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三つ編みおさげ

修学旅行の朝のお話。

作者は三つ編みおさげがとても好きです。可愛いので。


 4月某日。三年生に進級したばかりの私たちは、なんとも珍しい時期ではあるが、修学旅行に来ていた。

 定番の京都・奈良で、私は中学の修学旅行も同じだったからあまり新鮮味はないのだけど、そもそも修学旅行というイベント自体が楽しいのでもうなんでもありだ。


 一日目の夜、早めの食事のあと、部屋ごとに割り振られた時間内に入浴を済ませなければならない。髪を乾かす時間など当然ないまま部屋に戻ってきた。

 私の長い髪は、こういうとき厄介だ。部屋に備え付けのドライヤーの順番待ちに加わったら、みんなに大迷惑をかける。かさばる荷物筆頭のマイドライヤーを引っ張り出して、コンセントの近くの部屋の隅にバスタオルを敷く。その上に座って黙々と髪を乾かしていたら、早々に乾かし終えたあかりちゃんが近くにやって来た。


 くじで同室になったあかりちゃん。文化祭後の打ち上げ以来、かなり仲良くなれたので、同室になれたのは素直に嬉しかった。

 にこにこと、あかりちゃんが大声で言う。


「未央ちゃん、未央ちゃんの髪、乾かしたい!」


 思わずドライヤーのスイッチを切った。


「へ?」

「だめ? 私のお姉ちゃん美容師だから、私も結構上手いよ!」


 謎の売り込みをした後、あかりちゃんはもじもじと恥ずかしそうにして、話を続けた。


「実は、未央ちゃんの髪にすごく興味があって……できれば明日の朝とかにヘアアレンジさせてもらえたらなー、なんて思ってるんだけど……」


 そこで、自然と上目遣いになるあかりちゃん。

 可愛い。


「私の髪でよければ、どうぞ……?」


 可愛さに負けて了承してしまった。







 それが昨日の夜のこと。朝早く起きたあかりちゃんは、私の髪をいじる時間を見越して私を起こし、さっさと他の支度を終わらせて準備万端だ。


「今日は班行動で渡邊くんも一緒だね! 名付けて、いつもと違う髪型でドキドキさせる作戦!」

「ええ……あかりちゃん、私たちのことだいぶ面白がってるよね……」

「ごめん、面白がってる! カップル誕生の瞬間に立ち会っちゃったからね。でも未央ちゃんの髪いじりたいのが先だから許して?」


 何を許せと言うのか。キラキラの美少女スマイルに、私は白旗をあげた。


 嬉々として私の髪を梳かしながら、あかりちゃんはおもむろに語りだした。


「私ね、三つ編みおさげって最高に可愛いと思うの」

「三つ編みおさげか……やったことないかも」

「推しのアイドルがね、この前お昼のバラエティに出てたんだけど、そのとき三つ編みおさげにしてて! もう超かわいくて、三つ編みおさげにできる長さの全女子がしてほしいくらい」


 急に発語量が多い。


「楽しそうだね、二人とも」

「内山さん」


 同室で、行動班も一緒の内山さんが話しかけてきた。


 内山さんは、半年前くらいにバレエ同好会を立ち上げた行動力のある美女だ。前髪なしの大人っぽい髪型が似合っていて、彼女を見るとマドンナという少々古典的な単語が頭をよぎる。

