪へ溶けた。
「今の……記憶?」
「手紙に残った思念だ。届かず凍った」
「うわぁ……せつない」
「せつないけど、仕事だ。回収する」
「“回収”って冷たく聞こえるよ」
「情熱的に言い直すか?」
「“心のレスキュー”、なんてね」
「……なんか胡散臭いぞ」
ミナは笑って、次の封筒を拾う。ふわりと光。
――雪の日、子どもが手紙を投函する。
「お父さんに早く帰ってきてほしい」
声だけが残った。
「これ……全部、“届かなかったお願い”」
「そうだな。たぶん、このポストが全部覚えてる」
「ポストって、記憶力あるんだ……」
「物も長く使われると魂が宿る。俺の靴にも」
「宿ってるの汗の匂い!」
「強い主張をする魂だな……」
吹雪の中、霊体馬が一歩ごとに雪を青く光らせる。周囲の封筒が、ひとりでに宙へふわりと浮いた。
「ルイ! これ何!」
「記憶反応が連動した。まとめて“送達”しようとしてる」
「つまり、このままだと全部いっぺんに?」
「だろう」
「わー、スケール大きい!」
「お前、怖くないのか?」
「怖いけど、きれい。……こういうの、好き」
「変な意味で肝が据わってる」
風が一気に荒れ、封筒たちが空へ舞い上がる。雪の粒と混ざり、光の柱を描いた。空の色が、夜明けの手前みたいに明るむ。
「――始まったな」
ルイは手綱を握り直す。光が雪空を流れ、ミナの瞳にも揺れた。
「うん。全部、届きますように!」




