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劣等剣士の物語(仮)  作者: 清乃 誠
第一巻 四話 失ったもの、残されたもの
29/37

29ページ

 フェイトがノワール・デスペラードの調査を始めて三日目の朝が来た。しかし彼は頭を抱えている。あまりにも情報が無さ過ぎるからだ。


「どーしたもんか……」


 そう呟いているフェイトは現在、ギルド街の中心にある広場の階段に座って物思いにふけていた。これからどう調べたら良いのか行き詰まっている。


 一層いっその事、もう一度襲われた方がかえって楽なのではないかと一瞬考えてしまった。襲ってきた奴を捕らえて騎士団に引き渡して拠点を吐かせる的なやつだ。しかし、すぐに何を考えているのだと正気を取り戻す。


「あれ? フェイトじゃない」


 不意に背後から自分を呼ぶ声がした。フェイトが振り返ると騎士装束を着たイレーナの姿。後ろにはぞろぞろと小隊の仲間を引き連れている。


「イレーナか……」


 フェイトは一言だけ呟く。イレーナの後ろにいる騎士達は小声で何かを話していた。騎士達は口々に不愉快な言葉を言っているが、そんな事はすでに慣れているのでフェイトは無視をしている。


「貴方達は先に食事をしてきて。私は後から行くから」


 イレーナが仲間に指示をする。どうやらこれから小隊の仲間で食事を取る時間だったようだ。イレーナの仲間達は軽く返事をして階段をぞろぞろと降りて行く。


「こんなところで何してるの?」


 イレーナはそう言ってフェイトの隣に座る。階段を降りて行く小隊の男達の背中を見ていたフェイトは気になった事があった。


「ちょっとな……。あれ、オーガスタって奴はどうしたんだ?」


 イレーナ小隊で副隊長を務めているオーガスタの姿が無かったのだ。降りて行く小隊の男達を数えると十人で、イレーナを含めても一人足りない。ましてやフェイトは彼に一度誤って捕らえられた挙句、酷い尋問を受けた経験があるので見間違えることはないのだ。


「オーガスタは上からの処分が下るまでの間、謹慎処分中よ。今は宿舎にいるはず」


「処分?」


「そうよ。これまで色々と問題行動ばっかだったし、貴方に酷い尋問をした時も無許可だったからよ。本来なら貴方を捕らえた後、小隊長の私に報告して私が大隊長に報告してって色々としなければならないのに彼はそれをしなかった。当然の報いよ」


「なるほど」


 オーガスタが処分される理由は良く分かる。騎士団の規律を破って独断で尋問をしたのだ。その結果は誤認でもあった。そんな事をすればどうなるかは目に見えている。


「オーガスタは多分、脱退処分になると思うわ。騎士も続けられないと思う」


「そうか。イレーナは大丈夫なのか? 監督責任とか問われたりしてないか?」


「私は大丈夫。あるとすればネグロイト村の件かしら。隊を危険な目に遭わせたし、復帰してすぐに凄く怒られたわ」


 オーク退治の時の話だろう。あの時はイレーナを含め小隊の仲間達が重軽傷を負っていた。


「そうか」


「それで? こんなところで何してたの?」


「ちょっとノワール・デスペラードについて調べてたんだ。これといって大した情報は見つかってないけどな」


「そう……。あまり無理したら駄目だからね」


「分かってるよ」


「なら良いけど。私そろそろ行くわね。一応任務時間中だし仲間を待たせる訳にはいかないから」


「わかった。イレーナも気をつけるんだぞ」


「うん、ありがと。それじゃ」


 イレーナはそう言って立ち上がる。そして階段を降りて行った。その姿を後ろから見ていたフェイトはおもむろに立ち上がる。そして聞き込みをする為にギルド街を歩く事にした。


 それから数日間、フェイトは毎日のようにギルド街におもむいて聞き込み調査をしたのだが結果は良くなかった。情報が無さ過ぎて疲労だけが溜まるのだった。


 数日後には、いつまでも魔物狩りの仕事を放置する訳にはいかないので一度諦めて本業に専念する事にした。ボナン渓谷方面の依頼を受けて魔物を狩る日々。


フェイトはこちらの方が実に楽だと思っている。もともと騎士を辞めてからは、あまり人付き合いをしないように避けてきたからである。そんな彼にとってギルド街の聞き込み調査は大変なものがあったのだ。


 そんな魔物狩りの仕事をこなす日々も二日後には終わってしまい、休みになったフェイトは再度ギルド街に赴くのだった。


 ギルド街での聞き込み調査は正直言って憂鬱な気分になる。ノワール・デスペラードを調査していて感じるのは、まるで雲を掴もうとしているような気分だった。まるで存在してないかのような情報の無さに疲れだけが溜まる。


そんな気分を堪えながら歩いているフェイトであったが、視界に入ってきたとある姿についつい気を取られてしまった。


 ポニーテールのような金髪の髪型に細い目つきの男。オーガスタの姿だ。騎士装束を着ておらず、白地のシャツに肌色の長ズボンを履いている。私服姿なので一瞬別人に見えたが、明らかにオーガスタ本人だった。


「あいつ、謹慎処分中だよな……」


 イレーナからの話では謹慎処分中で宿舎の外には出れないはずだ。なぜギルド街を歩いているのか気になってしまう。もしかしたらすでに騎士を辞めた後かもしれないが。


 オーガスタは辺りをキョロキョロと見ながら歩いている。挙動不審なところがあり、フェイトはオーガスタの事が気になって後をつける事にした。


 尾行がバレないように一定の距離を保って歩く。オーガスタの時折見える表情はとても固い。ギルド街の細い路地をついて行くとやがて開けた場所に出た。


大きな川が流れる川沿いの道である。この川は王都ミノシェルスの一般地区の北側のギルド街から西側の職人街に流れ、そこから南の居住街に流れる大きな川だ。


その川の流れを利用して水力発電なども行われている他、様々な使い方をされている川である。


 オーガスタはそんな川沿いの道を歩く。そして川辺に行くために設けられた階段を降りだした。その階段は三十段ぐらいある。


(こんなところになんのようだ?)


 そんな事を考えながら階段を降りて行くオーガスタを監視していると、階段を降り終えたオーガスタは足元に置いてあるランタンを持ち上げる。そのランタンの蝋燭ろうそくに魔法で火を着けて壁の中に入って行った。


「なっ!」


 それを見ていたフェイトは驚いた。そして確認をする為に急いで階段を降りる。すると何故オーガスタが壁の中に入って行ったように見えたのか分かった。


壁には大きな入り口のようなものがあったのだ。洞窟の入り口のような穴で、真ん中には水が流れている。


 これは地下水路の出口だ。王都ミノシェルスの地下には網の目のように張り巡らされた地下水路があるのだ。その地下水路は王都で暮らす人々にとっては必要不可欠なもので、生活用水や下水が流れている。


 その地下水路の奥で微かに明かりが見えた。先程オーガスタが持っていたランタンだろう。オーガスタの行動はますます理解不能だ。


こんな地下水路にどんな用があるというのだろうか。フェイトはオーガスタの尾行を続ける為に静かに地下水路に足を踏み入れた。

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