第五章 六節 交渉
かの帝国がブリテンから撤退した後、東から異国民がブリテンに侵攻してきた。
それをまだ若かったウーサーが見事な戦術で追い返すことに成功する。
皆、ウーサーの功績を讃え、ウーサーを王とし、ブリテンの中心に城、宮廷を構えた。
それをきっかけに徐々にウーサー王は周囲を侵攻しブリテンを統一すべくため日々奮闘していた。
制圧した領地は名のある貴族や成果を上げたものに授け、領地を統治することを命じた。
かの戦争で名を上げたロット王や貴族として成功していたゴルロイスもその中の1人だ。
領主としてすべきことは、自身に与えられた領地を繁栄させること。また、自身の子孫がブリテンの中心、つまり宮廷にいきウーサー王、または次代の王に仕えること。この2つだ。領地を授けてくれた恩にむくいること、そしてなにより自身が政治に携われる可能性があるからだ。
ロット王の一族は領地こそ周囲が驚くほど繁栄させていたが、宮廷に仕えるものは誰もいなかった。
だからこそ、ロット王自身も早く妻を迎え子を成したいと願っていたが中々嫁いでくれる者もおらず頭を悩ませていた。
そんな願いを目の前の美しい女性が担保すると宣言してきた。藁にもすがる思いでそれを受け入れたかったが、話が出来すぎている。
ロット王はモルガンに問いかけた。
「そんなことが本当にできるのか?」
「はい。私はマーリンの指導で魔術を学びました。それくらいはできます。本来は人にそのような魔法を使うことはよくありません。ですが、妹をもらってくれるのであれば私は快く魔法を使いましょう」
「……魔法で何をするのだ?」
「妹にとある魔法をかけます。その魔法は“子を身籠りやすくする”魔法です。その魔法をかければ、4〜5人は生まれるはずです」
「な……!」
1人でも生まれるだけで奇跡だが、それが最大5人と聞くとロット王もその案に乗らざるおえなかった。
だが、より気になることがあった。
「それは嬉しい限りだ。しかし、そこまで私に利益しかないとなるとやはり勘繰ってしまうのだが……例えば、妹さんがかなり見た目や中身に欠陥があるや、出来た子の1人をくれなど…制約はないのか?」
「はい。こちらとしては妹を妻として迎えてくれるだけでよいです。それ以上に望むものなどないです。妹は私には似ていませんが、美人です」
そう言うとモルガンは人差し指を軽く振った。すると目の前に中くらいのパネルが現れ、そこには妹のモルゴスが映し出されていた。
モルゴスはイグレインにもモルガンにも似ていない。しかし、幼女のような顔立ちをしており人形のように可愛らしかった。
パネルに映し出されたモルゴスをみたロット王は少し頬を赤らめた。
「………わかった。そなたの要望を受け入れよう。しかし、仮にそなたの言う通りにならなかった場合はどうする?」
ロット王はモルガンに鋭い質問をする。そんな質問を余裕の表情でモルガンは答えた。
「宮廷の地位をあなたに授けるよう私がウーサー王にお願いします。そして地位が確立することを保障いたします」
「なっ………」
とてつもない内容だ。そんなことをすれば自分が宮廷から出される可能性があるのに。そこまでして妹を嫁がせ、自身の生家を大事にしているのかとロット王は感銘をうけた。
「わかった。では、そなたの妹を妻に迎えよう」
「ありがとうございます。これて私達は義理の兄弟ですね」
モルガンは穏やかにロット王に微笑み、その笑顔にロット王はドキドキを隠せなかった。
ロット王と交渉した数日後、モルガンは実家を訪ねた。
「モルガン様!おかえりなさいませ」
父の執事であったカールはモルガンのことを嫌いそれはそれは冷たい態度をとっていたが今のモルガンの地位を見て態度をあからさまに変えている。
反吐がでそうだった。
「ありがとう、カール。モルゴスはいるかしら?」
「お嬢様は寝室にずっとこもられています。最近はメイドが来てもヒステリックに追い返すようで困ってまして…」
「ありがとう」
カールを横切り、モルゴスの寝室へ向かった。部屋の前は変わりなかった。ノックをして声をかける。
「モルゴス、入りますよ」
扉を勢いよく開ける。するとベッドの上で虚な目をした妹が横たわっていた。
「モルゴス、あなたに話があります」
モルゴスは何も反応しない。モルガンは話を続けた。
「あなたには2つしか選択肢がありません。一つ、ここを出て自力で暮らすこと。もう一つは別の家に嫁ぐことです」
モルゴスは目を閉じる。
「あなたは1人で暮らすのは無理でしょう。だから私が嫁ぎ先を見つけてきました。だから…」
モルガンが話続けようとした瞬間、モルゴスはベッドから起き上がりそのままモルガンに近づいてきた。そして顔と顔の距離が数cmのところまで近づいた時、モルガンの両肩を掴んだ。
「どうして…どうしてお姉様の方が幸せな状況になっているのよ!おかしいわ!こんなのおかしすぎる!」
モルゴスの目から涙が溢れる。
「お姉様は常に私よりも下の存在でないとだめなのよ!なのに…なのに……。しかも母様まで自分を優先して…納得いかないわ!」
「…………」
あぁ、やっぱりかとモルガンは思った。モルゴスは自分のことなど姉として見ていなかったのだ。常に自分が上の立場にいたいのだ。そう、ブリテンを狂わしたあの女のように。であれば、容赦などしなくてよい。
モルガンはモルゴスの手を払い、距離をとった。
「モルゴス、あなたは何もできないただの娘。どうせ体を売っても、そんな貧相な体では誰も相手にしないでしょう」
そう言うとモルゴスは少し赤面した。
「選ばせてあげようかと思ったけどいいです。あなたはオークニーに嫁ぎなさい。今からオークニーへ行きますから」
「オークニーって……あの北方の領地?」
「ええ」
モルガンが答えるとモルゴスは泣き止んだが同時に震えだした。オークニーに嫁がこない理由はいくつかあるが、代表的な理由は“一度オークニーに嫁ぐと出られない”という噂があるからだ。
噂の真偽はわからないが、今まで嫁いだ人を再び見た人はいないようだ。
よって領主や貴族の中でもオークニーは血生臭いと忌み嫌われている。
そんなところに自分がいかなくてはならないと思うと悲しみよりも恐怖が強かった。
モルゴスは丁寧な口調でモルガンに話しかける。
「お、お姉様…さっきはごめんなさい。ひどいことを言ったわ…私、オークニーに嫁ぐぐらいなら身を売っていきていくわ。だからさっきの話はなかったことにしてほしいの」
モルガンは冷たい瞳でモルゴスをみる。かつての姉とは別人のような雰囲気を感じる。
冷たい瞳で見られたからか震えが止まらない。モルゴスも不思議に思っているとモルガンが口を開く。
「いいえ、それは無理です。もう決まったことですから。あなたにはオークニーに子孫をもたらさねばなりません」
「なっ……」
「せいぜいその貧相な体で王を満足させ、子供を身籠りなさい」
モルガンは魔法でモルゴスをシャボン玉のような透明な球体に閉じ込めた。それとその他に必要そうなものを見繕い、ロット王の待つオークニーの城に向かうのであった。
数日後、ロット王からの報告でウーサー王、イグレインは知ることになる。
コーンウォールの領主が変わり、娘のモルゴスがロット王に嫁いだことを。




