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静原の呪い〜『呪い』にとらわれた彼と『呪いもち』の彼女〜  作者: ももんがー
『呪い』にとらわれた彼
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第五話 『主座様』

 我が静原家とサトさんの西村家での話し合いにより、俺とサトさんは許嫁(いいなずけ)となった。

 ただし、結納は交わさない。

 サトさんを始めとした誰もがサトさんはあと二年で死ぬと思っている。

 結婚はできないと思っている。

「結婚しないのに結納だけはするなんてこと、必要ない」と西村家から断られた。


 それでも俺はなにか『証』が欲しかった。

 サトさんは俺の許嫁だという『証』が。

 世間一般では指輪を交わすのが流行っているという。

 が、茶器を扱うサトさんは指輪を嫌った。

 茶器に傷をつけては大変だからだ。

 では何がいいだろう?

 髪飾り? ネックレス? 思い切って、着物とか帯とか。

 どれも良さそうに思えると同時に、どれも今ひとつに感じる。


 悩ましい。

 悩ましいが、楽しい。

 サトさんに贈り物を贈れる立場になれたことが、うれしい。誇らしい。

 サトさんのことを考えていられるのが、しあわせでうれしくてたまらない。



 正式におつきあいをするのは学校が夏休みに入ってからになった。

 我が校のサトさんの任期は夏休みまで。

 九月からは前任の橋本先生が帰ってくる。


 サトさんは「おつきあいするのは九月から」と言っていたのだが、俺が泣き落とした。


 俺は部活に入っていないので夏休みは学校に行かない。

 それなら学校とは無関係と言ってもいいだろう。

 サトさんの授業を受けるわけではないから、生徒ではない。

 ならば、許嫁として隣に立っても問題ないではないかとサトさんとご家族を説得し、了承してもらった。



 出会ったのは四月。

 見合いは五月。

 見合いから夏休みが始まるまでの二カ月は大変だった。


 サトさんは「家の決めたこととはいえ、教師と生徒がおつきあいするのはよろしくない」とゆずらなかった。

 だから学校では「サトさん」と呼ぶのは禁止された。

 俺も「静原くん」としか呼んでもらえなかった。

 それでも会えるだけでうれしくてしあわせだった。

 廊下でばったり出会ったときに、俺にだけちょっと笑ってくれるのがたまらなく愛おしくて、心臓がわしづかみにされて大変だった。

「この人は俺の許嫁だー!」と叫びだしたくて、そんなことしたら速攻で婚約解消されるのがわかっていたから、ひとりもんもんとしていた。

 太一にも言うことは禁止されていたから、太一に相談もできない。

 その太一は赤くなったり青くなったりと挙動不審な俺を見て「これが『静原の呪い』か…」とおもしろがっていた。



 やっと夏休みになって、堂々と「サトさんの許嫁」を名乗れるようになった。


 俺は夏休みだが、サトさんは夏休みはない。

 学生ではないのだ。当然だ。

 あちらの教室、こちらの茶会と、あちこち忙しくしている。

 寺の用事も一部手伝っているという。

 俺も造園業の仕事の手伝いに入るので、会える時間は少ない。

 それでも、お互いの予定を教え合い、すり合わせていくのは、なんだか特別な関係に思えてくすぐったかった。


 俺が予定がない日は、サトさんの荷物持ちをした。

 時には着物で茶会の手伝いもした。

 力のある男手は社中の皆様に大変喜ばれ、サトさんとの仲も祝福してもらって鼻の下が伸びまくった。

 サトさんの横で手伝いをしていると、まるで夫婦のように思えて、うれしくて恥ずかしくて意味もなく暴れだしたくなった。が、なんとかおさえることに成功していた。

 口元がによによとゆるむのはどうにもできなかった。


 サトさんと会ったときは、必ずサトさんをご自宅まで送り届ける。

 サトさんは「子供じゃないんだから大丈夫です」といつも断ってきたが、俺が少しでもサトさんといたいので必ず送り届けることにしている。

 一度お母上もおられるところで「一分でも一秒でもサトさんといたいから送らせて欲しい」と正直にお願いしたら、それからは何も言われることなく自宅まで送らせてくれるようになった。


 それでもお父上には会ったことがない。

 どうも間が悪いようだ。

 一度きちんとご挨拶したいのだが。

 お母上もお祖父様お祖母様も「気にしなくていい」と言ってくださるのだが、やはり気になる。

 どこかできちんと席をもうけてもらえるようにお願いしたほうがいいかもしれない。



 サトさんを自宅まで送り届けるのには、もうひとつ理由がある。

 サトさんに『呪い』をかけた妖魔を探るためだ。


 サトさんに「妖魔の封印場所に連れて行って欲しい」とお願いしたのだが、辛そうな顔で「行きたくない」と言われてしまった。


 サトさんを苦しめてまで行く必要はない。

 俺がひとりで探ればいいだけだ。


 どのみち戦闘になることを考慮すれば、辺りの地形を把握しておくことは必要だ。

 サトさんをご自宅に送り届けたあと、西村家の周辺を探索して、妖魔の封印を探しながら地形把握に努めている。


 ちなみに、山に入る許可はお祖父様が出してくださった。

 妖魔の封印の場所も「だいたいこのあたり」と教えてくださった。

 お祖父様はあいにくと足腰が悪くなられたので、連れて行ってもらうことはできなかった。


 お祖父様の言葉に従って探るのだが、未だに妖魔の封印を見つけることはできていない。



 お盆を間近にしたある日。

 いつものようにサトさんをご自宅に送り届け、封印を探して山を歩いていた。


 ふと、大きな霊力を感じた。

 ここでこんな大きな霊力を感じたことはない。

 もしや、これが例の妖魔ではないだろうか?


