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第32話 斧の魔法具


私は床から斧を拾い上げると、お父様の元へと走り出した。


「あっ、チェリーナ! 僕も行くよ!」


「俺も行く」


お兄様とクリス様が慌てて後からついて来る。

眠いって言ってたのに、お昼寝しなくていいのかな?


私はお父様を助けるという使命があるから、寝てる暇なんかないけどね!


「おとうさまー! できましたー!」


大声でお父様を呼ぶと、私の声に気付いたお父様が私の方に歩いてきてくれた。


「そんなに慌てて、何が出来たんだ?」


「これです! 木をきる魔法具です!」


テッテレー!

正直なあなたに、この斧を差し上げましょう!


「……斧だな。これが魔法具なのか?」


「そうです! いちげきで木をきりたおせます。そして、人にむかってこうげきはできません」


口で説明するより、見てもらった方が早いかな?

私は傍にあった木に近づくと、おもむろに斧を振り上げて木の幹にガツンと打ち付けた。


ミシッ……ミシミシミシ……ドッシーン!


「おわっ、危ないっ! チェリーナ、いきなり切り倒すと危ないだろ! 木を切る時は、周りに人がいないか確認して、離れるように声掛けしてから切り倒すものなんだ」


えっ、そうなの?

あぶない、人を下敷きにしなくてよかった……。


「おとうさま、ごめんなさい」


「まあ、その魔法具の威力は分かったよ。チェリーナ、ありがとう。だが、お父様たちが使うにはちょっと小さすぎるな」


お父様は私の手からひょいと斧を掴み取ると、倒れた木の枝を落として試し切りをした。

ほんと、お父様が持つと小さすぎておもちゃみたいに見えるな。


「どれくらいの大きさがいいですか?」


「そうだなあ。これの倍くらいの大きさだと使いやすいかもしれないな」


倍ですね、承知しました!


「ーーーポチッとな! おとうさま、これでためしてみてください!」


「おお、ちょうど良さそうだ。ーーうん、いいな。しかし、まったく力を入れてないのに、恐ろしく簡単に切れるなあ。肉を切り分けるよりも力がいらないくらいだ」


お父様は倒れた木の幹で試し切りをしながら感想を言った。


そうですよ!

私の力でも一撃で切り倒せるんですから。


「これがあれば、だれでもかんたんに木をきりたおせます!」


「これなら思ったより時間がかからず整地出来そうだな。チェリーナ、助かったよ。ところで、この魔法具に名前はあるのか?」


はいはい名前ね、今度はいいのを考えておきました。

では、発表いたします!


「コマチというなまえです!」


「コマチ?」


「おのですから!」


斧の小町ですよ!


シーン……。


あれ?

かなり自信あったのに、お父様は訳が分からないといった顔をしている。

……ちょっとハイセンスすぎたかな。


「チェリーナ、コマチじゃ何のことか全く意味が分からないよ。誰にでも分かるように斧の魔法具でいいんじゃない?」


お兄様の言葉に、お父様も周りの見物人たちも一斉に頷いた。

まあ……、その方が分かりやすいなら今回はそれでいいけど。

みんな、私のネーミングセンスに早く追いついてきてね!




それからしばらくお父様が整地計画について話を詰めるのを待って、私たちはエスタンゴロ砦を後にした。

暗くなってからの飛行は危険だから、余裕をもって早めに出ることにしたのだ。


帰る前に、斧の魔法具も忘れずにちゃんと50本置いてきたよ!

