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劣等剣士の物語(仮)  作者: 清乃 誠
第一巻 三話 突然の出来事
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22ページ

 それからの数日間、一班の仕事先である教会の入り口付近やエミリア小隊が使用している騎士団宿舎の周辺、城内などでレバルトをよく見かけるようになった。


無断で教会や騎士団宿舎に入ってくる訳ではないし、城内でもすれ違う時に睨まれるだけで以前の様に危害を加えてくる訳ではなかったのだが、やはりどこか引っかかる。


念の為、ロードメルトや小隊の仲間にも事情は話していた。エミリアが一人になるような状況を作らないように仲間同士で協力して警護をしたおかげで、レバルトはエミリアに手出しができないようだ。


 フェイトは城内をルードと一緒に歩いていた。教会での活動記録を書き記した報告書を大隊長に届ける為である。以前はエミリアが全て書いていた報告書も、今ではフェイト達一班のメンバーが週替わりでエミリアから頼まれる様になっていた。


 ルードと雑談をしながら歩いていると、正面からレバルトが仲間を数人引き連れてこちらに向かって歩いてきているのが見えた。フェイトはその姿を確認しつつ歩く。


「それでな? その時に……」


 ルードの話を聞いて歩いているフェイトの肩が何かにぶつかった。ルードは話すのをやめる。


「おいコラァ」


レバルトの声。彼の肩がフェイトに当たったのだ。レバルトは明らかに意図してぶつかってきていた。


「なんだその目わ。先輩にぶつかっておいて謝罪もしないのか?」


 不敵な笑みを浮かべるレバルト。


「申し訳ありません」


 フェイトは謝罪を言って頭を下げた。ルードはそんなフェイトを庇うように右手をフェイトの前に伸ばす。


「ふん、気をつけるんだなクソ餓鬼」


 レバルトはそう言い残して去っていく。


「なんなんだあいつ」


 ルードは剣幕な表情でレバルトを睨みながらそう言った。


「すいません」


「フェイトが謝ることないぜ? あいつ絶対わざとだろ」


「多分、目のかたきにされてますね」


「あいつはただひがんでるだけだろ。エミリアさんが先に小隊長になった事とか脱退処分を受けた事とか」


 エミリアへの執拗な執着心はそれが原因なのかとフェイトは納得する。そしてエミリアになかなか手出しができないからフェイトに牙を剥けているのかもしれない。


「あいつの所為せいでランバルトとミーシャが死にかけたってんのにふざけた野郎だ」


「ランバルトさんとミーシャさんがですか?」


「あぁ。あいつを脱退処分にした理由だ。作戦行動中に単独行動をして三班を危険に晒したんだよ」


「エミリアさんから聞いたことがあります。内容までは知らないですけど」


「あいつはな、フェイト。三班のみんなを餌にして魔物をおびき寄せるなんてふざけた作戦を単独でしやがったんだ」


 あまりにも酷過ぎる作戦だ。仲間を犠牲にする作戦なんて考えられない。何故、騎士を続けていられるのか不思議でならない程である。


「そんな奴がなんでまだ騎士を続けていられるんですかね……」


「あいつも一応そこそこの家柄だからな。良いように言い包めたのかもしれない」


 なるほどなと思った。貴族出なら根回しする事も可能かもしれない。貴族だからといって偏った見方はできないがその手の噂はよく耳にする話だった。


「自分の手柄の為に仲間を犠牲にするようなクソ野郎だ。フェイトもあまり関わらないようにしろよ」


「わかりました。ありがとうございます」


 フェイトはルードの助言通り、あまりレバルトに関わらないように努めた。レバルトの姿を見かけるとわざと別の道を歩いたりして鉢合わせしないようにしたのだ。


 フェイトがレバルトの事を気にせずに過ごせるのは騎士団宿舎と仕事先の教会、王都の外での任務の時だけだ。そんな日々を繰り返していたフェイトであったが今は安心して過ごせる騎士団宿舎にいる。


