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Page.9

その日、ある政治家による公聴会が議会によって開かれた。


「では、今回陸軍が行っていた人体実験に関してですが…」


それは陸軍のとある実験部隊が行っていた非合法のとある実験であった。


「国内に住まう魔女の血を注いだ人々を誘拐し、実験を繰り返していたのは事実ですね?」


そう言い事前に配られた資料をもとに追求が行われる。

今回の公聴会は陸軍の実験部隊がとあるタレコミによって発覚した被人道的な実験を追求するために行われていた。


「事実です」

「では、魔女の血と言う迷信をあなた方は信じていたというのですか?」

「はい」


その返答に書いていた記者達は驚きながらメモをする。

映像も撮られており、中継で全国に流されていた。


『えー、今回の陸軍による非人道的な実験は…』


ニュース映画でキャスターが騒ぎ立てている中、ホセはマリサと共にダイナーで夕食を摂っていた。


「…」


マリサはハンバーガーを食べていると、その反対でホセはコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。


「派手にやったか…」


そのタレコミは軍内部からの告発であると書かれ記事を読み、ホセは苦笑する。


「?」


そんな彼にマリサは首を傾げていると、彼は彼女に言った。


「そう気にする話じゃないさ」

「…」


マリサはそう返され、少し不満ではあったもののハンバーガーの最後の一口を食べ終える。


『食べた』

「あぁ、少し休憩したらまた飛ぶぞ」


ホセはそう言うと、マリサは地図を見てだんだんと近づいてくる自分の故郷に安堵と悲しさを覚える。


これで飛べばホセとの空の旅も終わりを迎える。言われなくとも地図を見ればそれは理解できた。

マリサはホセが見せてくれた空の景色に目を輝かせ、同時に魅了されていた。


どれだけ魔法が使えていても、それ以上にあの群青色の広がる世界に憧れを抱いていた。


「どうした?」

『何でも…ない』

「…体調が悪くなったら言えよ」


ホセはそんなマリサにそう話しかけると、彼女は頷いた。

言葉数は少ないが、魔法は便利だ。これでも会話はできるのだから。


「んじゃあ、そろそろ行くか」

「うん…」


マリサは短く頷くと、二人は会計を済ませて飛行場に向かった。




もうすっかり慣れた手順で飛行機に乗り込む二人。ホセも膝の上に子供を乗せて飛ぶ事にすっかり慣れていた。


「行くぞ」

「…」コクリ


マリサは頷くとホセは給油を終えた戦闘機のキャノピーを閉じてエンジンをかける。

凄まじい轟音と共に二重反転プロペラが回転し出すと、機体はゆっくりと前進を始める。


そしていつも通り管制塔と無線で連絡を取り合って滑走路に出ると、そこでホセはスロットルを倒してプロペラの回転数を上げて加速を始める。


そんな様子をマリサは特等席で眺める。


そして揺れていた機体から振動が消えると、地面が斜めに傾いて建物がどんどん小さくなっていった。

そんな空を飛ぶ時の不思議な感覚をマリサは味わいながら最後の街を眺める。


「(綺麗…)」


時間は夕方、ホセが見せたいと言ってこの時間にわざわざ飛んだ理由がよく理解できた。

街に灯る電灯の灯りや車のライトが夕方の景色を彩っていたのだ。


「綺麗だろう?」

「うん…凄い…」


その景色に私は見惚れながらホセは操縦桿を握っていた。




どうせなら、このまま永遠と飛んでいられたらいいのにと少しだけ思ってしまった。






====






いつの間にか眠ってしまっていた。飛行機の中はすごく轟音だと言うのに。

よほど疲れていたのだろうか、それは分からないけど気づいた時には太陽が照らしていた。


「起きたか?」


するとそんな私にホセは話しかける。

燃料計を見るとかなり減っていたので、ホセは夜中ずっと起きて飛んでいたということになる


『眠くないの?』


思わず私はホセに聞いてしまうと、彼は軽く笑った。


「何、徹夜は慣れっこさ。昔はよくやっていた」


そう言いホセは徹夜をしたにも関わらず平然と操縦桿を握っていた。


「さて、そろそろ見えてくる頃合いだが…」


取り出した地図を片手にホセは呟くと、マリサは指をさした。


