後悔
――どうして、自分はここにいるんだろう?
ミフルは、そんなことを考えていた。
ラテーシアの屋敷にそのままいれば、夜中にお腹が空いても誰かが軽食を用意してくれることもあった。
それを当たり前だと思っていた。
今はその当たり前がなくなった。
――どうして、自分は最高位になんかなったんだろう?
こんな部屋に一人でいて、呼んでも誰も来てくれない……
――自分はこんな生活がしたかっただろうか?
いや、こんな未来が待ってるなら、最高位になんかなりたいなんて決して思わなかった。
どうして、どうして、どうして……
そう自分の中でミフルは繰り返していた。
後悔の念を抱き、目には大粒の涙があふれそうになった時、その男が現れた。
「こんばんは!」
現れたのは、ケイだった。
「呼び鈴が鳴ったみたいだから様子を見に来たんだけど、何かご所望?」
どうやら、呼び鈴に瞬間移動の魔法的なものを仕込んでいたらしい。
「温かい飲み物が欲しい」
ミフルは、そんな言葉が出た自分が信じられなかった。
本当は泣きじゃくって抱き着いてもおかしくないような心境にはなっていた。
だが、ケイに対して若干の怒りの感情もあり、泣きつくことだけはしまいと思った。
とはいえ、突然の不法侵入を非難する気にもならず、そんな言葉を言っていた。
「そう?」
なんだか意外そうな表情のケイはそのまま隣のキッチンへ。
その後ろ姿を見て、ミフルは始めて自分で飲み物を作るという選択肢がある事に気づいた。
ほどなくして、ケイがキッチンから持って来たのは、
「お湯?」
「お湯だね」
普通、こういう時はホットミルクじゃないのだろうか? と思ったが、ケイの普通はこうなのだろう。
「まあ、ありがとう」
ミフルは、ケイが持ってきたカップのお湯を飲み干した。
すると、涙がぶわっと溢れた。
「ホームシックかい? 気持ちはわかるよ」
ケイが頭をなでなでしてきたので、下を向いて泣きだしてしまう。
「なんで、この家、ラテーシアの家にそっくりなんだよ! 思い出して余計につらいじゃんか!」
「元の家に似てる方がいいと君も言ってたじゃない?」
確かにそうだった。
家の造り方はわからないが、どんな家がいいかはかなり希望を出して元の自分の部屋に近い家になったのだ。
「こんな辛い思いするって分かってたら、もっと違う家にしたよ!」
「……それもそうだね」
頭を撫でて、ケイはかがんでミフルの背中を抱きしめていた。
「じゃあ、こんな家、ぶっ壊してまた新しい家を造ろう」
「……それはいいよ」
ケイなら本当にやりかねないと思った。
それにまた一から家を造るのは相当大変だ。
家を壊したら、グレスやロイはどんな反応するかな?
そんな想像をしたら、不意に笑えてきた。
「元気になったようだね?」
「うん、まあ……泣いたらスッキリしたかも……?」
涙を見られるのは恥ずかしい。
腕で涙をぬぐう。
「もう夜だし、泊って行ってもいいよね?」
と、ケイはベッドではなく、ソファに仰向けに横になった。
そういえば、ケイという男は男色で大人だった頃のミフルに想いを寄せていたんだとか……もっともミフル自身にはおちょくられたような覚えしかないが。
一緒の屋根で一晩過ごして大丈夫なんだろうか?
一抹の不安はあったが、まあそんな男じゃないだろう?
「他所の家で寝れるタイプなの?」
「問題ないよ。少し前に宿屋に泊まってたくらいだから」
「ふうん?」
意外な面もあるもんだ、とミフルは思った。
その日、ミフルは、はじめて誰かがそばにいてくれることが、すごく有難い事だと分かった。




