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劣等剣士の物語(仮)  作者: 清乃 誠
第一巻 三話 突然の出来事
24/37

24ページ

 ロメルダがテーブルに置いた料理はスープも炒め物も冷めていたがとても美味しい。仲間達に囲まれる中、一人だけ食事をするのは少し気恥ずかしいが、先程まで泣いていたので今更感もある。


 食事が終わった後、フェイトは小隊の仲間に自分の過去を話した。父親がグラーマンではなくシルドである事。逃げるように母親と王都を出た事。逃げた先でグラーマンと出会い、母親と一緒にグラーマンの家に移り住んだ事。グラーマンの提案で彼の性を名乗り、騎士になった事。全て包み隠さずに話した。


その話を聞いた仲間達は、よく話してくれたと言ってくれる。そして大犯罪人と呼ばれるシルドの子供であるフェイトを受け入れた。


 エミリア小隊の仲間内でこんなに夜通しで語らい合ったのは初めての事だ。外での任務の時でも交代して寝たりしているので、揃って夜更かしをする事などは無かった。


 話題はフェイトの過去の話だけではなく、ワイスとアーノルドが合同集会の場でレバルトと喧嘩した事でロードメルトが監督責任を負った話や、エミリアが大隊長にレバルトの行いについての問題を指摘した書類を提出した話などがあった。


ロードメルトは監督責任を問われた事によって小隊長への昇級時期が伸びたとの事だ。フェイトとワイス、アーノルドは謝罪をしたがロードメルトは謝るなと言って許してくれる。改めて器の大きな人だと感じた。


 その日を境にフェイト達エミリア小隊の結束はより高まったように感じる。普段の生活もそうだが、魔物狩りの任務の時も意思疎通や連携が今まで以上に取れているように感じたのだ。単にフェイト一人の気の持ちようが変わっただけの事かもしれないが。


これまでのフェイトは、心の何処かで自分の過去を隠してオズワルドの性を名乗っていた事に後ろめたさを感じていたのだ。だが今はそれも無い。本当の意味で仲間ができたと感じていた。


 時は流れてフェイトは十八歳になった。エミリア小隊は王都の東側にあるボナン渓谷の奥深くまで魔物狩りの任務に行った帰りで野営をしている。時間はすでに夜だ。


月明かりが照らすボナン渓谷の切り立った山々は不気味に見え、辺りは暗く静かである。


「寒いなーフェイト」


「そうですねー……」


 ルードの言葉に返事を返すフェイト。二人は肩を摩って小刻みに震えていた。地形の関係でこの辺りは風が強いのだ。その強い風が夜の冷たい空気を運んでくるのだからなかなかに辛い。


「おーい。交代の時間だぞー」


 ロードメルトがそう言って歩み寄ってきた。どうやら二班との交代時間がきたようだ。


「了解っす、副隊長」


 ルードはそう言って歩き出した。フェイトもそれを見て彼に続く。


「副隊長、ありがとうございます」


「おうよ。ちゃんと休めよ」


 フェイトはロードメルトと言葉を交わすと一目散にテントへと駆け込んだ。テントの中では三班のランバルトとノーガスが寝ていた。女性はもちろん違うテントだ。フェイトは彼らを起こさないように気をつけて横になる。そして毛布にくるまって就寝をした。


「全員起きろぉー‼︎」


 突然鳴り響くロードメルトの声。フェイトはすかさず飛び起きた。就寝してから何時間経ったから分からないが夜である事は分かる。


「魔物か!」


 ルードがそう言って先にテントから飛び出した。フェイトも鞘に収まった剣を腰に吊るしながら外に出る。そして周辺の確認をした。エミリアたち女性メンバーも外に出てきている。二班の姿は見当たらない。


「エミリア! ゴーレムが現れた!」


 ロードメルトはそう言って暗闇から姿を現した。走っていたのか息が荒い。続けてワイス、アーノルド、フーイも野営地にやってきた。


「なんですって⁈」


 エミリアは驚いた様子だ。表情が一気に険しくなる。するとロードメルトがやって来た方向から地割れのような音がしだした。木々がなぎ倒される音が永遠と鳴り響き、鳥達が鳴き声を上げて一斉に飛び立つ。


 フェイト達は一斉に剣を抜刀して音が鳴る方向に視線を向ける。すると岩石や泥で形成された人型の大きな魔物が姿を現した。身体はとても大きい。十メートルはあるだろうか。


「なんでゴーレムがこんなところに!」


 ロメルダが声を上げる。


「ランバルトとノーガスは魔法攻撃! ミーシャとエイミーは私と一緒にエアをみんなにかけて!」


 エミリアの号令で三班のランバルト、ノーガス、ミーシャ、エイミーは魔法の行使を始めた。


「くらえ! サンダーエッジ!」


 ランバルトの雷魔法。雷をまとった魔法の刃を生み出して相手を斬り裂く魔法だ。ランバルトは一度に五つの刃を生成する事ができる。


「グラウンドピラー……」


 ノーガスの土魔法。地面から土の柱を勢いよく出現させて対象を叩き上げる魔法。剣を地面に突き刺さして行使する。


 ランバルトとノーガスの魔法攻撃がゴーレムに襲いかかった。岩同士がぶつかり合う激しい音と雷鳴が鳴り響いて砂埃が舞う。しかしゴーレムの岩肌の体は少し欠けたぐらいで四肢の破壊はできず、巨体が地面に倒れる事もない。


