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第51話 ジャングル探索


最高級和牛フィレステーキ弁当に舌鼓を打ち、しばらく体を休めた私たちは、更にゲンキーナを飲んで準備を万端に整えた。

お互いを見失わないように結界のマントを裏返しにして、迷彩柄の方を表にして着なおせば完璧だ。


「さて、そろそろ出発しよう。同じ場所へ戻れないかもしれないから、忘れ物のないようにな」


「はい、だいじょうぶです! トブーンも魔法のカバンにしまいました。おとうさまとダニエルのカバンもしまいましょうか?」


「そうだな、頼むよ」


私はお父様とダニエルの荷物を受け取ると、アイテム袋に収納した。

まだ余裕はあるけど、トブーン2機が結構場所を取ってそうだな。


どうせなら、もっと収納力のあるカバンにすればよかったかも。

次はもっと大きいのにしようっと。


「ハヤメールを見失ったのは、こっちの方角だったな。とりあえず、見失った辺りまで行ってみよう」


「はい」


私たちは、お父様を先頭に、私、ダニエルの順番で木々の間に分け入った。

まだ浜辺から20メートルくらいしか離れてないのに、すでにものすごいジャングルなんだけど……。

お父様は、剣を抜いて邪魔な蔓や枝を払いながら少しずつ進んでいる。


足の踏み場もないくらいに生い茂ったシダや苔を、お父様が踏んだ後に続いてかろうじて進んでいるけど、どこまでこの状態なんだろう……。

マルティーノおじさまが、そんなに奥まで行っていないことを祈るよ。


でも、この辺りには人が通った後がないから、近くにはいそうもないんだよね……。

なにか楽に見つける方法ないのかな?


はあ……、ふう……。

お父様もダニエルも私の進み具合を気にして、たびたび声をかけてくれるけど、30分も歩くと私は返事をする元気もなくなってきてしまった。


「チェリーナ、大丈夫か? この道はチェリーナにはきついだろう。少し休憩するか」


「はい……、すこし……、きゅうけい……」


みず……、水がほしい……。

私はミネラルウォーターを人数分出すと、紙パックを開いてごくごくと一気に半分ほど飲んで、やっと一息つくことができた。


「はーっ……」


「やたらと喉が渇くよな。暑いから汗も出るし、こまめに水分補給したほうがいいな」


お父様とダニエルも水を飲みながら、額にういた玉の汗を拭っている。

いわれて気が付いたけど、うちの領よりだいぶ暑い!


正確な気温はわからないけど、うちの領が22~23℃くらいだとすると、この島は30℃くらいはありそうだった。

トブーンで飛んでるときは風があったから全然わからなかったよ。


熱中症に気をつけないとな。


「しかし、右も左も分からないな。こっちの方角でいいんだろうか」


「見当もつきませんね」


お父様とダニエルは困り顔で話し合っている。

ここまで来てこんなに苦労するなんて、本当に想定外だった。

島を見つける方が難しいと思っていたのに、上陸してからが真の試練だったとは……。


途方に暮れながら辺りをぐるりと見回すと、私は遠くに赤い布がヒラヒラとひらめいていることに気が付いた。


「ああっ! おとうさまっ!」


「うわっ、なんだ!? 何か出たか?」


「あれを見てください!」


お父様は私の指差した方を見ると、蔦に絡まったハヤメールを見つけて顔をほころばせた。


「あれは、ハヤメールか! こっちの方向であってたんだな。よし、行ってみよう!」


私たちは喜び勇んでハヤメールの元へ駆け寄ろうとした。

しかし、その足はすぐに止めることになってしまった。


ハヤメールと私たちの間に、崖が現れたのだ。


「こんな所に崖が……。上から見たときは気付かなかったな。枝が張り出していて見えなかったんだろう」


「崖下は川ですね」


幅はそれほど広くはないが、向こう側まで3メートル以上、高さも5~6メートル位はありそうに見える。

下が細い川になっているとはいえ、ごつごつとした岩があちらこちらにあり、落ちたら大怪我をすることは間違いない。


「走って向こう側まで飛ぶか」


「ええっ、チェーザレ様は飛べるかもしれませんが……」


お父様、自分を基準に考えないでください!