「あそこ…」

「ん?」


懐かしい気配だ。私は思わず涙をこぼしそうになった。本当に帰ってきたのだと感じて…。


「セーラム…」

「あれか…」


マリサの呟きにホセは安堵が混ざった様子で眼下に見えてきた小さな街を見る。

街の外には小さな飛行場があり、高い建物もそう多くない小さな街である。

見覚えのある屋根や建物を見てマリサは目を大きく見開いた。


するとホセは無線機の電源を入れて飛行場に繋ぐ。


「こちらWH06、着陸許可を求む」


すると聞いていたのだろう、管制塔から返事があった。


『こちら管制塔、WH06。着陸を許可します』


そして滑走路に進入するために一旦街を大きく旋回する進路を取る。


「っ!!」


見覚えのある通りや知っているパン屋、食堂に学校。

どれも馴染みがあった。


早く降りたいという感情を抑えながら機体は滑走路に着陸する。

ブレーキをかけながら誘導等に入ると、管制塔の方から一人の初老の男が現れてホセの戦闘機に近づいた。


「いやぁ、珍しいですね。こんな場所に戦闘機なんて」

「あぁ、すまないね」


キャノピーを開け、ホセは近づいてきた初老の男に聞く。


「ちょっと人探しをしに来たんだ」

「人探しですかい?」


機体を停め、ホセはその男に言う。


「この子供の親を知らないか?」


そう言いホセとマリサは機体を降りて男を見ると、その男はマリサを見て固まっていた。


「マリサ…」

「小父さん…」


すると知り合いだったのか、マリサは男を見て呟いた。


「は,本当に…マリサ…なのか?」

「うん…」


するとマリサはその男にゆっくりと近づくと、彼は大慌てで叫んだ。


「たっ、大変だーっ!!」




その後、その男の叫び声に釣られて街の住人が出てくるとマリサを見て驚いた声をあげていた。


「マリサ!マリサが帰ってきた!!」

「本当にマリサだ!?」


飛行場の格納庫ではマリサを見て街の住人数人が出てきて驚いていると、一人のおばちゃんが言った。


「ほら、お母さんたちのところに行ったきな。ずっと心配していたんだ」

「うん」


マリサはそこで飛行場の小父さんと話していたホセを見ながら格納庫を出て街の通りを走る。

いつも見て来ていた町並み、知っている花の香り。私の生まれ故郷のセーラムだ。


「あら?マリサちゃん?!」


通りを走っているとパン屋のおばちゃんが驚いた声をあげていたので私は返す。


「ただいま!」


そう言って走り去っていく。

知っている道だから間違える事なく道を走る。


信号を待ってソワソワしながら変わった瞬間に再び走り出す。


「はぁ…はぁ…」


普段から走る事なあまり得意ではないが、この時は後で倒れてもいいくらい全力で走っていた。

角を曲がるたびに涙が溢れそうになり、グッとそれを堪えて最後の角を曲がる。


「あれ?マリサ?」


するとそこで学校の友人が通り過ぎた私を見て話しかけた。

そしてそのままある家の前に肩から息をしてたどり着くと、そこで大きく息を吸った後にドアを叩いた。


『…はーい』


そこでゆっくりと扉が開き、私はその人を見る。

出た人も私を見て固まった。


「マ…リサ…?」

「ママッ!」


私はそこで母に近づいて大きく抱きしめた。






「本当に…本当にありがとうございます」


目元を赤くして未だにハンカチで涙を拭ったその女性にホセは言う。


「良いですよ、ただ送り届けるだけでしたから」


そう言いホセは格納庫でセーラムの人々から歓迎を受けていた。


「あんた、どこから飛んで来たんだ?」

「サルディバランからさ」


飛んできた場所を聞き、彼等は驚いていた。


「サルディバランって…大陸のほぼ真反対じゃないか!!」

「そこまで誘拐されていたのか…」


マリサが誘拐されてから実に四ヶ月。反対まで飛んで戻って来たのを考えると、とても長い期間だ。


「あの子をわざわざ届けてくれたのかい?」

「えぇ、何せ頼まれてしまってね…」


そう言いホセは苦笑する。街の住人はマリサが帰って来た事で盛り上がっており、マリサは少し離れた場所で母と共に話していた。


「あんた、普段は何を?」

「しがない賞金稼ぎですよ」


そう言い自分の乗って来た機体を見ながら呟く。


「この後すぐに帰りますよ」

「え?パーティーには来ないのか?」

「えぇ」


