新メンバー 〜その2〜
「じゃ、じゃあ……ハズクが分かっている組織の情報についてすべて話してもらおうか」
先ほどのくだらない言い争いは終わり、本来もっと早く言うべきだった事をハズクに聞く。
「私もすべての情報を把握している訳ではありません。それどころかほとんど分からないでしょう。ですがハズクが知る全ての情報をお話しします。ご主人様はどこまで知っているのですか?」
ハズクが俺たちに聞いてくる。
「俺たちが知っているのは……って!ルナたちに話したの聞いてたんじゃないのか?」
「あー、それもそうでしたねー。忘れてましたー(棒)」
「ちょっとトキヤ!ハズクさん怪しくない?」
ルナがハズクの言い方に疑問を持つ。だがトキヤ本人は
「え?いや別におかしいとこあったか?ハズクだって忘れることぐらいあるだろ?いつもと違う環境に慣れてないんだから忘れててもしょうがないだろ?」
「ダメだわ。トキヤ相当重症よ」
「そうですね。ハズクさんの真意を読み取れないなんて」
チワとルナにまたボコボコに言われる。ハズクの真意?意味がよく分からないのだが?
「?……2人とも何が言いたいんだ?」
俺が2人に聞くが2人とも
「教えない!そんなんだからチワさんにも鈍感とか言われるんだから」
「そうですよ。少しは女心を自分で考えてみて下さい」
???分からん、全く分からん。そう考えている間に2人が
「「ハズクさん。トキヤ(様)は私のものなの(です)だから盗らないで(下さい)」
と、言っていた。
「2人ともー。俺は物じゃないんだけど」
「「トキヤ(様)は黙っていて(下さい)!」」
「はいすいません」
何なんだよ2人とも。俺は物じゃ無いし、第1にチワは俺と立場が逆なんだがな。よく分からんがこれがチワが言っていた女心か?……そう言えば雪にも言われたことがあった筈だ。あの時もよく分からなかったが。
「なるほど。把握しました。つまり2人ともご主人様の事が好」
「「ワァァァァァーーーー!!!!!」」
ハズクが喋っている途中で急に2人とも叫びだす。
「どうした?話の途中で?」俺が2人に聞く。
「何でも無い!」
「何でも無いです!」
何かあったから叫んだんじゃ?……ここはあえて触れずにしといたほうが良さそうだ。これが女心なのか?そうしておこう。
「さっきから話が全然進んどらんぞ?」
ルナの爺さんが言う。本当にその通りです。さっさと話進めたい。
「今度こそハズク。話してくれ」
そう言うと、チワもルナも静かになり、ハズクの話を聞く体勢になる。
「まずは私が依頼された内容『Eランクの冒険者2人を殺せ』と言うものでした。初めてそれを聞いたときは何故?と言う事が初めに思い浮かびましたがさほど気にすることなく実行しました」
「んで結果がこれだったと」
「そうです」
なるほど。暗殺ミッションが2度目のハズクですら『Eランクで何故?』と言う疑問が上がると言うことと、金髪女の……言いにくいな。名前か、せめてコードネームを聞いておくべきだったか?話がズレた。金髪女の使い捨てというセリフからハズクみたいな最低Dランククラスの人間が何人もいると言うことになる。……やばくね?しかもあのレベルで使い捨て?おかしくね?どんなでかい組織なんだよ?
「そして殺す理由は私たちには伝わりません。今回はご主人様たちとの会話で分かりましたが。私たちはただ組織にとって不利益となり得る存在を殺します。今回ご主人様が生きているほうが不思議です。基本的には目撃者含め全てを殺すのが普通なのですが……何故ご主人様は生きておられるのか、それが私は謎です」
確かにそれは俺自身も謎だ。殺されない理由も知らないが……何が気に入るようなことなんてしたか?
「普通は失敗しても次の刺客が来るからか?」
「そうです。基本的には私たちコードが付いている人が。それで無理ならネーム付きの仕事とどんどん上がっていくのですが……」
「コードの次がネームか。他には何があるんだ?」
コードやネームは階級のことだろうか?
「一番したからコード付き、ネーム付き。それ以上は私たちには知らされておりませんので分かりかねます」
金髪女がいっていたがかハズクは使い捨ての、いわば組織の末端だからな。まともな情報なんてあまり期待はしないほうがいいだろう。
「そうなのか……じゃあハズクが何でこんなことをやっているのかは話せない……よな?」
俺がそう聞く。ハズクは何故こんなことをしているのだろう?人を殺すのが嫌なのに人を殺す。何かしらの原因があるのだろう。ハズクはおそらく答えないと思っていたが予想に反して
「いえ。大丈夫です。……私はこの国で生まれました。両親は傭兵だったのですが幼い頃に2人とも亡くなったそうで私が物心ついた時にはもう既に……こんな事をしていました」
「……そうか……」俺がそう呟く。
「……傭兵……」
ルナもそう呟いた。そういえば今日の朝出会った時にも傭兵に絡んでいたが何が傭兵にあるのか?
