1話
サンクレド・エクスには推しがいる。
貴族高等学校における才女。フィーリア・セクラ令嬢の事である。
彼女はまずその顔がサンクレドにとってとにかく美しく、見る人にとってはきつめ、不機嫌そうに見えるらしいその目つきもその中の綺麗な青い瞳もサンクレドの心を捉えて離さない。
「豊満な体こそ貴族、富の象徴である」
といった貴族の、特に中央貴族の美醜感の中では少し肉は足りないようだが、そんな事は些細な問題だと思う。
引き締まったウエストに健康そうなヒップ。
むしろ田舎育ちで都会の思想に染まっておらず、他の貴族が豊満な肉体の意味をはき違えていると考えるサンクレドにとってデブばかりのこの学校において一際可憐な華であると言えよう。
また、外見だけでなく内面も最高だ。
余り表情が動かないがどんな身分どんな見た目相手にも、分け隔てなく接している姿を見てきたし、礼儀作法も完璧。
更には学業に置いてもトップクラス。
もう最高最良の令嬢である。
これが推さずにいられるだろうか。
いや、推さざるを得ない。
と俺は同じ寮で暮らしている友人にいつもこんな感じで力説していたのだが、
「いやー流石にあのキツそうな目はなぁ~」
「やっぱふわふわぽよぽよボディじゃねーとなぁ」
「自分より頭良いとか面倒くさそうじゃん」
と言った具合である。
キツそうな見た目といっても実際に言動がキツいわけでも無いし誰にでも親切な誰にでも心優しい娘じゃないか。
しかも頭が良いなんて貴族の妻になるべくとして立派に教育を受けてきた証拠だし家の事も任せてもしっかりとやってくれそうでとても良い。
「そもそもだけど、サンクレド。お前も一般的にみたらブサイクなんだから万が一にも無理だろ」
「婚約者だってあのイケメンの公爵令息様だしなぁ」
俺だって地元では…いや、一般的な庶民感覚だと整っている部類じゃないかなと思うのだが?
地元領地の平民の娘達にだって声ぐらいかけられた事あるしな…。
まぁもし俺が超イケメンでもファトマ=ピグル公爵令息にはどっちにしろ身分でも金でも勝てないのでどうしようもないが。向こうには王族の血も入っている。将来は安定だろう。
でも俺はあの白デブには本当にむかついている。
俺にとってはあの白デブがイケメン扱いなのも正直どうかと思っているし、あいつはフィーリア嬢に全然見向きもしないじゃないか。
フィーリア嬢に対して冷たすぎる。
白デブに話しかけにいっても冷たい対応されて悲しむ姿を見ていると俺も悲しくなってきてしまう。
昔は鬱陶しそうにはしながらも白デブもフィーリア嬢に対応していたように見えたんだが、2年次から編入してきたあの「国一番の美女ラディス・ラーデ」が来てからはもうそっちにしか目がいっていないように思える。
もし俺の婚約者だったならあんなに悲しませることなんて絶対にしない。
フィーリア嬢の好きな演劇を一緒に観に行きたいし、パティスリーやレストランにも行きたいし、ショッピングを楽しみたい。
有意義な時間にしてフィーリア嬢といる時間を楽しみたい。
ただ、そんな事を言ってもフィーリア嬢は公爵令息ファトマの婚約者であるし、自己評価(平民的感覚)と違い自分がこの国の貴族、特に王都においてはブサイク扱いを受けている事はわかっている俺なので、フィーリア嬢の視界にガッツリ入ってしまうと彼女の目が腐ってしまいそうだから、推しを遠くから見て目の保養にしつつも、貴族高等学校では目立たず波風立てずに無難に過ごしている。
今日もフィーリア嬢は美しいなぁ。
推しには幸せになってほしい。と切実に思う。
なのに、
「フィーリア・セクラ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!」
は?
「お前と婚約破棄してラディスと婚約するからな!」
ファトマは隣にいるラディス嬢を抱き寄せながらフィーリア嬢に対して宣言する。
は?
「ファトマ様。私が何か悪かったのでしょうか?」
「見た目も悪ければ、態度も悪い。口もうるさければ会うたび会うたび小言でうるさい!僕は公爵令息だぞ!お前なんかいらん!」
「そうですか…大変申し訳ありませんでした」
「はん!本当に申し訳なく思っているなら土下座でもしたらどうだ?」
周りに沢山の令息令嬢がいるなかで酷いことを言われているフィーリア嬢は俯いて、その後床にポタポタと水滴がつきはじめ…そしてフィーリア嬢は膝をついたところで、
「いいぞ!そのまま額を床につkぐふうううううっっっ!!」
俺は走り出し、全力でファトマ令息を殴り飛ばした。
ファトマこと白デブは殴られた衝撃で壁まで転がり頭を打ち付ける。
「え、あ、あの。サ、ンクレド様?どうして…」
フィーリア嬢が俺に言葉を!??!!?
「ファトマ令息に苛ついたのと、貴方に涙は似合わないので」
「えっ…」
「とりあえず俺に任せてください」
「はっ、はい」
フィーリア嬢は俺が守る!




