ビター
不意に閉じたままの視界が眩しくなった。
微かに目を開けると、ベッドの近くの電気スタンドが煌々と自己主張をしている。
そういえばタイマーで明かりが灯るようにしておいたんだった、と思い出すと同時に段々と思考がはっきりとしてくる。
ゆっくりと体を起こし傍らを見やると、程よく筋肉のついた背中が規則正しく微かに波打っていた。そうっと正面を覗き込めば何より大切な恋人は子供のような寝顔で小さな寝息をたてている。
起きる気配は全くない。
私はそれだけ確認すると、ゆっくりと、音をたてないよう静かにベッドから降り、手早く服を身につけた。
今日は早く片付けなきゃならない仕事があるのだ。こんなときにすぐに帰るだなんて慌ただしすぎてムードも何もあったものではないが、流石にそんなこともいっていられない。
何か一言言ってから帰った方がいいのだろうか。
一瞬そんなことが頭をよぎったが、直後それはできないと思い直す。
彼の安眠を妨害するのは本意ではないし、何より今彼と顔をあわせたとしてどんな顔をすればいいのかもわからない。
何も言わずに此処を出るのは少し気が引けるのも事実だったが、結局書き置きだけ残して帰ることにした。
出る前に一度だけ部屋を振り返る。
少しけばけばしく感じる装飾品や色が剥がれかけた壁紙、汚れで微かに曇った窓。
けして趣味がいいとは言えないこの部屋から出るのが妙に寂しかった。
名残惜しい気持というものはとても苦くてそれでも少しだけ甘い。
徐々に動き出した街を曇った窓越しに見ながらふとそんなことを思う。
太陽がようやく昇ろうとしていた。




