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74.王子の憧れと折られた赤薔薇 後編


「察して……いたのね。」

 そりゃ分かるか。あのとき、剣を拾ったのが貴方だというのなら。

 私は、腰に巻かれたリボンをそっと解いた。スカートは静かに落ちていき、その中から黒のハーフパンツと、腰紐に括った私の剣が姿を現した。

「……そのスカートの外し方、だいぶ危なくない?」

「だって下に服着てるんだもの。問題ないわよ。」

 ええ……と、声を漏らす、紳士ゴウ。大丈夫よ、ハーフパンツ履いてるんだから。

「やっぱり、この紋章が目立つのかしら?」

 私の剣に刻まれた王家の紋章を見せて笑うと、ゴウは眉を下げて頷いた。

「王家の紋章が入った剣を持つ一般国民……なんて、滅多にいないから。改めて姿を見たときに納得したんだ。」

 ゴウのそんな姿に、私はただ笑うことしかできなかった。

 私は確かに、小さな村・マチレの金物加工店の跡取り娘。これに偽りはない。

 けれどそれと同時に、非常先導騎士……つまり、いざというときの戦争軍団の一人として国から正式に認定された剣豪、カルファリア・パレスリーという名を持つ剣士でもある。

 更に、私の父ボリスは先導騎士団長カルファリア・ベレイス、母クララは王妃殿下(当時は隣国の第一王女だった)の元護衛クララ・リシュエル。そして私の義弟メイナードは、私と同じく非常先導騎士でカルファリア・ハロルドという異名を持っている。

 どうして騎士としての名前が本名と異なるのか、『カルファリア』の名が何処から来るのかと言うと、私の祖父カルファリア・メイソンことオーランド・メルテがいたからだ。

 父と同じく先導騎士団長を務めていた剣豪の祖父が、本名を晒すのが恥ずかしいからと言う理由で、生前占いが趣味だった祖母に縁起のよい名前を占ってもらったらしい。そしてそれが、息子から孫へとつながっていったということ。

 私が『姫』と呼ばれているのも、そもそも先導騎士団の人数が少ない上、女では私しかいないからだ。我が家は田舎の専門職でありながら、国を支える剣士の一家として、国中に顔が知れているのである。

 ……まあ、国内での戦争はここ暫く起こっていないので、最近は見世物として活動することが多いから、大袈裟に囃し立てられている気もするけれど。

「こんな話を知っても、何の徳もないでしょうに……。気づかないふりをしておいてくれて良かったのよ?」

「憧れているんだ、カルファリア・パレスリー。色々な噂が飛び交っていたし、人間界で戦いの様子を見たこともあったから。」

 憧れ、ねぇ……。というか、吸血鬼って人間界に来ることあるんだ。驚き。

「……聞くかどうか、これでもずっと迷ってたんだ。でも、本物だったなら、伝えたいことがいっぱいあったから。」

 ゴウは、微かに頬を赤らめる。人外の美貌の赤ら顔は、見ているこちらのほうが気恥ずかしくなるほどに美麗だ。

 やがて彼の目線は持ち上げられ、私の目が合った。

「貴女の活躍は、苦しかったときの心の支えだった。……本当に素敵な活躍を見せてくれて、ありがとう。こんな形になっちゃったけど、ずっと、密かに応援してました。」

 柔らかな笑顔が、私に向けられていた。

 ……困ったな。此処まで言われたら。

「こちらこそ、ありがとう。」

 殺されるために此処へ来た、死ぬことになんの躊躇いもなかったと思っていた自分が、確実に存在しているというのに。

 私がどんな表情を作るべきか迷っていた、その時だった。

 大きな爆発音とともに、城への大きな衝撃を感じて、気付いたときにはゴウに守られるように、床へ座り込んでいた。

 

本作をご覧いただきありがとうございます。水浦です。


のんびり続けさせていただいておりましたが、遂に突入しました主人公・アナリー編!主人公の身内サイドの話を書きたくて仕方なかったのですが、如何せん私はプロット無しで書き始めてしまう無計画勢なので、「何処に入れたら自然に繋がるんじゃい!」とタイミングを狙っておりました。


アナリー=剣姫ということは、実は少し前から仄めかされておりましたが、明言したのは此処が初めてです。アナリーの剣姫としての名前「カルファリア・パレスリー」ですが、可愛らしい名前になったな~と気に入っております。本名よりも好きかもしれない。


これからもどんどん進めていきますので、よろしくお願いします(暫くアナリー編、続きます)!

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