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第68話 お断りしたいのに


「マーニはどこっ?」


部屋の中を見回してマーニの姿を探すと、マーニはテーブルから遠く離れた床の上に寝そべり、満足そうに舌なめずりをしながらしっぽをパタンパタンと揺らしていた。

常識で考えたらこの距離を誰にも見られず移動するなんてできっこない。


みんなが私の勘違いだろうという目で見ているのを感じる……!


「むむむむむ!」


でも私にはマーニの仕業だとわかるんだから!

前にも私の食べ物を横取りしたし。

神獣がこんなことする筈ないって先入観にみんな騙されてるんだよ。


今日のところは証拠がないから諦めるけど、そのうちしっぽを掴んでやるんだからね!




そしてその日を境に、なぜかマーニの行動はどんどんエスカレートしていった。

食事のたびにみんなの目をかすめて私の食べ物を横取りするようになったのだ。


しかも、一番おいしいやつ!


私にはこんな態度なのに、お父様とマルティーノおじさまとお兄様には分厚い猫をかぶっていて許せない!

男子の前では態度どころか、声のトーンまで変えてくる子っているよね?

お母様にもマルティーナにも懐かないし、マーニはきっと男が好きなんだと思う。


この男好きのいじわる女狐めッ!


「チェリーナはもうおこった! マーニなんてッ、メスのきつねです!」


今もお父様の膝に乗って甘えているけど、そこは私の場所なんだからね!


「へえ、マーニは雌だったのか」


そうじゃなくて!

女狐、女狐だよ!?

かくなる上は……ッ!


「マーニはメスの犬です!」


ビッチなんですよ、これならわかる?


「狐じゃなくて犬なのか?」


ああっ、ニュアンスが伝わらないー!

私が頭を掻き毟っていると、お父様が私の方へ手を伸ばした。


「チェリーナ、こっちへ来い。こんなに髪をぼさぼさにしてどうしたんだよ?」


手ぐしで私の髪を整えるお父様に身を任せていると、お父様の膝の上のマーニと目が合った。


どうみてもフフンって顔してる……!

く、悔しいー!


「おとうさまー! おとうさまは、チェリーナと、このきつねと、チェリーナのどっちが大事なんですか?」


この際はっきりさせてやる!


「くくっ、チェリーナが2回入ってるな? 狐にやきもち焼くなんておかしいぞ」


「だって……」


「チェリーナの妹と思って仲良くしてやってくれよ。……結局マーニは雌の狐でいいのか?」


妹と思えといわれても、私は前世からの筋金入りの末っ子気質なんだもん。

それに、初代プリマヴェーラ辺境伯の時代に生きていたなら、私よりマーニの方がずっと年上なんじゃないの!?




割り切れない思いを抱えながらベッドに入った私は、その夜不思議な夢を見た。


淡い光を放つ長く白い髪に、キラキラと輝く青い目、陶器のような透き通った白い肌を持つ、それはそれは美しい男の人がじっと私を見ている。

男の人でありながら、この世のものとは思えない美貌だ。


「お前は本当に気が利かないな。仕方がないから、鈍いお前にも分かるように特別に来てやったぞ」


……見た目の美しさとは対照的な口の悪さだよね。


あなたは誰なの?

私は来てくれなんて頼んでないし、そんなにえらそうにされる筋合いもないんだけど。


「俺が分からないのか。どこまでも鈍いな」


なによ、もう!

こんな意地悪な人、もし会ってたら絶対忘れないし!


「ここの者は俺をマーニと呼んでいるな。お前は俺を敬う気持ちが足りない。もっと俺を敬い、崇め奉れ」


マーニ!?

雌の子狐かと思ってたのに、大人の男の人だったの?

大人の男の人でありながら、おじさん好きとは……。

コメントしにくいな……。


「おい。俺は別におじさん好きではないぞ。二人ともプリマヴェリオに瓜二つだから懐かしさもあるし、それに俺は火魔法使いを気に入っているんだ」


「えっ? チェリーナのかんがえてることが分かるの?」


「当たり前だ」


男の人はフフンという顔をする。

こ、この表情!

