第48話・つまりそろそろネタばらしな話が必要なわけだ
タイトル通りネタばらし回……思ったよりネタバレしてないだと……?
むしろ伏線増えてるような……?
今回トライ達は出てきません。
「エレメントマスターを瞬殺……か」
都内某所にあるオフィスビルのある階層、何の特徴もない一般的な会社らしいオフィスの一画。
そこで例のおっさんは2つのパソコンを覗きながら、そんな呟きを漏らしていた。
「やー、さすが熟練度MAXッスねぇ。
トリスペとガトスペの組み合わせも制御大変なのによく扱えるもんッスよ」
軽い若者風の言葉使いで話しかけてくる彼の部下。
彼はおっさんの隣に座っていたが、一緒に見ていた画面に映るトライ達への率直な感想を続ける。
「こりゃもうセンスッスね、天性の感覚とかそんなヤツ。
単純にステ高いとかスキル多いとか装備が良いとかそんな次元じゃねッス」
「どうでもいいがお前もう少し言葉使いどうにかならんのか。
オレ一応上司なんだけど……」
「無理ッス、そういうの無理だからこの仕事やってるんスもん」
実際にはどんな仕事だろうが最低限の言葉使いも出来ないようでは致命的なのだが、彼は本気でそう考えているようだ。
まるで聞いていない、というよりもそんな会話すら無かった、とでも言うように続きを話し始める。
「これがアレッスか、例の「勇者」だかなんだかの」
「……はぁ、諦めるわ。
お前それどこで聞いたんだ?オレ言ったっけ?」
どうやら言葉使いに関しては諦めることにしたらしいおっさん。
こういったやり取りは1度や2度では無いのかもしれない。
「社内で噂になってるッスよ、FGで勇者を選ぼうって話だって。
今時勇者を選ぶなんてラノベじゃないんスから、そんな恥ずかしい隠語にすんの勘弁してほしいッスね」
内容は誰も知らないみたいッスけど、と部下は付け足して口を閉ざす。
「まあそう言うな。
ところで勇者って意味で、こいつらは適任だと思うか?」
「トロンちゃんが巨乳だから適任ッス」
「真面目に答えて欲しかったぞ……」
一応おっさんは真面目な顔で問いかけたのだが、部下は真面目な顔でそう返してきた。
キリッという擬音さえ聞こえてきそうなくらい真面目だ。
「ネトゲ的な勇者って意味なら適任ッスね。
特にこのトライっていうバカは」
ネトゲ的な勇者。
彼は「無謀な状況に突撃していくプレイヤー」という意味で言っている。
それが本当に勇者ならご都合主義という主人公補正がかかり、偶然や奇跡や秘められたパワー的なものが覚醒したりして突破できるものだが、現実でそんなことは滅多に起こらない。
つまり正確には無謀な状況に突撃していって「自滅するプレイヤー」のことを勇者、または勇者プレイなどと言い、彼もその意味で言っているのだ。
MMOでは自滅した結果、周囲のプレイヤーに大量のモンスターを押し付けることになる、などの意味も追加される場合があるので、バカにする発言として使われることが多い。
「熟練度が広まれば今の上位プレイヤーのがよっぽど勇者に適任ッスよ。
あ、ネトゲ的な意味じゃなくてッスよ?」
「ふむ。
どうしてそう思う?」
「今の上位陣はみんなヘビー課金ユーザーッスからね、熟練度を知らない状況で効率的なゲームの進め方をいち早く見つけ出したのが彼らッス。
意図するしないに関わらず、使えるもんは全部使って、周りを捲き込んでまで都合の良い状況を作り出す、勇者ってそんなもんスよね。」
彼の「勇者」に対するイメージは大分偏っているようだ。
「ふむ、やっぱり課金サービスを安くしすぎたかなぁ?」
「少しくらいなら高くても彼らはやったと思うッスよ」
はぁと溜め息をつくおっさん。
キャスター付きの安そうな椅子に深く座り直し、画面の向こう側にいるトライ達をじっと見つめる。
「金に頼るようなプレイヤーじゃ困るんだよなぁ……」
「彼らは金に頼ってるんじゃないッスよ。
効率的な手段がたまたま金が必要だった、っつーだけッス」