あっ、本当に人に当たらないか試すの忘れちゃったな。

でも、何の罪もない人に斧で斬りかかって試すなんて出来ないし……。


でもまあ、ほっとけばそのうち分かるでしょう。

手が滑って怪我するところだったけど、魔法具のおかげで助かったとかなんとか、きっとお父様が教えてくれると思う。


「それにしても、トブーンのおかげでエスタンゴロ砦がずいぶんと近くなったなあ。帰りは1時間かからなかったぞ。これなら毎日でも通えるな」


トブーンを下りたお父様が、懐中時計で時間を確認しながら感心したように言った。

お父様の言う通り、帰りは本当にあっという間に屋敷についた気がするな。


クリス様も、ゲンキーナを2本も飲んだおかげか、帰りはトブーン酔いをしなかったようだ。


「はい! このトブーンはおとうさませんようでいいですよ! おにいさまもせんようのトブーンがほしいと言っていたので、あとで出してあげるつもりです」


「なに? チェレス専用のトブーンだと? ダメだ、ダメだ!」


お父様は怖い顔をしてお兄様とクリス様を呼んだ。


「クリスティアーノ殿下、チェレス、チェリーナ。子どもだけでトブーンに乗ってはいけません。必ず大人と一緒に乗ってください。それから、子どもだけで魔の森に行くのは禁止です。これは必ず守ってください」


「ええー、魔の森に行ってはいけないのはわかりますけど、フィオーレ伯爵家に行くのもダメなのですか? 僕専用のトブーンをもらったら、カレンに会いに行こうと思っていたのに」


わがまま王子のクリス様が素直に頷いたのに、あろうことかお兄様がお父様の服にしがみついて抗議している。

お兄様、カレンデュラに会いたくて必死だね。


「ダメに決まっているだろう! 道中何があるかわからないんだぞ? 盗賊に矢で射られる可能性もないとは言えない。大人と一緒じゃないと絶対にダメだ!」


「そんなあー……」


お兄様はトブーンが気に入っていたようだし、本当にガッカリしていてかわいそう……。


「おにいさま、おにいさませんようのハヤメールをあげるので、元気をだしてください」


「それは嬉しいけど……、でも、いつでも会いに行けると思ったのに……」


お父様もしょんぼりするお兄様がかわいそうだと思ったのか、お兄様の頭をポンポンとたたいて励ました。


「暇を見つけて連れていってやるから、そんなにがっかりするなよ。前よりは頻繁に会えるようになるよ」


「はい……」


「よし。チェリーナはちゃんとわかったか? 絶対に魔の森へは一人で行くんじゃないぞ?」


分かってますよ。

あんな何もない不気味なところ、1回見れば十分です。


「わかりました」


「本当にわかったのかな……。何があっても絶対に禁止だぞ? 一人であんな所に行ったら、死んでしまうかもしれないんだからな?」


もう、わかったってば。

なんでそんなに疑うのかな?

私は信用できる人間ですから心配ご無用ですよ、お父様!


「わかりましたー!」


「よし。さあ、中に入ろう」


ふと玄関を見ると、セバスチャンが笑顔で扉を開けて待っていてくれた。


「セバスチャン、ただいまー!」


私は左手にクリス様の手を掴み、右手にお父様の手を掴んだ。

そしてお兄様までお父様の右手を掴んだので、私たちは4人つながってぞろぞろと屋敷の中へと入って行った。




その日の夜、寝る準備を整えてベッドに入ったところにお母様がやってきた。


「チェリーナ、もう眠い? 少し話をしてもいいかしら?」


「まだねむくありません。なんのお話ですか?」


私はベッドに横になったまま、ベッド脇の椅子に腰を下ろしたお母様に返事をした。

お母様が改まって話をしてもいいかと聞いてくるなんて珍しいな。

どうしたんだろう?


「お父様から聞いたわ。夢でお爺様に会ったんですって?」


あっ……、その話ですか……。

私はぎくりと目を泳がせた。


「は、はい……」


嘘を吐くのは心苦しかったが、今更会っていないとはとても言えない雰囲気だ。

私が肯定すると、お母様は少し目を伏せて悲し気に言った。



「その話を聞いて、チェリーナにも話しておいた方がいいと思ったの……、お爺様が亡くなられた時のことを」





ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価、ブックマークをしてくださった皆さま、とても励みになります!


ストックが尽きてしまいましたので、ここからは週3~4回程の更新になりますが、これからもよろしくお願いいたします!

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