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静原の呪い〜『呪い』にとらわれた彼と『呪いもち』の彼女〜  作者: ももんがー
『呪い』にとらわれた彼
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第六話 『対価』

 主座様はスタスタと山道を進んでいく。

 俺はあわててそのあとをついていく。


「このあたりからサトが迷いの術をかけているからな。

 普通はたどりつけまいよ」


「迷いの術?」


 そんなものも使えるのか。すごいなサトさんは。


 俺がでれっとしたのがわかったのだろう。

 主座様は「やれやれ」と言いたげにひとつ息を落とすと、注意をくれた。


「だから、私のあとをそのままついてこい。

 一歩でもズレると迷うぞ」

「はい」


 慎重に歩を進め、ほどなくして大きな岩の前に出た。


「これがサトが封じた妖魔だ」


 この岩が。

 特に霊力も邪気も感じない。


「よく封じてある。

 だからこそ、他の術が干渉できない」


 だからサトさんにかけられた『呪い』が解呪できないと主座様が説明してくれる。


「どうすればサトさんは助かりますか?」


 率直な俺の質問に、主座様はなんてことないように答えてくれた。


「この妖魔の封印が解けたら、必ずサトを喰らおうとする。

 そのときには妖魔とサトとの結びつきが切れるはずだから、その瞬間に妖魔を斬る」


「なるほど」


 それなら俺のいつもの力技でどうにかできそうだ。

 術合戦とか駆け引きとか言われたらちょっと困ったが、一発ぶち込めばいいなら得意分野だ。


 妖魔は封印されるとき、サトさんに『呪い』をかけた。

 その結び付けられた『呪い』の影響で、サトさんの霊力が少しずつこの妖魔に注がれている状態だと主座様が説明してくださる。

 少しずつ霊力を奪われているからサトさんは小柄なのかな。

 サトさんならなんでもかわいいだろうから関係ないけど。


 封印を解けるだけの霊力が貯まるのが、封じられておよそ十五年。サトさんが二十歳になる前後。

 封印が解けたら、妖魔はまずサトさんを喰らう。


「この妖魔は水属性なんだ」


 主座様が封じられている妖魔について話してくれる。


 この妖魔は長く生き蛇神となったモノだったのだが、なにかがあって『悪しきモノ』となった。

 大抵は人間の味を覚えて人間を喰らい続けてそう成るらしい。この妖魔もその(たぐい)だろうと主座様が語る。

 だからこそ、若い娘であるサトさんを喰らおうとするのだと。


「サトは(ごん)属性だからな。(すい)属性のこの妖魔にとってはなによりのごちそうだろうよ」


 五行相生の(ことわり)か。

 金は水を生かす。

 そもそも封印が解けたのも、サトさんの血がかかったからだと主座様が説明してくれる。


 こけて岩にぶつかって血がにじみ出た。

 その血を吸って、弱まっていた封印が解けたと。


 痛かったろうなサトさん。こわかったろうな。

 それなのに妖魔をこんな完璧に封じたのか。

 すごいなサトさん。


 改めてサトさんに思いをはせている俺に、主座様はニヤリと笑った。


「お前なら適任だ。

 金属性のサトを生かし、水属性の妖魔にとっては最も苦手な相手にあたる。

 西村もいい人材を捕まえたな」


 なんのことかわからず間抜けな顔をさらしていると、主座様は「わかってなかったのか?」とあきれたように言った。


「お前は()属性だ。

 金を生かし、水を(こく)する」


「――そうなんですか!?」


 知らなかった。自分には属性特化はないと思っていた。

 でも、そうか。

 サトさんは金属性で、俺は土属性。

 俺はサトさんを生かせる。サトさんの役に立てるのか。


 サトさんの役に立てると思った途端に力が湧いてくる。これも『静原の呪い』か。


 だが。ふと気付いた。


「土属性といわれても、俺は特に術とか使えないのですが…」


 そう。俺にできることといえば、刀を振り回して相手をぶちのめすことだけだ。

 土属性だからといって、何をどうすればいいのかさっぱりわからない。


 困り顔の俺に主座様はニコリと笑った。


「なにも難しく考えることはない。

 お前はそのままでいればいい。

 サトの側にいるだけでサトに良い影響を与えるだろうし、この妖魔に関しては、さっきも言ったとおり、何も考えずに斬ればそれで大丈夫だろう」


 主座様にそう言っていただけると肩の荷が下りた気分だ。

「まあ霊力はしっかり練っておけ。できれば圧縮もしろ」と言われ、やり方を教わる。

 サトさんのためになるならばなんだってやってやる!