 あかりちゃんが私の髪をいじるに至った経緯を説明すると、内山さんは頷いた。


「渡辺さんの髪、ほんと綺麗なロングだよね」


 どうしよう、美少女と美女に寄ってたかって褒められている。両手に花だ。

 そんなことを考えて若干現実を持て余していたら、内山さんが遠慮がちに言った。


「三つ編み……私もやっていい? 渡辺さん」


 もうどうにでもなれだ。


「私の髪で良ければ、どうぞ……」

「よし、じゃあ内山さん左側ね。この辺から編み込んで、耳の下からちょっとゆる編みにしない?」


 仲間を得てやる気があがったのか、あかりちゃんがてきぱきと案を出す。


「いい。すごくいいと思う」


 深く頷く内山さん。

 私はしばしじっとして、二人が満足するのを待った。






 数分後。


「可愛い~!! 最高!!」


 三つ編みおさげが完成し、二人はきゃいきゃいとすごく楽しそうだ。

 洗面所の鏡の前に連れてこられる。思っていたよりも甘い雰囲気で、なんだか照れくさい。


「未央ちゃんは、いつもは爽やかスポーティって感じだから、今日は思いっきりガーリーにしたかったんだ~! 私たち天才じゃない?」

「うん、天才……。どうしよう、メイクもしたくなってきたんだけど」


 内山さんはバレエメイクを研究するうちに、普段のメイクについても異常に詳しくなったと話していたことがある。行きの新幹線でも隣の席だったのだけれど、プチプラコスメのことを色々教えてもらった。私は運動部なのもあってそんなに本格的にメイクをしないけど、今後の参考に真剣に聞き入ってしまった。内山さん、仲間を集めて同好会を作ってしまうだけあって、プレゼンが上手い。


 けど今は、メイクまでしてもらっている余裕はなさそうだ。時計を見て、私は言った。


「二人とも、そろそろ時間が……」

「やば! 朝ごはん遅れる!」







 朝食会場前で、同じクラスの男子たち数名と鉢合わせた。渡邊くんもいる。急に恥ずかしくなって、思わず同じくらいの身長の内山さんの背中に隠れた。あかりちゃんは小柄なので、隠れられない。


「渡辺さん、無駄な抵抗はやめよう」

「内山さんって結構シビアだよね……」


 私の呟きにもまったく動じず、内山さんは機敏な動きで私の後ろに回ってしまう。


「おはよー、あかり」

「おはよう、寝ぐせやばいよ?」

「知ってる。てか、渡辺さんたちくるくる回って何やってんの?」

「ふふ、未央ちゃん、照れ屋さんだから」


 バカップルがなんか言ってる。あかりちゃんに面白がられるのは可愛いから許すけど、相田くんは許さん。


 怖いのは、このやりとりの間、さっきまで眠そうな顔をしていた渡邊くんが私に気づいた後、一言も発さずにこちらを見ている気配がすることだ。無理、恥ずかしくて顔見れない!


 攻防の末、内山さんは逃げる私の後ろに回るのを早々に諦め、私の肩を抱いて動きを封じた。やだ、イケメン。

 とうとう、渡邊くんが口を開いた。


「渡辺さんの髪、誰がやったの?」


 結構ガチトーンだ。あかりちゃんと内山さんが顔を見合わせ、同時に渡邊くんの方を見て言う。


「「私たち」」


 渡邊くんは、私の方を見たまま頷いた。


「ありがとう。一気に目が覚めた。二人には後で八つ橋を進呈します」

「やったー!」

「やっぱり私たち天才」


 あかりちゃんと内山さんは互いを讃えあいながら、さっさと朝ごはんを食べに歩き出してしまった。「ナベ、見すぎ」などと渡邊くんをからかってこづき、相田くんたちもそれに続く。

 その後ろをのろのろと歩き出すと、渡邊くんが隣に来た。


「三つ編み、盲点だった。…………可愛いね」


 無理!


「どうしてそんなにさらっと言うの……」

「事実だから」


 なんだか最近、こんなことばっかりだ。はじめのころはよく耳まで真っ赤にしていた渡邊くんだけど、ふっきれたのか慣れたのかなんなのか、私ばっかり恥ずかしがっているのが少し悔しい。


「練習したらできるかな……」


 真剣な声でそんなことを言うから、少し笑ってしまう。


「そんなに気に入った?」

「新しい扉が開いた気がする」

「その言い方はなんかちょっと」

「……うん、俺もどうかと思ったけど、これも事実だから。あきらめて」

「……はい」


 恥ずかしさを耐えて、そっと隣を伺う。


「ん?」


 目が合った渡邊くんが、あんまり嬉しそうな顔をするものだから。

 このどきどきは、いつまでたっても静まってくれそうになかった。






 翌日、修学旅行最終日の朝も、あかりちゃんと内山さんが腕によりをかけてまた別の三つ編みスタイルを作り上げた結果、二個目の八つ橋をゲットしていた。

 これからはもっと動画とかを見て凝ったヘアアレンジを研究しようと決意した。もちろん、渡邊くんには秘密である。



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