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24 夜会での発表


 心配しないでとはどのような意味なのでしょう。

 ほどなくして、魔道具の音増幅器からの声が聞こえてきました。


「ただいまより、ルダリア王国アデリナ殿下のご婚約発表を執り行います」


 何の前触れもなく告げられたアデリナ殿下のご婚約発表に、辺りはざわめきに満ち溢れました。


「エル……、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」


 心配そうに、私の顔を覗き込んだセルジュ様。

 あの日以降も変わらずに接してくれている彼は、いち早く私を気にかけてくれました。


「気分が優れないのでしたら、どこかで休みましょうか?」


 続いて私の顔色を確認したシリル様。

 二人に心配をかけないよう何とか笑みを作って、首を横に振りました。


「大丈夫です、ありがとうございます。あの……、殿下はこの発表のために……」


 聞かずともそうに決まっているのですが、そう尋ねずにはいられませんでした。


 二人は顔を見合わせると何とも言えない表情になりましたが、シリル様は気が進まない様子で私に視線を移しました。


「そうです。申し訳ないけど、ミシェル嬢を安心させられる言葉はかけられません。殿下はできるだけの事はしたと思いますが、最終判断は国王陛下なので」

「そう……、ですか……」


 殿下はきっと、これからおこなわれる発表に対して心配するなと言ってくれたのでしょう。それでも私の心は落ち着きません。


 今日の殿下は勲章を授与されました。その流れでアデリナ殿下との婚約が発表されたら、王太子の座は揺るぎないものになるでしょう。


 彼が王位に就くことを願いながらも、一方で殿下が他の方と婚約するかもしれないことに耐えられない自分がいて。頭の中はぐちゃぐちゃです。


 そんな私の心とは無関係に、吹き抜けから見える二階のドアが開き、会場は大きな拍手に包まれました。


 主役であるアデリナ殿下の両脇には、ルシアン殿下と第三王子が立っていて。二人にエスコートされながらアデリナ殿下は、階段を優雅に下りてきます。

 ルシアン殿下と親し気に会話をしている様子から、どちらをお慕いしているのかは一目瞭然です。


 続いて国王夫妻が階段を下りてから、国王陛下のお言葉があり。

 アデリナ殿下がこの国へ来られた経緯と、彼女がいかに素晴らしい女性なのかを話されました。


「両国の友好関係をさらに深めるため、これより息子たちのどちらと婚約を結んでいただくか発表する」


 その瞬間。アデリナ殿下がルシアン殿下の手を握りに、こりと彼に向って微笑んだのを見て、私は悟りました。


 もう、見ていられません。


 身をひるがえし急いで出口へ向かい始めると、「エル、急に動くな!」とセルジュ様の慌てた声が聞こえました。

 けれど、その時にはすでに手遅れで。


 着慣れないフリルたっぷりのドレスによって体勢を崩した私は、見事につまずいて転びました。


 しかも、人を巻き込んで。


 私を受け止めるようにして倒してしまった方の顔を確認して、私は青ざめました。


「申し訳ありません! アーデル公爵様!」


 殿下の大切な後ろ盾である公爵様に、なんて失礼なことをしてしまったのでしょう。

 慌てて離れて謝罪をすると、公爵様は穏やかに微笑んで上半身を起こしました。


「いやいや。この歳になって、可憐なお嬢さんが腕の中に飛び込んでくるとは思わなかったよ」


 公爵様が冗談交じりにそう笑うと、周りの方々からも笑いが起きました。けれど冗談で済まされる事態でないのは、重々承知しています。


「お怪我はありませんか、公爵様! 今、回復魔法をっ」


 急いで杖を取り出そうとした私の腕を、柔らかく掴んだ公爵様。


「心配しなくても、ルシアン殿下から聞いているよ。君には事情があるんだろう?」


 なだめるように小声でそう言った公爵様は、私の足に視線を向けたような気がして。私の動きは完全に止まりました。


 殿下は知っていたのですか……。


「ミシェル!!」


 殿下の声がしたので振り返ってみると、殿下が発表の場から離れて駆け寄ってきてきます。


「ミシェル! 怪我はないか!」

「あの……、私よりアーデル公爵様が……」


 そう殿下に伝えると、彼は微笑みながら私の頭をぽんとなでてから、公爵様に手を差し出しました。

 殿下に起こしてもらった公爵様は「殿下に嫉妬されないかヒヤヒヤしていましたよ」と殿下と笑いあってから、従者様と共にこの場を去っていきました。


「もう心配はいらないよ」


 優しく微笑みながら手を差し出してくれた殿下に起こしてもらってから、私は今の状況に気がつきました。

 公爵様を押し倒してしまっただけではなく、婚約発表まで中断させてしまったようです。

 とんでもない大失敗をしてしまいました。

 血の気が引く思いをしながらも、殿下に「早く戻ってください」と伝えると。


「俺の役目はもう終わったからいいんだ」


 殿下は国王陛下に向かって手を上げると、陛下は小さくうなずきました。


「ルシアンはあのとおり辞退したので、先を進める」


 冗談のような雰囲気で笑いを取った国王陛下によって、第三王子とアデリナ殿下のご婚約が発表されました。


 会場から祝福の拍手が起こる中、私よりも驚いている様子だったのはアデリナ殿下で。

 青ざめた表情で第三王子に抱き寄せられた彼女は、第三王子に何かを囁かれると、悔しそうにこちらを睨みました。


「もしかして私のせいで、殿下は辞退扱いにされてしまったのですか……?」


 婚約発表を投げ出して私の元へ駆け寄ってしまったから、国王陛下は呆れてしまったのでは。


 そう思っていると、殿下は私を抱きしめて落ち着かせるように頭をなでました。


「俺が、自ら辞退したんだよ。発表までは他言無用という約束だったから、ミシェルには言えなかったんだ。不安にさせてしまってごめんね」

「いえ……、私が早とちりしてしまいまして……」


 殿下は私が不安にならないようにサインを出してくれていたのに、他のことに惑わされてしまったのは私です。


「ミシェルには話したいことがあるんだ。少しいいかな?」


 こくりとうなずいた私は、殿下に連れられて夜会会場を後にしました。


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