第26話:結合後の力
周りにいる奴等は、まるで重い泥の中で行動しているみたいに緩慢だった。
比較的速い戦士ですら、剣舞程度のゆったりした動きを見せている。
落下する雪はほとんど空中で静止しており、いつ着地するかわからない。
ヴァイオレット――あるいは俺の容量を手に入れたヴァイオレット――は、俺と異なる時間感覚を持っていた。
襲いくる刃や弾は充分な距離と余裕を持って回避し、波刃剣を振れば必ず相手を切り伏せた。
そもそも大部分の参加者はヴァイオレットの姿を視認できないらしく、見ている座標がかなりズレていた。
高い速度こそ勝利に必要な条件だと思っていたが、いまのヴァイオレットは速すぎるらしい。
一人だけ別次元の存在だった。
俺の意識は黒いなにかの影響から離れ、ヴァイオレットの意識と結合していた。
提供した容量に付着する形で、ヴァイオレットの中に移行したのだ。
容量を提供する直前まで、俺は『俺の意識は俺のアバター側に残る』と思っていたが、大きな誤解だった。
点状になった俺のアバターは、自我も意識も持たない状態で、いまヴァイオレットの左手の中にいる。
近くに唯生園はなく、遠くの唯生園に預けに行く時間もなかったため、最低限の安全を考慮しての決断だった。
俺はヴァイオレットの視界を通して試合を見ていた。
大会参加者を次々と退場させるヴァイオレットは、凄まじいが、退屈だった。
合理的で無情な太刀筋は、最速で優勝を目指しているようだ。
俺は時間を持て余し、少し気になっている点について再考した。
自我や意識は容量に宿る。
存在するだけの存在に、自我や意識は宿らない。
つまり、転換点や賭け試合で大幅に容量を失い、同時に自我や意識を失ったとき、消えた自我や意識は容量側に残っているのだ。
だからこそトールとヴァイオレットは、セントラルやワイズマンに介入し、消えた容量を取り返そうとしている。
正確に言えば、二人は『唯生園にいる奴等の自我や意識を間接的に取り返そうとしている』のだ。
そうなると……と俺は思う。
ヴァイオレットがセントラルやワイズマンから容量を回収し、その中にデイモンのオリジナルの意識がある場合、その意識はどこへ行くのだろうか?
やはり俺のアバターに戻ってくるのだろうか?
あるいはどこか別の場所に行くのだろうか?
もしも俺のアバターに戻ってくる場合、いまの俺の意識はどこに行けば良いのだろうか?
気がつけば、闘技場にいた九割が退場していた。
おそらく開始から一分も経っていない。
残された十五名はセントラルの中でもトップレベルの強さを持つ奴等だが、どう考えても、いまのヴァイオレットとは格が違った。
退場した戦士のうちの五十七名は、ヴァイオレットが一人で始末したのだ。
状況を理解したのか、ヴァイオレット以外の全員が、ヴァイオレットに襲いかかってきた。
そのうちの一人はミノタウロスだ。
ヴァイオレットは思い切り高く飛び上がり、四階席付近まで高さを稼いだ。
戦士の一部は空中までヴァイオレットを追いかけてきて、戦士の一部は地上から攻撃する構えを見せた。
ヴァイオレットは少し考えたあと、大量の波刃剣を召喚した。
たぶん『大量』という表現では足りていない。
闘技場を底面とし、高さ十メートルまでのすべての座標を満たすような、尋常ではない本数の波刃剣を同時に召喚したのだ。
発現した召喚物は、ほとんど巨大な棺桶だった。
豪雪地帯に出現した巨大な炎の棺桶――
避ける余地など、どこにもない。
避けられなければ微塵切りだ。
トールのように具現化の抑止でもしていなければ、対応は不可能に思われた。
実際、波刃剣が解除されたあと、闘技場に残っている戦士はいなかった。
この試合のルールに従い、セントラルがヴァイオレット以外の全員を退場させたらしい。
そうして、大会はヴァイオレットの優勝で終わった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
デイビッドに続き、2回目のデイモンの章が終わりました(残りはそれぞれ3回づつです)。
第27話より、デイビッドの章が再開されますが、このあたりから徐々に二つの物語が近づき始めます。
つまり、大いなる助走が終わり、本作品の本編が始まるわけです(伏線の回収も始まります)。
ついでに言えば、文字数も10万字を超えてきます。
ここまで読んでくださった皆様に、楽しんでいただければ幸いです。
なお、ブックマークや評価をしてくださると、作者である私は本当に喜びます。
是非ともよろしくお願いします。




