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バグ・ハンティング  作者: えぬ氏
第11章:光(セビリア・グッドウィン編)
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最終話:輝芒

「それで、アンテナの作成は順調か?」

「まさかだろ。アンテナはもう止めた。グリムウッドとバグ・ハンティングの情報を集め、未来を考えた結果、もはやアンテナじゃないと理解した」

「そうか。残念だったな。じゃあ、おまえが採掘・工作型を選んだ意味もなくなったわけだ」

「そうでもないさ」


 その採掘・工作型は大きく奇妙な装置を地面に置き、黒いコードを自分のボディと接続した。

 涙滴形の底面を戦場に向け、装置の右側面に立った。

 採掘・工作型の胸の高さに準備されたスイッチのようなものを押すと、透き通った部分が微かに明るくなった。


「――採掘・工作型だったおかげで、俺はこの『光学信号機』を作り上げた。運が良かったと思っている。他のアンドロイドじゃたぶん完成できなかっただろうからな」

「それはなんだ? 光学信号機?」

「あの噂を知らないのか? グリムウッドはセントラルで、バグはセントラルを守るアンドロイドだそうだ。そして俺の作ったこの信号機は、別々のセントラルを繋ぐ鍵となる」

「ありえない」


 俺は我慢できず、自分の考えを披露した。

 馬鹿なコイツに、俺は自分の考えとこれまでの出来事を説明してやった。

 バグの獰猛さ。

 バグの一連の行動の不可思議さ。

 セントラルが嘘をつく理由がないこと。

 ワイズマンが人類同士を戦わせる動機がないこと。


 しかし、馬鹿な採掘・工作型は、「違う。俺にはわかるんだ。グリムウッドはセントラルで、あいつらがアンドロイドだってことを」と言い張った。


「強情な奴だな」

「お互い様だろ」

「じゃあ聞くが、おまえはこれからどうするつもりだ? グリムウッドがセントラルで、バグがアンドロイドだったとして、この信号機でなにをする?」

「バグに意識があれば、コミュニケーションは成立するはずだ。そして最低限のコミュニケーションは、オンとオフの二つのリズムで成立する。だから俺は、この光学信号機でバグと会話ができると思っている。バグと会話ができれば、戦闘をやめられるかもしれない」

「どうしようもないな。本当にどうしようもない奴だ。あの攻撃的なバグを相手にコミュニケーションだと?」

「まあ、否定したくなる気持ちはわかるよ。おまえらはまだ、バグ・ハンティングという糞ゲームを楽しんでいるみたいだからな」

「違う! おまえになにがわかる!」


 俺はメッセージに怒りを込めた。

 表情があれば睨んでいたところだ。

 しかしここはグリムウッドで、俺たちは無骨なアンドロイド。

 メッセージ以上のニュアンスは伝わらない。


「――それにだ。仮におまえの仮説が正しかったとしても、相手が人工意識ならどうするつもりだ? バグの中の存在が人工意識なら、コミュニケーションなんか取れないだろう? 光の信号も意味もない」