やっぱりこの人、本当にマーニなのかもしれない。


「どうしてふだんは話さないの? どうしていまは人間のすがたなの?」


「契約していない者とは話をしない。人型になった俺が見えるのも、話が出来るのも契約者だけだ」


私、いま思いっきり見てるし、話してるけど?


「それは、これから契約するから特別に見せてやってるんだ」


え、契約なんてしたくないよ。


「おことわりします」


私にメリットが一つもないよね。

こんな意地悪な人の相手をしないといけないなんて、デメリットでしかないじゃない。

意地悪な人は間に合ってるんで結構です。


「……この俺がお前と契約してやろうと言っているのだ。嬉しいだろう?」


この狐、耳が遠いのかな。


「おことわりします」


「なぜだ! 俺は強力な結界でお前を守れるんだぞ?」


ほらー、メリットってそれなんでしょー。


「チェリーナにもけっかいのマントがありますし」


「俺は瞬間移動ができる! よく考えろ!」


えっ、瞬間移動?

あーっ、瞬間移動で私の食べ物をつまみ食いしてたんだね!


でもさあ、マーニが瞬間移動できるからって、それが私のメリットになるとは思えないな。


「よく考えましたけど、やっぱりおことわりします」


「お前……! 神獣であるこの俺が契約してやると言っているのに断るな! 俺がお前の庇護者になれば、誰もお前に手出し出来なくなるんだぞ。たとえ王家の者でも、神殿の者でもだ。この神獣が守護しているのだからな!」


はー、やれやれ。

こんなわがままな性格で神を名乗らないでほしいよ。


でも、神殿の人に連れて行かれる心配がなくなるっていうメリットは、ちょっと心が動いたかもしれない。


「そんなに言うなら……。じゃあ、きけんなことがあった時、チェリーナだけじゃなくて、かぞくみんなをけっかいで守ってくれる? ーーあ! それより、おにいさまとけいやくしたら?」


お兄様ならマーニと仲良くできそうだったし、その方がお互いにいいんじゃないかな。


「お前じゃないとダメなんだよ。契約したらプリマヴェーラ家を守護すると約束しよう。その代わりーー」


「そのかわり?」


まさか悪魔みたいに魂を寄越せっていうんじゃないでしょうね?


「お前は俺を敬い、崇め奉るのだ!」


「ええと、ぐたい的には何を?」


「供え物をよこせ」


ガクリ。

供え物って食べ物のこと?


「だからお前は気が利かないっていうんだ。毎回お前の食い物を横取りして気付かせようとしてるのに、全く気付かないんだからな。俺は、無人島でお前が出したステーキが気に入ってるんだよ。それなのに、この家は俺にろくな食い物を寄越さない」


えー……、ステーキが食べたくてあんなややこしいことしてたの?

そのために契約までして……、そこまで食い意地が張ってるなんてドン引きだな。


「わかりましたよ……。チェリーナはマーニにおそなえをして、マーニはプリマヴェーラ家をまもる。これがけいやく」


「そうだ。契約には互いの真名が必要だ。俺が今から言う言葉を繰り返せ。"マルチェリーナ・プリマヴェーラはーーー」




パチ。

変な夢を見たな……。

マーニが大人の男の人で、私に契約しろってしつこく迫ってくる夢だった。


「おはようございます……」


「おはよう。今日は珍しく元気がないな? どうしたんだ?」


「へんなゆめを見て……」


私が食堂で朝食を食べ始めようとフォークを手に取ると、頭の中に声が聞こえてきた。


(おい、もう契約を忘れたのか? お前は本当に気が利かない)


「うひゃあっ!? マ、マーニ?」


(俺は腹が減っている。早くしろ)


マーニが催促するようにしっぽを床に打ち付けている。


も、もしかして、夢じゃなかったのーっ!?






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