 封印が解けたのか? とか、別の妖魔か? とか、疑問が次々と浮かぶ。


 腰には愛用の小太刀。

 いつもサトさんと出かけるときには鞄に入れて持ち歩いている。

 大きめの鞄は「カッコ悪い」と母や叔母達からは不評だが、サトさんに何かあったときに守れないほうが恐ろしい。

 むき出しで腰に差していたいくらいだが、それをすると警察に連れて行かれる。

 鞄に入れて持ち歩くのが限界だ。


 今は山中で人目がない。

 鞄から小太刀のみを出してベルトに差し、気配のする場所へと走る。


 ザッと木立を抜けた先に、男がひとり立っていた。


 老人だった。

 こちらに背を向け、まっすぐに立っている。


 ほっそりとした枯れ木のようなのに、その身からは今まで感じたことがないほどの大きな霊力を感じる。

 涼しげな素材の白っぽい着物と羽織を着こなし、白髪を肩にかからないくらいの長さでそろえている。


 切り立った場所で、眼下に西村家の守る青眼寺が見えた。


 老人の前には石があり、その前に花と線香が手向けられていた。


 誰かの墓だと、察した。


 墓参りにきた老人を妖魔と間違えたとは、自分もまだまだだと邪魔をしないように立ち去ろうとした。

 が、それはできなかった。


「――ちょっと待ってろ」


 老人が、声をかけてきたからだ。


 老人が自分に気付いていることに驚いた。

 気配は消していた。足音も立てていなかったはずだ。

 もしや、自分でない誰かに声をかけたのか? とも思ったが、ここにいるのは自分だけだ。


 とりあえず、邪悪な気配は感じない。

「待て」と言われたので待つことにする。


 老人は手にしていた瓶のふたをぽんと開けると、石の上にだばだばとかけた。

 しばらくじっとそのまま立っていたが、やがて一言。


「――また来る」


 それだけ言って、くるりとこちらを向いた。


「待たせたな」

「――イエ…」


 白髪を後ろになでつけた老人は、シワだらけの顔をしていた。首も手も細くシワだらけで、ずいぶんと年配に見えた。

 それなのに、その狐のように吊り上がった目にはとんでもない力が秘められていた。


 白髪に白っぽい着物とあって、なんだか白狐が人間に化けているかのような男だった。


 老人は俺をしばらくながめ、ニヤリと笑った。


「なるほど。悪くない」


 なにが?

 というか、誰だ?


「お前、名は?」


 正直に名乗るべきかどうか、迷った。

『名』は魂を縛る。

 妖魔相手に『名』を知られることは最悪をともなうことだと幼い頃から厳しく言われてきた。


 目の前の得体の知れない老人に正直に答える義理などない。

「なんで言わないといけないんだよ」と突っぱねてもいいと思う。

 だが、青眼寺を守るように立っている墓に、あんな顔で参っている人だ。

 西村家の関係者かもしれない。


 迷いに迷ったが、思い切って名乗ることにした。

 悪いヤツだったら、たたっ斬ればいいだけの話だ。


静原(しずはら) 玄治(げんじ)です」


 正直に答えると、老人はフムとひとつうなずいた。

 

「静原の跡取りか」

「跡取りからは廃されました」

「ああ。サトのためか?」


 サト。サトさんのことか!?

 やはり西村家の関係者か? それとも。

 瞬時にそれまでもとっていた警戒態勢を一段上げる。

 そんな俺に狐のような老人はクククッと楽しそうに笑った。


「まぁそう警戒するな。私は敵じゃない」


 そう言われても、どこの誰かわからない以上、警戒は解けない。

 サトさんを知っているならばなおさらだ。


 そんな俺に、老人はニヤリと笑い、名乗った。


「私の名は安倍晴明(あべのせいめい)


「――安倍の、主座(しゅざ)様――!?」


 すぐにその場にザッとひざまずき、(こうべ)を垂れる。


「ご無礼をいたしまして申し訳ございません。

 京都の北の地で退魔師をしております、静原家が一人、静原 玄治と申します」


 改めて名乗り直す。


 この京都で大きな力を持つ霊能力者集団、安倍家。

 京都の四方を囲む結界をはじめとした結界の維持管理、人々をおびやかす妖魔の退魔、異世界から落ちてくる『落人(おちびと)』の保護など、多岐に渡る仕事で昔から京都を守っているという。