 ミーシャとエイミーは、エミリアと一緒に浮遊魔法のエアを仲間にかけている。小隊の面々の身体が浮かぶ。


「そんな!」


 まったくダメージがなかった事に驚くランバルト。


「なんなんですか? あれは」


 フェイトがロードメルトに訊いた。見た事も聞いた事もない魔物だったからだ。


「あいつはゴーレム。魔法で人工的に生み出す魔物だ」


「人工?」


「あぁ。ゴーレムは自然界に存在しない。召喚術師が戦争中によく使っていた魔法だ」


 ロードメルトは剣幕な表情でゴーレムを睨みながら説明をしてくれる。


「戦争が終わったばかりの頃は術師を失ったゴーレムが暴走して自然界に放たれたりしていたみたいだけど、戦争が終わって十年以上経つのよ⁈ とっくに朽ちているはずだわ!」


 エミリアが疑問に感じた事を言い放つ。


「どこかに召喚術師がいるかもしれない。エミリア一旦撤退を!」


 ロードメルトがそう言った瞬間、ゴーレムが膝をやや曲げて大きな口を開けると凄まじい咆哮を放った。耳を抑えないと鼓膜が破けそうな程の大きさで、頭が痛くなる。エミリア小隊は驚いて各々耳を塞いだ。


「なんて、咆哮だ……」


 ゴーレムから放たれる咆哮は永遠と続く。生きた生物ではないのだ。呼吸する必要がもともと無いからこそできる咆哮なのかもしれない。


 必死に堪えるエミリア小隊だったが浮遊魔法が解けて全員地面に落ちた。ゴーレムはそれを見計らったかのように咆哮をやめる。


「そんな……」


 ミーシャが自分のネックレスの飾りを手のひらに乗せて見ている。その飾りは魔導石で割れていた。


「まずいです! 魔導石が破壊されました!」


 エイミーの大声が響き渡る。フェイトは仲間の状態を確認する為に辺りを見渡す。すると仲間達が使っていた魔導石が全て割れていた。剣の装飾としてはめ込んだ魔導石もネックレスの飾りである魔導石も。


魔導石が無ければ魔法を使う事ができない。もっとも最悪な状況になってしまった。


「みんな撤退するわよ!」


 エミリアの号令で全員が一斉に走り出す。


「お前達は先に行け! 一番後ろは俺に任せろ!」


 ロードメルトの副隊長としての指示が飛ぶ。フェイト達はその指示に従ってロードメルトより先に走る。しかしすぐに先頭が立ち止まった。何事かと思いつつフェイトも止まる。


「最悪だ……」


 ルードが目の前の光景を見て呟いた。小隊の眼前に先程とは別のゴーレムが立っていたのだ。大きさはたいして変わらない。そのゴーレムは右手に岩石を持っている。そしてその岩石を小隊目掛けて投げてきた。


「退避ー‼︎」


 エミリアの号令でフェイト達は四方に散らばるように走り出す。投げられた岩石は音を立てて地面に衝突し大地を抉った。土埃が立ち視界が悪くなる。


 フェイトは土埃を吸ってしまったため咳が止まらない。


「危ない‼︎」


 ワイスの声が響き渡った。フェイトの左側から木々がなぎ倒される音が聞こえる。その音がものすごい早さで大きくなる。


(何かが来る!)