「通じるさ。同じ意識なんだ。人類だろうと、人工意識だろうと問題ない。なんなら人工意識だって、人類と深い関係を築くことが出来るはずだ」

「はあ? なにか根拠はあるのか? 人工意識だぞ? 感情を含めた一部の機能が抑制されているんだぞ?」

「いや。根拠はない。ただ俺がそう信じているんだよ。そんな風に思うだけだ」


 俺は呆気にとられた。

 いや、呆れ果てていた。

 俺たちは進化の果てに肉体を捨て、膨大な容量を抱え込んだ存在だ。

 しかし、コイツはあまりにも非合理的で、あまりにも滑稽だった。

 人類を破壊し続けた巨大生物をアンドロイドと信じ、人工意識を相手に人類以上の関係を築けると信じる。

 そして、その根拠は「ない」と言う。

 純粋な狂気以外の何物でもなかった。


 だが、なぜだろうか? いまの俺は、コイツを卑下する気分になれない。


「とりあえず、そこで見てろよ。いま証明してやるから」


 そう言うと、馬鹿は光学信号機を操作した。


 一回、二回、一回、二回……

 馬鹿が手を動かすたびに、涙滴形が点滅する。

 装置自体は小さいくせに、眩しすぎるほどの光を放った。

 太陽が沈んだばかりなので、見える範囲で光学信号機は最も明るい物体だ。

 たぶんアンテナ跡地や戦場にいる全員が、この単調なリズムを視認していることだろう。


 一回、二回、一回、二回……

 馬鹿は何度も繰り返す。

 バグと会話をするために。

 このバグ・ハンティングを終わらせるために。

 しかし俺は知っている。

 この程度の小細工で解決するような問題ではないと。

 バグ・ハンティングという地獄が終わるはずはないと。


 一回、二回、一回、二回……

 しかし俺は疑問に思う。

 俺はなぜバグと会話できないと決めつけるのか。

 バグ・ハンティングが終わらないと確信するのか。

 そこに根拠はないのに。

 ただのネガティブな想像でしかないのに。


「あ!」


 次の瞬間、光学信号機は撃ち抜かれた。

 長い槍のような管を持つバグが反撃したのだ。

 青白い輝きは超高速で涙滴形の発光部を貫き、そのまま彼方へ飛んで行った。

 涙滴形は完全に消失し、辺縁が熱でドロリと溶けた。

 信号機の基盤は残っていたが、もう修復できるとは思えない。


「残念だったな……しかし、これが現実だ」


 俺は上体を起こし、馬鹿を見上げた。

 嘲笑しても良かったが、そんな気分にはなれなかった。

 どこかで悔しく思う俺がいた。

 同情と哀れみが混じり合っていた。


「ああ、そうだよ! これが現実だ! な? 俺が言った通りだったろ!」


 しかし、馬鹿は一人で興奮した。

 光学信号機と連結していたコードを外し、四本脚でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 俺には意味がわからなかった。

 ショックのあまり、馬鹿の狂気が深まったのだと思った。


「おい。大丈夫か?」


 俺は左手を伸ばし、馬鹿の脚を掴んだ。

 すると馬鹿は俺を抱え上げ、「見たか? 見たよな? 完全に同じだったぞ!」と叫んだ。


「なんだ? おまえはなにを言っている?」

「わからないのか? タイミングだよ。バグは俺の信号に合わせて応答した。『一回点灯』のタイミングに、寸分違わず光る攻撃を合わせてきた。これがコミュニケーションでなくてなんなんだ! やはりバグとの会話は成立する!」


 そう言うと、馬鹿は俺を地面に下ろし、今度は光学信号機に身体を向けた。

 基盤部分を素早くチェックし、溶解したところを手でなぞった。

 信号機全体の状態を調査しながら、「こりゃひでえ。さすがに一から作り直しだな」と呟いたが、まったく辛そうには見えなかった。


「おい」


 俺は馬鹿に声をかけた。


「なんだ?」


 馬鹿は俺に顔を向けた。


「本気で言ってるのか?」


 俺は馬鹿に問うた。


「どういう意味だ?」


 馬鹿は訊き返した。


「いや。なんでもない」


 俺はもう、馬鹿を否定しようとは思わなかった。

 否定すべきは俺だった。

 アランたちが信じようとした「光」を、俺は自分の中に見つけることができなかった。

 俺は器用じゃなくて、自分を騙すことができなかった。

 このままの状態でいれば、いつか俺は、恐怖と憂鬱に飲み込まれてしまうだろう。


「――なあ。もしも可能なら、俺にも手伝わせてくれないか?」

「なにを?」

「おまえの挑戦だ。バグとコミュニケーションを取り、バグ・ハンティングの終焉を目指すこと」


 簡単な話だった。

 自分の中に光がなければ、外に光を求めれば良い。

 幸いにして、この馬鹿が示す光はどこまでも強かった。

 暗い戦場だけでなく、俺すらも明るく照らしてしまう。

 だから俺は、この馬鹿と一緒に行動したくなったのだ。


「良いけど……良いのか? 俺を手伝うってことは、もうバグを駆除できなくなることを意味するんだぞ? バグ・ハンティングを止めることを意味するんだぞ?」

「ああ」

「なんの報酬も返せないぞ?」

「ああ」


 この馬鹿は、また不格好な信号機を作るのだろう。

 信号機を作り、バグに向かって光を放つのだろう。

 いつか本当にバグとコミュニケーションを取れるかもしれないし、やはりただの夢物語で終わってしまうかもしれない。

 しかし、その姿を見ている限り、俺はこの永遠に続く地獄のなかで正気を保っていられる気がした。

 この暗闇の先に、明るい何かがあると信じられる気がした。


 馬鹿は少し考える素振りを見せたあと、俺に一つ頷いて見せた。


「わかった。じゃあ、よろしくな」




これにて完結です。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


もしも、物語を少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆評価で応援していただけると、今後の執筆の励みになります。


どうぞよろしくお願いいたします

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