親友
気まずい沈黙が私たちを包んだ。
放課後の屋上には、私と佳奈しかいない。
佳奈は自慢の長い髪をふわりと風に靡かせフェンスにもたれながら空を見上げた。
相変わらず美少女だ。
ぱっちりした二重の目に、すっと通った鼻筋、ニキビ一つない白い肌、ちょっと尖った神経質そうな顎、ほっそりとした長い手足。
全部、私と正反対。
私は色黒だし、目は一重だし、少し横に潰れた丸顔で、鼻ぺちゃで、顔には吹き出物がちらほら、挙げ句チビで短足。
「まさか、智世子も紀村君のこと好きだったなんてなあ……気がつかなかった」
佳奈は小さな溜め息をついた。
気がつかなくて当たり前だ、隠してたんだから。
「私だって、佳奈が紀村君のこと好きだなんて知らなかった」
私は小さく呟いて、俯いた。
佳奈が紀村君のこと好きだなんて、神様も意地悪だ。
佳奈と私じゃ格が違う。佳奈になんて勝てっこない。
紀村君だって、そりゃあ可愛い子の方がいいに決まってる。
佳奈は性格だっていいし、あたしなんか、あたしなんか……。
「参ったな」
佳奈はずるずると座り込み、髪をかきあげた。柔らかそうな髪がさらさらと佳奈の指からこぼれる。
「ほんと、参っちゃった」
そう繰り返して、佳奈は目を瞑った。
眠り姫みたいな綺麗な顔。
佳奈は何にも参ることなんてない。
私が取るべき道は一つで佳奈が取るべき道も一つ。つまり、私が身を引き、佳奈が紀村君に告白する。
きっと紀村君はOKするだろうから、それでめでたしめでたし、だ。
「佳奈は何にも参ることないじゃん、私のこと気にしないで紀村君に告りなよ。佳奈ならきっとOK貰えるって」
私は佳奈の隣に座った。
佳奈の目は見ない。真っ直ぐ前を向いたままだ。
「……言ってる意味がわかんない」
「だから
「馬鹿じゃないの!! アンタって何でそんな大馬鹿なのよ!」
いきなり怒鳴られ、私は呆然とする。
なんだ、分かってんじゃん。ちゃんと。
佳奈は大きく肩で息をしながら、目を潤ませていた。美少女は怒っても美少女なんだな、とぼんやり思った。
「アンタだって紀村君のこと好きなくせに馬鹿なこと言わないでよ! 何よ、それ。あたし、あたしは……」
続きは言葉にならなかった。
佳奈の大きな目から大粒の涙が溢れて、洪水になった。ひっくひっくと啜り泣く佳奈の背中を慌ててさすりながら、私は言った。
「ごめん、佳奈」
「謝らないでよ、みっともないじゃない」
くぐもった声で佳奈は返事をした。
ああ。そうだった。
本当にいい子なんだ、この子は。
優しくてか弱くて強がりで。
私が一番知っていたじゃないか。
「ごめん」
「だから、謝らないでってば」
「本当に、ごめん。ごめんなさい……」
何を謝っているんだか分かってなかったのに、私はただそう繰り返した。
何故だか無性に悲しくなって悔しくなって佳奈の背にしがみついて、思い切り泣いていた。