驚く住人にホセは頷いた。


「そりゃ何で…」


そんな彼に聞くと、ホセは遠くで笑っているマリサを見て言った。


「カタギの娘の目に俺は毒だからですよ」

「…」


ホセの一言に住人の表情は曇った。

確かに賞金稼ぎという職業は褒められた仕事ではなかった。


「だがせめて礼だけはさせてくれ」

「良いですよ、給油代と整備代をタダにしてくれただけでも儲け物です」


そう言って満タンになった自分の機体をみる。


「あの子の面倒を見てくれたんだ。その分の礼は必要だ」


そう言って彼らは知らない服を着ているマリサを見た。

彼らはマリサが誘拐された後にホセの世話になったというのは言われなくとも分かっていたのだ。

そんな人たちにホセは言う。


「…俺はこの旅であの子に救われた身です。だから良いですよ」

「…もしかしてお前さん」

「まぁ、そう言う事です」


住人はその意味を理解してくれたようだった。そしてそれを知ってホセの意思を知ると、少し頷いて彼のポケットに札束を入れた。


「ほれ、持ってっとけ」

「どうして…」

「阿呆、口止め料だよ」


そう言って軽く笑ったその人にホセも少し笑うと、


「ホセ」


マリサが近づいて来て見上げた。


「ありがとう」


マリサはそう言い、ホセの顔を見る。

ホセはそんな彼女に軽く笑うと、彼女の頭を軽く撫でた。


「じゃあな、もう誘拐されるんじゃねぇぞ」

「うん…」


マリサはホセを見てそのまま友人に呼ばれてそっちに移動して積もる話に花を咲かせていた。






その後、夕方の日の落ちかける時刻。格納庫でマリサを含めたセーラムの住人達は滑走路で待機する白鳥柄の戦闘機を見る。


「もう行くのね」

「ああ言う人たちは忙しいんだよ」


後ろで友人がそんな事を言いながらホセの乗る戦闘機を見る。

白鳥を模した塗装の機体はそのままエンジンの回転数を上げると、ゆっくりと加速を始める。


その様をマリサは静かに眺める。

後輪が浮き上がり、加速を進める戦闘機。


数時間前まで、あれに自分が乗っていたのが少し不思議だった。


そしてそのまま加速して美しく車輪が滑走路から離れた。


「綺麗…」


本物の白鳥のように美しい飛び方をして離陸をしていったあの人の戦闘機は、そのまま車輪が格納されて夕焼けの太陽に溶けるように消えていった。


「マリサ?」

「え?あっ…」


機体が飛んで行った後、母に言われた私は涙を流していたことに初めて気がついた。


「…」


そしてその後ホセが飛んで行った方角を見た。


「ありがとう」


そしてその一言を空に向かって呟くと、私はしばらくその方角を眺め続けていた。






====






それから時は過ぎた。

空を飛んでいる機体の数は新しく施行された法律で数が減り、飛んでいるのもプロペラ機よりもジェット機の数の方が多くなった。


「体には気をつけるのよ?」


新しくなったセーラムの飛行場の格納庫で一機のセスナを前に多くの人たちが見送りに来る。


「大丈夫だって母さん」


そんな中、真新しい服を着て荷物を持つ女性が年老いた初老の女性に言われて笑って返す。

セスナの尾翼には白鳥の絵が描かれている。


「マリサ〜!」


すると友人がこれからセスナに乗る女性に話しかける。


「機長になったら、私達を無料で乗せろよ〜」

「ははっ、そりゃあちょっと厳しいなぁ〜」


そう言いマリサは軽く笑う。


「ダメよ、マリサはまず乗せたい人がいるんだからさ〜」


見送りに来た同級生はそう言ってマリサを軽く揶揄っていた。


「まぁ命の恩人だから仕方ないけどさ〜」


そう言って軽く諦める友人達。

子供の頃、私がまだ魔法を使っていた時に出会った私に空の楽しさを教えてくれた人。


あの後、私はあの人のことを探した。


だけどあの人に関する情報は見つからなかった。


今もあの街に住んでいるのだろうか。住んでいたら嬉しい…。


「(だけど、あの人がまだ飛んでいる方が私は嬉しいかな…)」


私は尾翼に描かれた白鳥を見ながら考える。


「じゃあ、行ってくる」

「「「「行ってらっしゃーい!!」」」」


私はこれからまた青空の世界に飛び込んでいく。


それがとても楽しみで仕方がなかった。

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