砂場でなら3メートル位飛べるかもしれないけど、こんな風に下が崖になっていたら足がすくんで飛べるものも飛べなくなるよ。

それに、苔や草に足をとられて滑らせたら一巻の終わりだ。


ここは私に任せてください!


「ポチッとな! あぶないですよ、どいてください!」


私は斧の魔法具を出すと、大きく振りかぶって手近な木に打ち付けた。


「え、ええっ!?」


ダニエル、驚いてないでどいてどいて!


メリメリメリッ、ドッシーーーーン!


「おお、向こう側に届いたな。俺が先に行って押さえててやるから、お前たちはその木を渡って来い」


お父様はそう言うと、少し離れて助走をつけて、向こう側までひょいっと飛んだ。

軽々飛んですごいな、5メートル離れててもいけたかもしれないね。


「おとうさま、かっこいいー!」


「ははは、そうか」


私が崖の向こうにいるお父様に手を振ると、お父様も笑って振り返してくれた。


「ああっ、もう何がなんだか!」


一方のダニエルはだいぶ混乱しているようだ。


「ダニエル、だいじょうぶ? おとうさまをふつうの人と同じにかんがえないほうがいいよ。人間ばなれしてるから」


「その前にマルチェリーナ様が一撃で木を切り倒したことに驚いています」


ああ、そのこと。

確かに、私みたいに小さい女の子がいきなり木を切り倒したら驚くかもしれない。


「これは魔法具だから! だれでもいちげきで木をたおせるよ!」


「……そうですか。それもマルチェリーナ様が作り出した魔法具なのですよね……」


「そうだけど?」


それがどうかしたのかな、変なこと言う人だね?


「人間離れしてるのはチェーザレ様だけではないですよね……」


「おーい! 準備はいいぞー! 渡って来い!」


あ、お父様の声だ。

そうだよ、早く向こう側に行ってハヤメールを救わないと!


「はあい!」


「そこの蔓を切って、命綱代わりにーー」


ダニエルは崖とは反対の方向を向いて何か言っている。

私はそんなダニエルを残して、さっさと木の上を歩き出した。


お父様が押さえててくれるし、大きい木だから余裕で渡れるね。


「あっ!? マルチェリーナ様! 命綱を!」


私が一人で渡り出したことに驚いたのか、ダニエルが焦ったような声をあげた。

でもお父様が手を伸ばしてるし、狭い崖だから、すぐに渡り終わるよ。


「よーし、お父様にしっかり捕まってろよ」


木を渡りきらないうちにお父様は片手で私を捕まえると、無事に地面へ下ろしてくれた。


「ダニエルもはやくー!」


「……はい。ただいま参ります」


ダニエルってば、なんだか疲れてるみたいだけど大丈夫かな?

冒険者なのに、意外と虚弱体質なのかもしれないね。




「目印の布が大きすぎたか」


お父様は手を伸ばしてハヤメールを掴み、布に絡んだ蔓を払いのけた。

ハヤメールは、ブブブとプロペラを回したまま配達を完了しようとがんばっている。

うう、健気さに泣けてくるよ。


「布をハヤメールにぐるぐるまいて飛ばしてみましょう」


「そうだな」


お父様は、なるべくコンパクトになるように布をハヤメールの軸に巻きつけた。


「ーーよし、これでいいだろう。飛ばすぞ」


「はい! 見うしなわないようにしないと!」


私は気合を入れてカッと目を見開いた。

頼みの綱はハヤメールしかないんだもん、また見失ったら大変だよ!


「それっ」


お父様が手を離すと、ハヤメールはブーンと音を立てて飛んでいった。

ああっ、どこもかしこも蔓だらけでハラハラする!


しかし、ハヤメールはそんな私の心配をよそに、すごいスピードで木々の間をすり抜けて飛び去って行った。

……そういえば、トブーンと同じスピードで飛ぶって書いたんだった。

歩きじゃ追いつけないに決まってるね……。


「見えなくなっちゃいましたね……」


「……まあ、進行方向が分かっただけでもいいとしよう」


私たちは若干肩を落としながら、ハヤメールが飛んでいった方向に向かって歩き出した。

しばらくそのまま歩き続け、正しい方角なのか不安になりだした頃、私は頭に感じた突然の衝撃に思わず悲鳴をあげた。



「ふぎゃっ!?」





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