両親が居ない。その点ではチワも同じだ。こう言う所でこの国の亜人差別が出ているのかもしれないな。
「爺さん。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「何じゃ?」
「この国は人間至上主義何だよな?なら何でこの国には亜人が所々に居たりしているんだ?他にも差別意識は普通の人からはあまり感じはしないし」
「……軽く説明すると、300年ほど前に人族と亜人の連合軍が戦争を起こしたのじゃよ。今となってはどちらから起こしたのかは不明じゃがどちらか片方がもう片方を殺してしまった。その復讐でまた殺す。それが繰り返されていつの間にか国同士の戦争へと発展していったのじゃ」
「……だから互いに人間至上主義、亜人至上主義を掲げている訳か。ならなおさらどうしてあからさまな差別や偏見などが無いんだ?」
「時間が互いの傷を癒すこともある。今は傭兵としてこの国を守ってくれている事も大きいじゃろうな。じゃがこの国の貴族や王族は基本的に亜人を毛嫌いしておるぞ。他にも普通の人でもたまにおる。心当たりはないかのう?
……あるな。ギルドの受付嬢だ。なるほど。子供の喧嘩もいつの間にか仲直りしていたりするし、それみたいなもんか。
あと説明していなかったが基本的にギルドに所属している人族を冒険者、亜人を傭兵と呼ぶ。昔からであくまで亜人は国に雇われているという人族としての威厳かなんかを保ちたいために分けているのだろう。
だがここには例外が存在する。今朝ルナと言い争いしていた男は傭兵だ。だが人族でだ。
なぜかと言うと、ギルドに所属したくない人も一定数存在する。ギルドはギルドで国とは別に独立して作られているのだ。だからギルドよりも国に好感がある場合は人族でも傭兵となる場合がある。
また逆に、チワなど冒険者の亜人奴隷は冒険者となることが出来るので亜人冒険者も存在する。
ちなみにパーティは基本的に5人までだ。明日はルナとハズクを登録するので残り枠は1人か。……男が良いな。みんなの視線が痛いだろうからせめて1人だけでも。……フラグかな?いや、そういうことを考えるのは止めよう。
「とりあえず聞きたいことはこれぐらいかな。ハズクありがとうな。助かったよ」
「いえ。当然のことです。ご主人様。またいつでもお聞きください。私たちは互いに最大限ご協力し合い、私は一生使える身ですので」
そう言ってハズクは笑った。出会って少しだが感情をあまり出す事が無さそうなハズクがだ。
「それじゃ最後にだけどさ爺さん」
「何じゃ?」
「ハズクは俺たちと同じ宿に泊まるだろ。明日冒険者登録するから銀貨一枚。明日にクエスト受注するから……お金貸してくれませんか?」
「良いぞ。ちゃんと返せよ」
即答⁉︎嘘だろ!それと『お金は魔猪で稼いだんじゃねーの?』と思っているそこの君。実は帰ってきて俺やチワの服を2セットずつ買っていたのだ。いつ汚れるか分からないしな。他にも俺の鉄剣やチワの短剣の刃こぼれを直しに鍛冶屋に行ったりとしていたのだ。
そのせいで俺の手持ちは銀貨一枚。今日の宿代はギリギリ出せる(チワとハズクが亜人のため人族よりも多くお金がかかる。だが亜人が泊まれる場所がその場所くらいしか無いのだ。他は宿は満室だった)。
「え?良いんですか?」
俺がそう訊く。借りる俺がいうのも何だがそんな簡単に貸すのはだめだろう。
「ルナを助けてくれた恩人じゃからのう。それにわし自身も信頼しておるぞ」
「あっ、ありがとうございます」
そう言って俺は頭を下げた。チワもルナもハズクも何も言わなかった。ルナがなんか言いたそうだったが。
こうして俺は爺さんから念のためと爺さんに言われて少し多めに銀貨五枚を借りた。
「それじゃルナ。また明日迎えに来るから。冒険者登録は銀貨一枚だから忘れるなよ。それと夜更かしもするなよ。水筒にハンカチにティッシュもちゃんと持ってくるように」
そうルナに言う。雪に言うみたいになってしまった。あと、ハズクの服も貸して貰った。
「子供扱いしないでって何回言われるのよトキヤは!それに水筒とハンカチは分かるけどティッシュって何なのよ!」
ルナは怒っていた。そんなに子供扱いは嫌なものか?あいにく俺はそんな経験が無いのでルナの気持ちがわからなかった。
そんなやりとりをしつつ俺たち3人は宿に帰った。飯は途中で食った。そして明日食べる食材を買い、ついでにハンカチを3枚買った。これがあると地味に便利なんだよな。今まで買って居なかったが、ルナについ口走った時に買おうと思った。何?お金の無駄遣い?
明日稼げば良い。日常品だしな。そうだ、これは必要な出費なんだ。俺、チワ、ハズクの3人で一枚ずつだ。
宿ではそして3人になり、もともと借りていた部屋が狭くなったので、ワンサイズ広い部屋の代金を払った。3人一部屋ベッドは2つだ。俺が1つ、もう1つを2人で寝てもらう。俺は床でも良かったが2人に猛反対された。
そしてベッドに入り重要な事を思い出した。
「ルナに固有魔法について聞いてねーーー!」
一方その頃シャワーを浴び終わり寝巻きに着替えてベッドに入ったルナもまた
「トキヤに固有魔法のこと教えるの忘れたーーー!あっ!でもこれでまた話す機会が……」
と、ルナが呟いていた事をトキヤは知る由もない。