 その当主にはひとつのうわさがあった。


『安倍家の始祖である安倍晴明様は、何度も安倍家に転生している』


 生まれ変わった安倍晴明様は『主座様』と呼ばれている。

 そして現代も主座様はこの京都におられる。


 そんな話は俺も聞いていた。

 しかし、実際にお会いするのは初めてだ。

 なるほど、とんでもない霊力量と威厳だ。

 これが安倍の主座様。


「サトの許嫁(いいなずけ)になったらしいな」

「はい」


 西村家から報告があったのだろうか。

「サト」と呼ぶほど主座様と西村家が親交があったとは知らなかった。

 改めて『サトさんの許嫁』と言われると、うれしくて照れくさくて意味もなくもじもじしたくなる。

 が、主座様の前だ。がんばってこらえる。

 顔が赤くなったり口元がゆるんだりするのはどうにもできない。


 そんな俺をどう思ったのか、主座様はまたもククッと笑われた。


「で? こんな山の奥で何をしているんだ?」


 主座様はちっとも威圧的ではないのに、問われたらつい答えてしまいたくなる不思議な雰囲気の方だった。

 だからつい、ぺろりとしゃべった。


「サトさんに『呪い』をかけた妖魔を探しています」


「フム」と腕を組みあごに手を添える主座様。


「探してどうする?」

「滅します」


「フム」


 主座様はじっと俺を見、腰に差した小太刀を見、あっさりと言った。


「無理だな」

「え」


 その言葉に、ぽかんとする。

 え? 無理? なんでだ?

 主座様はしばし無言で俺を観察していたが、やがて口を開いた。


「その小太刀では無理だな。あの妖魔を相手にするならば、もっと大きな太刀でなければ。

 その刀にたくわえられる霊力では足りない」


「――なるほど。ご助言、ありがとうございます」


 つまり、大きな太刀に霊力をたっぷりと込めればいけると。


「大太刀ならば大丈夫ですか?」


 問うた俺に、主座様は楽しそうに笑った。


「へこたれないのだな」


 言葉の意味がわからず黙った俺に、主座様は今度は「ククッ」と声を出して笑った。


「大抵の人間は『私』に『無理だ』と言われたらあきらめるんだ。

 なのに、お前はあきらめることもへこたれることもないのだな。大したものだ」


 首をかしげる。

「主座様は『小太刀では』無理だとおっしゃっただけです。

 小太刀で無理ならば、別の手を探せばいいだけではないですか?」


 俺の言葉に、主座様はニヤリとされた。


「お前、何歳(いくつ)だ」

「十七です」

「若いな」


 そしてまたククッと笑う。

 どうせ若造だよ。


「――いいだろう」


 何が?


「私から婚約祝をやる。

 大太刀一本、お前用に打て」


「――は?」


「馴染みの刀匠はいるか?」

「イエ、いない、はずです。

 馴染みの店はありますが…」


 退魔に使う刀は消耗品だ。

 ジジイの代よりずっと以前からお願いしているという刀剣専門店の人が定期的に持ってきてくれる。だから刀匠に知り合いは――。

 ふと、太一の顔がうかんだ。


「ただ、山科の春日家の息子と友達です」

「山科の春日か」


「悪くない」と主座様はゴソゴソと(たもと)を探り、紙と筆記具を取り出した。

 その紙になにやら書きつけると、俺に突き出した。


「近いうちにこれを持って春日家に行け。

 私からも連絡を入れておく」

「――は? え!?」


「十七ならばもう身体はそれ以上大きくならないだろう。

 お前の背丈、腕の長さ、霊力量に合わせて仕様を決めさせろ」


「え? そ、そんな」


 そんなの、一体いくらかかるんだ!?

 刀って、どのくらいの期間でできるんだ!?


 俺がおろおろしていると、主座様はニヤリと笑った。


「言っただろう? 婚約祝だ。

 金は私が出す。遠慮などするな。

 それに、そのくらいの太刀でないとサトは救えないぞ」

「お言葉に甘えます。ありがとうございます」


 コロリと態度を変えた俺に、主座様は「ハハハ!」と大笑いだ。

 笑いたければいくらでも笑え。

 サトさんのためならばいくらでも笑われてやる!


「――そうか。お前も『とらわれた』か」


 主座様まで『静原の呪い』をご存知らしい。

 どうなんだ静原家(わがや)


「――お前の墓(ここ)で『半身』に出会えた男に会うというのも、なにかの縁かな。青羽(せいう)


 やさしい笑顔で墓に語りかける主座様。

 よほど親しい相手なのだろう。

 そして、何故か『半身』という言葉が気になった。


 俺が疑問を口にする前に、主座様は墓に向かってやさしく言った。

「わかったよ。助けてやるよ」


 なんのことかときょとんとしている俺に、主座様はニヤリと笑った。


「サトに『呪い』をかけた妖魔のところに連れて行ってやる。ついてこい」

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