騎士団宿舎では珍しくみんなバタバタと忙しくそうに動き回っていた。エミリア小隊だけでなく同じ宿舎を使っている別の小隊の騎士達も慌ただしい。


「フェイトー! 書類の準備できたー⁈」


「できましたー!」


 エミリアの質問に答えるフェイト。宿舎内が慌ただしいのには理由があった。数ある騎士団が集結して行われる合同集会があるからである。


 エルファンド王国には年に一度行われる式典がいくつかあるのだが、今回の合同集会の目的は追悼式に向けての話だ。


 王族地区には戦時中に戦死した騎士や兵士、亡くなった多くの国民への追悼と平和への祈りを込めて建立された大きな慰霊碑が置かれた広場がある。


追悼式のある日は、普段は王族地区に入れない一般市民も追悼式に参列する為に入る事ができるのだが、その際、階級の低い騎士は警備任務をする事になる。合同集会ではその話が行われるのだ。


「三班の準備終わりました」


 ランバルトがそう言ってフェイト達一班のいる部屋に入ってきた。ランバルトに続いてノーガス、ミーシャ、エイミーも入ってくる。


「あとは二班ね」


 ランバルトの言葉を聞いたエミリアが短く言った。


「ワイスとアーノルドの事だから、また副隊長に遅いって怒られてそうですね」


 ロメルダのその言葉に部屋にいたメンバーは少し笑う。実際、後から部屋に入ってきたワイスとアーノルドの二人は頭をさすっていてみんなの笑いを誘った。


「よし、みんな行くわよ!」


 それぞれの準備が終わり、集合したエミリア小隊はエミリアの掛け声とともに歩きだし宿舎を後にする。そして合同集会が行われる城へと向かった。


 城へとたどり着いたエミリア小隊は開かれた城門を通って合同集会のある大広間に向かう。道中には多くの騎士達が居て、それぞれに集まって雑談をしていた。騎士達は各々手に紙を持っている。おそらく合同集会に関係するものだろう。


 そんな城内を歩いていたフェイトであったが、何か違和感を感じた。それは小隊の仲間も一緒みたいだ。


「なんだかやけに注目されてないか? 俺達」


 ロードメルトの指摘は正しい。フェイトも同じ事を考えていた。廊下ですれ違う者や集まっている騎士達がエミリア小隊に視線を向けて小声で何か話しているのだ。


そんな騎士達にフェイトが視線を向けると、騎士達はみんな視線を逸らす。なんだか気持ちの悪い空気を感じた。


「なんでしょうね?」


「注目されるの嫌い……」


 ランバルトも不思議がっている。ミーシャはもともと人見知りが激しいところがあるので困っているようだ。


「何見てんだこの野郎……」


「じろじろ見やがって……」


「お前ら喧嘩するなよー?」


 視線にイラついているワイスとアーノルドを諭すロードメルトの言葉。


「でも、本当ほんとなんでしょうかね?」


 両手を頭の後ろで組みながら歩くフーイがエミリアに話し掛けた。


「なんだろ? 最近みんなが頑張ってくれているから名前が売れて他の隊が注目してるのかもね」


「おぉー」


 笑みを浮かべて返事をするエミリア。その言葉を聞いたメンバーは少し響めく。フェイトはずっと無言で仲間の話を聞いていた。


やがて大広間に繋がる大きな両開き扉の前までたどり着いたエミリア小隊。エミリアはその扉を開いた。


 多くの騎士達が小隊ごとにテーブルを囲って椅子に座っている。お互いに雑談をしていて賑やかなものだ。エミリア小隊は少し早めに到着したので、良く見るとまだ誰も来ていないスペースもちらほらあった。


