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劣等剣士の物語(仮)  作者: 清乃 誠
第一巻 四話 失ったもの、残されたもの
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27ページ

 クロッカス亭に帰ってすぐ、フェイトはオリバーに謝った。自分の所為せいで事情聴取やら取り調べやらを受けたのだから当然である。


「迷惑をかけてごめんなさい」


 クロッカス亭の中に客の姿は無い。酒場の営業時間外を狙って話かけたのだからそれもそのはずだ。


「騎士が店に来て、お前さんの事について調べたい事があるって言った時はヒヤヒヤしたがなー」


 オリバーは笑みを浮かべている。あまり怒ってはいないようだ。フェイトは一安心する。


「聞いた話だとどうも最近変な奴らが王都で犯罪を繰り返してるみたいで、俺の服装とか特徴が奴らと似てたのが原因と思う」


 フード付きの黒コートで中の服装も全て黒。変な仮面をつけてこそいないが、迷惑なほどに酷似していた。


「お前さんみたいな真っ黒を好む奴が他にも居たんだな!」


 そう言って笑い出すオリバーは実に楽しだ。馬鹿にされているようで少しだけ苛ついてしまう。


「迷惑な話だよ」


「まーお前さんが無事でなによりだ。怪我は大丈夫か?」


「ああ。これぐらいなら二三日もすれば治るだろ」


「わかった。あれだぞー? あんま騎士の嬢ちゃんに心配かけさせたらいかんぞ?」


「今回ばかりは色々考えたよ。そうだ、オリバーさん」


「どうした?」


「ちょっと相談があって、魔物狩りの仕事なんだけど依頼を受ける数を少し減らしてくれないか?」


 ノワール・デスペラードについて調べてみようと考えていたから仕事の休みを増やしたいのだ。なぜ自分が襲われたのかが気になる。相手は自分の名前まで知っていた。相手の対象になった以上、後手に回る事だけはしたくない。


「お? 珍しい事を言うなー」


「ちょっと調べたい事があってな。できそうかな?」


「わかった。調整してやる」


「ありがとう」


 オリバーへの謝罪と頼み事を終えたフェイトは自室に戻って就寝をした。翌朝の早い時間には起きて手短に支度をする。カウンターであくびをするオリバーに朝の挨拶をしてクロッカス亭を後にした。


 調べるとしたらまずはどこにするか。情報は何も無いのだから考えに困る。ノワール・デスペラードは小規模のギルドや商人を襲っていると聞いていたので、まずはギルドが軒を連ねるギルド街に向かう事にした。


 ギルド街は一般地区の北側に位置するのだが、その広さは相当なものである。どの建物もなかなかに大きくて立派な石壁の建造物で、通りには様々な看板がずらりと並ぶ。戦士や商人、魔術師ギルドばかりだ。


道行く人間は鎧姿で剣や槍、弓を装備した者か、魔導石を埋め込んだ杖を持ち、ローブを着込んだ魔術師ばかり。明らかに居住街とは違う空気である。


「さて、どうするか……」


 当たり前の事だが盗賊や殺人を生業にしている犯罪ギルドなんてものは表立って店など構えない。隠れた場所を拠点にして密かに集まり、欲望のままに仕事をするのだ。


 フェイトは小規模のギルドを重点に置いて聞き込みをする事にした。ここで言う小規模ギルドとは拠点が王都にしか無く、なおかつ構成メンバーが二十人以下のギルドである。


その条件に絞れば聞き込みをするギルドも絞れるし、実際、小規模ギルドばかりが狙われているので彼らも色々と動いているだろう。何か情報があるかもしれない。


 フェイトは聞き込みを始める事にした。しかし、結果は惨敗もいいところ。何軒かのギルドを周ったのだが何一つ情報が無かったのだ。そのまま時間だけが過ぎ去り、聞き込み一日目は終わった。


 翌日は朝早くから職人街に向かうフェイト。職人に手入れを依頼していたバスタードソードと二本の短剣を受け取る為である。


 フェイトは職人街を歩いてその職人の構えている店に向かった。そして目的の店に着いたので、その建物の中に入る。すると坊主頭の男の職人はカウンターでいつも通りに仕事をしていた。


「剣の手入れ終わったかな?」


 フェイトはカウンターにいる職人に歩み寄って話しかける。すると職人は目を見開いてこちらを見てきた。


「坊主、その怪我どーしたんだい? 魔物にやられたのか?」


 どうやら顔の怪我が気になったらしい。驚いた表情をしてフェイトの顔を凝視する。


「ああ、ちょっとな。頭の隅に置いといた事が実際に起きたんだよ」


 フェイトがそう言うと職人の男は更に驚いた表情を浮かべた。


「お前さん襲われたのか!」


「ああ。いつもの剣じゃなかったから苦戦したよ」


 少しだけ皮肉っぽく話すフェイト。


「大した怪我はしとらんようだが……。どんな奴らにやられたんだ?」


「全身真っ黒でフードを被った奴らだ。変な仮面をつけている所為せいで顔は見えなかった」


「命があって良かったなー。驚いたよ、お前さんが怪我してる姿は初めて見るから」


「ノワール・デスペラードって犯罪集団らしい。ギルドって肩書きなのかは知らないけど複数いるのは確かだ。その名前を聞いたことわ?」


「いやー聞いた事ないな」


「そうか……」


 ここでも空振りだった事に少し落胆する。初めて犯罪集団の話を教えてくれたのがこの職人だったから何か知っているかもしれないと心の何処かで期待していたのだ。


「そうそう、お前さんの剣だな。ちょっと待っとれ」


 職人の男はそう言い残すと部屋の奥に消える。しばらく待っていると黒い鞘に収まった三本の剣を持ってきた。


「ほれ、なまくらが良くなったぞ」


 職人の男はそう言って三本の剣をカウンターに置く。フェイトは片手半剣のバスタードソードを手にすると、鞘から引き抜いて刃の確認を始めた。刃は輝きを取り戻し、鋭くなっている。


「良い感じだな」


 フェイトはそう言って剣を鞘に収めた。


「当たり前よー。俺を誰だと思ってるんだ?」


 職人の男は笑みを浮かべながらそう言った。フェイトはバスタードソードを腰に吊るして二本の短剣を背中に交差させるように吊るす。剣帯を伝って感じる重み。馴染みのあるしっくりとした感触だ。


「やっぱこれだな……」


 愛剣を装備したフェイトは安心したように呟いた。


「また、なまくらになったらいつでも来な」


「わかった。ありがとう」


「それから気をつけるんだぞ。一度狙われたんならまた襲ってくるかもしれん」


「気をつける。それじゃ出るよ。もしもノワール・デスペラードについて何か分かった事があったら教えてくれ」


「それっぽい話を聞いたら覚えておく」


「ありがとう。それじゃ」


「はいよ」


 職人の男とのやりとりを終わらせたフェイトは店を出る。そして聞き込みをする為にギルド街へと向かうのだった。

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