安堵
夜は怖い、夜は寂しい、辛い、苦しい……
オーバーだが、ミフルの頭の中はそんな感情で埋め尽くされる。
つい、泣きそうになる。
また、ケイの家に行こうか。
そう思った時だった。
……ぽちゃん。
かすかな音だった。
――水の音?
ミフルは耳を澄ます。
かすかだが、ちゃぷんちゃぷん、と音がする。
この音にミフルは覚えがあった。
環境維持ロボの音だ。
環境維持ロボが泉の水を浄化している音だ。
――こんな夜に?
と、思いはしても、自動操縦のロボなら昼夜関係なく動いている。
本来は中央の神殿付近にいる事が多い環境維持ロボだが、稀にルウの地の外れの方に来ることもあるのだという。
でも、もしかしたらという淡い希望もあった。
あり得ない話かも知れないが、誰かが自分をなぐさめに来てくれたんじゃないか。そんな風に思った。
ミフルは自分も環境維持ロボを使おうと気配を探る。
幸い、今回は比較的に近くにあった。
ミフルは、意識を環境維持ロボに飛ばすと、自分の家目指して走行する。
そうして、自分の家の前の泉を見てみた。
ミフルの予想通りだった。
自分の家の前の泉に、一体の環境維持ロボがいた。
そのロボは泉の水を吸い込んでは出すを繰り返し、水の浄化作業をしていたのだ。
水が貴重なこの地では泉や井戸など、生活に必要な水はこうやって浄化しているのだ。
ミフルも泉に入り、そのロボの隣に行ってみる。
――こんな時間に、浄化、ご苦労様。
もし、最高位が動かしているロボだとすれば、間違いなく先輩のはずだから一応、敬語で話しかける。
環境維持ロボの水晶を見てみると、透明な色だった。
ということは、自動操縦のロボだ。誰かが操っている訳じゃない。
ミフルはがっかりしつつも、泉に入ったついでに自分も浄化作業に取り掛かる。
ミフルとしては、自分が浄化作業できているのかよくわかっていなかったが、最高位になればみんな難なくやってるいらしい。頑張ってみようと、思ったミフルだった。
しかし、自動操縦のロボでもなんとなく安心できるから不思議だ。
さっきまでの孤独に押しつぶされそうな辛さはない。
思わず、このロボを家に連れ帰ろうかな、そんなこと考え始めた時、異変に気づいた。
透明だった水晶が金色に光ったのだ。
泉の上の夜空の月が反射したのだろうか?
ミフルは頭上を見上げる。
――きれいな月……。
――喋った!
ミフルはびっくりした。
てっきり自動操縦の持ち主のいない環境維持ロボだと思っていたのに、そうではなかったらしい。
――リゾ?
と、そのロボがつぶやいたので、ミフルは否定した。
リゾに用があるなら、直接、リゾの家に行けばいいのに。
そう尋ねるこいつは誰なんだろう? 質問しようとすると、そいつは泉から出て行く。
ミフルはその後を追う。
――ここは?
そのロボはミフルの家を不思議そうに見ていた。
――ここはオレの家だよ。
――こんな家、ルウの地にあったかな?
――オレが建てた新築の家!
と、ミフルはなんとなく自慢したい気分になった。
本当はミフル一人で建てたわけではないが、ミフルが建てた家に違いないのだ。
――ここは長老と私が開いた泉……?
その言葉に、ミフルは、「ん!」と身構えた。
誰か?と聞いたら、やばい気がした。
違う話題にしよう。
――リゾを探してるのか?
そいつが頷いたので、今は夜だし家で寝てるんじゃないか、と言っておく。
――そうか。夜だもんね。寝てるか……。
――明日にでも会いに行けば?
――なんだか昼は会いづらい。リゾに関する悪い噂を聞いてしまって……だから、こうやって夢の中で……
そうか、こいつは夢だと思ってるんだ。
じゃあ、夢だと思わせておいた方がいいのかも。
確か、こいつの環境維持ロボは壊れてしまったと聞いていたし。
今、やり過ごしたとしても、こいつはまた環境維持ロボを操り始めるのだろうか?
リゾは環境維持ロボを使わせたくないみたいだったな。
――どうしたもんか……。
ミフルは考え込んでしまうが、結論は出なかった。
それにしても、と思う。
人間の姿で会わなかったこと、名前を名乗らなかったこと、それらが正解だったとミフルは安堵する。
ルウの民の前に姿を現してはいけないことになっているのだ。どんなペナルティがあるのか考えると恐ろしい。