扉の正面から奥まで真っ直ぐと通路が延びていて、その通路の左右にたくさんのテーブルと椅子がある。奥は壇になっていて真ん中には演台が設けられていた。


 エミリアを先頭に小隊のメンバーは通路を歩く。エミリア小隊の席は奥にある壇の近くなのでだいぶん歩かないといけない。けっこう歩いたのだが、まだ大広間の真ん中ぐらいだ。


 フェイト達が歩いていると一人の男がテーブル側から通路に出てきて、エミリア小隊の行く手を阻むように立ち止まった。その男はレバルトだ。


 エミリアを含め小隊全員の表情が険しくなる。


「やっと来たか」


「なんの用かしら?」


 嫌らしく笑みを浮かべるレバルトにエミリアが冷たく言い放った。するとレバルトは鼻で笑う。


「なに、今はお前にじゃない。そこの餓鬼に用があるだけだ。なぁーフェイト」


 唐突に呼ばれた自分の名前に少し驚くフェイト。でも動揺したりはしない。


「なんですか?」


 フェイトは短く返事をする。


「今、騎士団でこんなのが出回っていてなぁー。ほれ、直接見たほうが早いだろう?」


 レバルトはそう言って歩み寄ってくると、一枚の紙を手渡してきた。フェイトはそれを見る。


「________‼︎」


 紙に記された言葉と添えられた二枚の写真。その内容を理解するのに時間は要らなかった。でも理解する事と受け入れる事は別だ。理解できてもすぐに内容を受け入れられなかった。


呼吸が上手くできない。周りの音もはっきりと聞こえない。身体中から嫌な汗が吹き出てきて、全身に寒気が襲ってくる。その紙にはこう書かれていた。


 フェイト・オズワルドに関する事実。


 フェイト・オズワルドは偽の性を使っている。本当の性はラーセン。そう、かの有名な裏切り者にして大犯罪人、シルド・ラーセンの子供である。


写真は彼がとある墓に行っている時のものだが、ごらんの通り墓にはフレア・フラメレンと刻まれていた。その名前はシルドの妻だった者の名前で記録も残っている。それが何よりの証拠なのだ。


また騎士団将軍とフェイトの顔は似ておらず、将軍は妻もいない。子の年齢も完全に一致している。フェイト・ラーセンは騎士団将軍の性を勝ってに名乗って騎士団に忍び込んだ犯罪者であり、大犯罪人の子供なのだ。


 視界が揺れる。身体の震えが止まらない。今にも意識が飛びそうだ。鋭い痛みが胸に走る。吐きそうだ。


「何か言ったらどうだ? 大犯罪人の息子くん?」


 不敵に笑うレバルトが言い放つ。大広間に居た騎士達はいつの間にか雑談をやめて、フェイトとレバルトの方に視線を向けていた。


「あいつが犯罪者の子供か……」


「汚れた血が。なんで騎士になってんだよ……」


「てか、死ねよマジで……」


「あいつの親父のせいで戦争は勝てなかったんだぞ……」


 レバルトとフェイト達の周辺にいる多くの騎士達が口々に小声で話し出す。剣幕な表情で今にもフェイトに殴りかかりそうな騎士もいるし、不敵な笑みを浮かべて罵る騎士もいた。


 フェイトの事を書かれた紙と二枚の写真がフェイトの手から離れて地面に落ちる。その紙を拾い上げたエミリアは内容を見てフェイトに視線を向けた。


「フェイト……」


 フェイトは無意識にレバルトに背を向けると下をうつむいたまま歩き出す。エミリア小隊の仲間の間をすり抜けて出口へと向かった。この場に居ても立っても居られなかったのだ。


「フェイト!」


 エミリアの呼び声にも答えられないフェイト。


(もう……みんなとは一緒にいられない……)


 動悸が激しくなり息がやや荒くなったフェイトは無言のまま大広間を出ていった。エミリア小隊の仲間達はフェイトの出ていった入り口を見つめている。


 大広間はフェイトの事を罵る言葉とレバルトの不敵な笑い声だけが響き、異様な空気に包まれていた。

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