 霊力操作の実践をやらされている間に、主座様は岩の近くの木になにかを刻んだ。

 続いて取り出した札に何事かつぶやき、ふっと息を吹きかけた。


 無造作に札を俺の前に差し出した主座様は「やる」と一言おっしゃった。

 何だこれ?


「この木に転移陣を刻んだ。この札と対になっている。

 この札に霊力を込めれば、どこからでもここに転移する。サトの迷いの術も関係ない」


「ありがとうございます!」


 それはすごく助かる!

 主座様の案内なしでもう一度ここに来られるか心配だったのだ。

 しかも話に聞くところによると、転移とは一瞬で移動するという。

 サトさんのピンチに即駆けつけられる!


 そこではっと気付いた。

 先程から俺はもらってばかりだ。


 春日家への紹介状と大太刀の作成依頼。

 サトさんとこの妖魔についての情報。

 この妖魔の退治方法。

 霊力操作のやり方。

 しまいに、転移陣と対になる札。


 いったいどれほどの対価を支払えばいいのだろうか。

 全く見当がつかない。

 わからないことは本人に聞いてみよう。


「あ、あの、主座様。

 お教えいただいた情報とこの札には、どのような対価をお渡しすればよろしいでしょうか…」


「は?」


 ギロリとにらまれ身がすくむ。

「ぴゃっ!」とおかしな声をあげてしまった。


「お前のような小僧から対価など、必要ない。

 この私を(あなど)るな」

「申し訳ありませんでしたッ!!」


 すぐさま土下座で謝罪する。

 主座様は「フン」と俺を見下した。

 ぷるぷる震える俺をどう思ったのか、主座様は腕を組みあごに手を添えた。


「対価が気になるならば、そうだな」


 主座様が少し考えて、ニコリと笑った。


「お前がこの先、お前のように困っているモノを見つけたら、助けてやってくれ。

 それが私への対価だ」


「――それが対価になりますか?」


「なるぞ。先行投資のようなものだ。

 そういうのが、巡り巡って私の利になることが往々にしてあるものだ」


 長命な主座様がおっしゃるならば、そういうこともあるのだろう。

 先行投資か。なるほど。

 そう言っていただけるならと腹をくくった。


「承知しました。

 今後、困っているモノがいたら助けるとお約束致します。

 色々とありがとうございます。お言葉に甘えます」


「うむ」と鷹揚にうなずく主座様。

 この返答はご満足いただけたようだ。


「この妖魔の封印が解けるのは、おそらく来年の秋頃。

 あと一年ある。

 お前はその間、サトとしあわせに過ごせばいいさ」


 あと一年。

 それまでにもっと力をつける。

 俺の決意が透けてみえたのだろう。主座様も表情を引き締められた。


「この妖魔を退治できるか、サトを助けられるかは、お前次第だ」


 うなずく俺に、さらにアドバイスをくださる。


「刀が出来上がったら、毎日霊力を込めろ。

 少しでも強い霊力を叩きつけなければこいつは斬れないだろう」


「はい」と返事をしながら、ふと甘えがうかんだ。


「あの、」

 おそるおそる主座様をうかがい見ながら、甘えたことを言ってみた。


「主座様がお出ましになって退治していただくことはできないのですか?」


 そんな俺に主座様はあきれたような視線を投げつけてきた。


「私はもう九十六だぞ? 老人はいたわって休ませてくれ」


 は!? きゅうじゅうろく!? 百歳間近!?


「――見えない!!」

「よく言われるよ」


 ニヤリと笑う主座様。

 こんな格好良い九十代がいるのか!! バケモノだな!!


「年齢のこともあるが、あまり私があちこちに首を突っ込むのは良くないんだ」


 そう言ってふうと息をつく主座様。


「『私がいればなんとかなる』なんて甘えたことを言い、私がそれに応じていたら。

 誰もが努力することを忘れ、ずっと私頼みになってしまう。

 そうなってしまったら、私がいなくなったらどうなる?

 誰も何もできない集団しか残らない」


 確かに主座様のおっしゃるとおりだ。

 俺自身もさっき甘えを感じた。

 それでは、そればかりになっては、主座様がいなくなったときに立ち行かなくなる。

 ちょっと考えれば当たり前のことだった。


「私がいなくても万事が回るようにしなくてはならない。

 私が転生を繰り返しているのは、世のためでも一族のためでもないのだから」


 主座様の言葉に引っかかるものを感じた。

 ではなんのために転生しているのですか?

 そう聞こうとして、口を閉じた。

 それは俺などが聞いていい話ではないだろう。


 主座様はきゅっと口を引き結ぶ俺にニヤリと笑い、楽しそうに言った。


「一年後。私が生きているかどうかはわからないが、良い報告があることを願っている」


「はい。必ず、良い結果をご報告させていただきます」


 ありがとうございました。と、再度頭を下げた。

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