 フェイトがそう判断した瞬間だった。突如正面からゴーレムの腕が木々を叩き折りながら現れたのだ。その腕がフェイトに直撃する。


「ぬあぁぁあー‼︎」


 あまりの激痛に叫び声が出る。ゴーレムの腕に直接当たった胴体や足の膝から鋭い痛みが走る。身体が吹き飛ばされて木に衝突した。


「ぐは!」


 背中一面に激痛が走る。衝撃で首が変な方向に曲がりそうになった。


「フェイトー‼︎」


 誰かが叫んでいるが誰の声なのか分からない。身体に走る痛みが酷すぎたのだ。誰かがフェイトの側まで走ってきた。


「大丈夫かフェイト! 怪我わ⁉︎」


 ワイスだった。ワイスはフェイトの身体を確認する。


「膝が!」


 右足が上手く動かない。膝から激痛が走る。さっきの一撃で骨が折れているようだ。


「足をやられたのか⁉︎ 分かった肩かしてやる!」


「ん、ぐぅふ!」


 ワイスの手助けで何とか立ち上がるフェイト。他の仲間は二体のゴーレムの攻撃をかわしつつ、フェイトに危険が及ばないように注意を引きつけていた。


「ワイス! フェイトは無事か⁉︎」


「兄さん! 命はあるけど足をやられてる!」


 ロードメルトの問いに答えるワイス。


「ここは私達が引きつけるからワイスはフェイトを連れて先に行きなさい!」


「わかりました!」


 エミリアの言葉に返事をしたワイス。


「ほら行くぞフェイト! 歯ー食いしばれ!」


「ぬぅ……くぅ……」


 痛みを堪えて歩く。しかしワイスが立ち止まった。


「なんだこれ……」


 ワイスが見ている正面の地面に視線を向けると土が盛り上がって山みたいになっていた。その土の山が地面から出てきた岩石と混ざり合って人型になっていく。


「冗談だろ……」


 その正体はゴーレムだった。三体目のゴーレムで他の二体よりも大きい。そのゴーレムがとてつもない速度で殴りかかってきた。瞬間、ワイスはフェイトを突き飛ばす。


「逃げろフェイト!」


「ワイスさん!」


 ゴーレムの拳が地面に当たる。鈍い音が鳴り響く。突き飛ばされたフェイトはゴーレムの方を見た。


「________‼︎」


 ゴーレムの拳と地面との間に何かが挟まっている。拳を中心に何かしらの液体が吹き出ていて地面を濡らしていた。ゴーレムがゆっくりと拳を上げる。


「きゃぁぁぁあー‼︎」


 ミーシャが叫び声を上げた。挟まっていたのはワイスだったのだ。殴り潰されたワイスは血塗れで顔や手足が変な方向に曲がっている。


「ワイスさぁぁぁあん‼︎」


 フェイトはたまらず声を上げた。目の前の光景が信じられない。ワイスが死んでいる。異変に気付いた他のメンバーも表情が一気に強張った。


 膝から崩れて尻もちをついたミーシャは泣いている。そのミーシャにゴーレムが殴りかかる。


「ミーシャさん避けて!」


 ランバルトが叫んでミーシャのもとに走る。そしてミーシャを突き飛ばした。ミーシャを庇ったランバルトが殴り潰される。ミーシャの叫び声。他の仲間達の声が悲痛に鳴り響く。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁ‼︎」


「ワイスとランバルトがられたー‼︎」


「なんだと!」


 ルードの報告を聞いたロードメルトは、弟であるワイスの死体を見つめる。顔をうつぶせにして身体が震えている。


「貴様……よくも‼︎」


 ロードメルトは怒号をあげてゴーレム目掛けて走り出した。そしてゴーレムに剣を突き刺す。しかしダメージは入らない。


「よくも弟をぉぉぉおー‼︎」


 ロードメルトの悲痛な叫び声。剣を刺されたゴーレムはロードメルトを左手で握って持ち上げた。


「副隊長ー‼︎」


 フェイトは叫んだ。眼前で握り潰されるロードメルト。ゴーレムの手の隙間からはみ出た手足が力無く垂れ下がり、ロードメルトの身体から吹き出す血飛沫。


 フェイトは目の前のあまりにも酷い光景と身体の激痛の所為せいで気絶しそうになった。心臓の鼓動が速くなり思考が止まる。


 辺りから聞こえてくる仲間の叫び声。戦う音。泣く声。頭がおかしくなりそうだ。


「ぬぅあぁぁあー‼︎」


 フェイトは立ち上がった。そしてゴーレムを倒す為に走ろうとする。先程まであった激痛が感じなくなった。目の前にいるゴーレムを殺したいという意思だけが身体を支配する。


剣を持って折れた足など気にせずに走りだしたところでゴーレムに再度殴られた。吹き飛ばされるフェイトは地面に転がる。


(あいつを殺す‼︎)


 仲間を殺したゴーレムだけは絶対に許さない。


(動け……動けぇー‼︎)


 身体が動かない。声も出ない。周りから仲間の悲痛な叫び声が聞こえくる。仲間達の戦う音が聞こえくる。


(動いてくれ‼︎ 頼むから‼︎)


 目の前でミーシャが叩き潰された。その光景がまたしてもフェイトの目に焼き付く。心臓がえぐられたような痛み。力をいれようとした瞬間、全身に走る鋭い痛み。


(俺は護りたいんだ……お願いだから……)


 何故だろう、これまでエミリア小隊で過ごしてきた日々が走馬灯のように浮かぶ。音が聞こえなくなっていく。視界が悪いのか何も見えない。


(なんで……こうなってしまったんだろ……)


 自分の身体が動かない事。目の前で死んでいく仲間。フェイトの心は絶望に支配された。

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