75話 戦国時代
森の奥の古い祠。
淡い光があたり一面に広がり、シェルとフローナは思わず目を細めた。
フローナ「ここ、どこ?何だか空気が違う・・・」
シェル「なんか嫌な予感・・・いや、いい予感もするような・・・?」
フローナ「何言ってんの笑」
光が晴れた瞬間、二人は息をのんだ。
そこには美しい着物を纏ったフローナと、甲冑姿の青年が立っていた。
青年「ほう・・・これが噂の“未来”か」
フローナ「え・・・わ、私たちにそっくり!?」
◆前世と現世、四人の対面
戦国シェルは優雅に目を細め、現代フローナを見つめた。
戦国シェル「五百年経とうとも、フローナは変わらず愛らしいなぁ」
フローナ「え、えぇっ!?///」
現代シェル「なーんかフローナ、見惚れてね?」
フローナ「だ、だって戦国バージョンのシェル・・・色気がすごいんだもん」
現代シェル「はいはい。現代の俺は色気がなくてすいませんねぇ」
フローナ「そ、そんなこと言ってないじゃない!」
戦国フローナがくすっと微笑む。
戦国フローナ「あら、ふふ、五百年後のお二人は、とても可愛らしい恋をしているのね」
現代シェル「そ、そうですかね!」
フローナ「自分だって照れてるくせに!」
フローナが横目でじと〜っと見る。
シェル「いやだってさ・・・フローナの五百年前の色気すげーんだもん」
フローナ「はいはい、私には色気がなくてすみませんねぇ」
シェル「そんなこと言ってねーだろ」
戦国フローナ「うふふふ」
四人の空気は、不思議と心地よく混ざり合っていた。
◆五百年前 ― 戦国シェルとフローナ
遠い昔。
戦国時代のシェルは城下を見渡す座敷で口を開いた。
戦国シェル「じい。フローナを俺の専属にしてくれ」
じい「・・・!は、はい、かしこまりました」
後日。
戦国フローナ「あの、一聞いてもよろしいでしょうか?」
シェル「何だ?」
フローナ「どうして私を専属に?」
シェル「決まっている。俺がお前を好いているからだ」
フローナ「えっ/// な、なぜ、シェル様ほどのお方が私など・・・?」
シェル「笑った顔が好きなんだ。それだけでは理由にならないか?」
フローナ「い、いえ・・・」
フローナは顔を赤く染めて目を逸らしたが、
そんな彼女をシェルは優しく見つめていた。
ある日、ついに言ってしまった。
シェル「フローナ、俺の女になってくれ!」
フローナ「いけません!私のような身分の低い者がシェル様とだなんて!」
シェル「では、周りが許せば良いのか?
身分が無ければ俺のものになってくれるのか?」
フローナ「シェル様は意地悪です・・・本当に困ったお方」
シェル「フローナは俺が嫌か?」
フローナ「嫌だなんて・・・好きで・・・あっ!」
フローナが慌てて手で口を押さえる。
シェルはあぐらをかいていた膝をポンっと叩いた。
シェル「よし、決めた!フローナは俺のものにする!」
フローナ「か、勝手に困ります!」
シェル「もう決めた」
ニッコリと笑う笑顔は太陽ののように眩しい。
その決意は、誰にも止められなかった。
家臣「シェル様、見合いの話が届いております」
シェル「俺はフローナが好きだと言っただろう」
「しかし・・・身分のない使用人では・・・」
シェル「口を慎め。俺の想い人の悪口は許さん」
いつもにこやかなシェルの睨みは凄みがあった。
「も、申し訳ございません!」
家臣が土下座をして謝るが別の家臣も続けて言う。
「しかしながらシェル様、多くの者がそのように思われていることもお忘れなく」
シェル「皆の気持ちも分かる。だが、俺はフローナ以外を嫁にもらう気はない、側室もいらぬ。他の者にもそう伝えておけ」
「「は、はいっ!!」」
シェルは自分のものにすると決めてからというものの、暇さえあればフローナの仕事場に足を運ぶようにもなった。
フローナ「シェル様、お仕事中は困ります」
シェル「仕事など放っておけ」
フローナ「放っておけません、仕事なのですから」
シェル「フローナは硬いなぁ。まるでレンのようだ」
レン「俺が何ですって?」
背後からドスの聞いた声が聞こえてきた。
シェル「レン、いたなら声をかけろ」
レンがギロリとシェルを睨むと、すぐに表情を柔らかくしてフローナに話しかけた。
レン「フローナさん、申し訳ありません。シェル様が邪魔をしてしまい・・・」
フローナ「いえ!来て頂けるのは嬉しいのですが・・・」
レンがくるっとシェルに向き直る。
レン「シェル様。あなたが良くてもフローナさんが困ります」
レンに腕を引かれ、連れて行かれながらも手を振るシェルを見て、フローナは苦笑した。
シェル「フローナ、また来る!」
(・・・本当に困った人)
◆二年後 ― 決意の瞬間
フローナはついに、周囲から背中を押される。
「フローナ、腹を決めなさい」
(最初は反対の声ばかりだったから断る口実も作れていたけれど・・・こうなったら
私も、覚悟を決めなきゃいけないわね)
フローナ「シェル様」
シェル「入れ」
フローナが部屋に入り、シェルの前に座った。
そんなフローナにシェルは優しく手を差し出した。
シェル「俺の手を取れ、フローナ」
フローナ「もう、あなたには負けました」
困ったように、でも幸せそうに微笑みながら、彼の手に自分の手を重ねた。
その瞬間、二人はようやく恋仲になったのだった。
♦︎そして現代。
シェル「前世の俺、なかなかだな・・・」
フローナ「前世の私も、なんかすごい・・・」
戦国フローナ「未来の二人、どうか幸せになってね」
戦国シェル「五百年経ってもフローナを好きでいられるとは、俺も中々だな」
光が再び四人を包む。
戦国フローナ「またいつか」
戦国シェル「フローナを頼んだぞ、未来の俺」
シェル「任せとけ!」
光が消えると、祠には現代の二人だけが残っていた。
フローナ「不思議な体験だったね」
シェル「でもまあ。五百年前も今も、俺ら仲良しってことだよな!」
フローナ「うん、そうだね」
シェルは軽く笑いながら、彼女の頭をぽんと撫でた。