ただ、と付け加え、部下はトロンを1度見てから話す。
「それを考えても、こいつらの感覚は異常かもッスね。
システムをセンスで凌駕してるって感じッス。
この辺は効率重視でひたすら同じマップにいる上位陣じゃ出来ないと思うッスよ」
ほう、と感心したような表情をして、モニターから部下へと視線を移すおっさん。
「金銭にしてもレアにしても経験値にしても、上位陣は行くマップがほぼ決まってるッスからね。
あいつらみたいに経験値無視してあっち行ったりこっち行ったりしないと、あんなセンスは生まれないッス」
「なんだ、真面目な話できるんじゃないか」
本当に感心した、とばかりに少し驚きの態度をとるおっさん。
どうやらこの部下がこんな話をするのは珍しい光景なようだ。
「オレはやればできる男ッス。(キリッ)
例の教えたマップも普通のプレイヤーなら2〜3日かかると思うッスけど、こいつらならいきなり攻略しちゃうんじゃないッスかね?」
ちなみにこの2〜3日という時間は、FGにおいてはかなり早い日数だ。
何も情報が無ければ自分の体で調べ、ときには倒すのに5分以上もかかるようなモンスターと戦い、マップによっては特定のアイテムが必要になるため戻る必要があったりする。
現在の上位陣でさえ、慎重に攻略していって5日程度かけるのが普通だ。
1日で攻略するためには、常に正解のルートを選び続けてモンスターを数分で撃破し、戻る必要の無い内容になっているうえで駆け抜けるような進め方をする必要がある。
「まああれはボス以外に重要な部分は無いからなぁ。
ちゃちゃっと攻略して情報公開してもらったほうが助かるからいいんだが……」
「新しい属性武器とか超重要ッスよ。
ああ、初めてのマップをいきなり攻略したら勇者っぽいッスね。
ラノベとかゲームじゃ午前中にダンジョン入って夕方に出てくるなんてよくある光景ッス」
背もたれによりかかって足を伸ばし、両手を頭上に思い切り伸ばして「ん〜」と声を出しながらのびをする部下。
ここまで話しておいて真面目に「勇者」なんて話をしているのが馬鹿らしく感じているようだ。
「ま、勇者がどんな意味なのかは知らねッスけど、こいつらなら勇者って言ってもいんじゃねッスかね。
オレなら選ばないッスけど」
ふー、と長く息を吐きながら部下は自分のデスクへと戻っていった。
「勇者と言ってもいい……か」
おっさんは再びモニターを見る。
そこに映っているのは―――
『……Zzz』
―――読書に強烈な睡眠パンチをもらってKOされているトライが映し出されていた。
『起きろボケェっ!』
『おふぅっ!?』
「……オレも選ばない……な」
苦笑いを浮かべ、変な汗が頬を伝うのだった。
――――――――――
時間は再び流れる。
場所は同じ、オフィスビルの同じ一画。
おっさんと部下がトライ達を見ていたあの日から、1ヶ月という時間が経過していた。
「ぶっちょーう! これを見てくださいッス!」
かつて部下だった男は、今では部長を超え課長を超え社長さえ超えて会長になりたいなぁなんて妄想を口に出してしまうほど残念なヒラ社員と化していた。
つまり変わっていない。
「近すぎて見えんからもう少し離そうな」
実は部長だったおっさんは日々態度が悪くなっていくのと反比例するように仕事ができるようになっていく問題児な部下からスマホを突きつけられ、色々と言わなくてはならないがまずは見えないということだけをしっかりと伝えた。
「何言ってるんスか!」
今度はスマホではなく自分の顔を思い切り近づける部下、もう少し進んでいたら男同士のキスという誰得なシーンを描写しなくてはならないところだった。
「とりあえず近いから少し離れような」
だが部下は興奮冷めやらぬ様子で、FG内でも無いのに魔法を使うような大げさな身振り手振りをする。
「今や知らぬものはいないトライパーティーの紅一点!
トリプルガトリングから放たれる魔法レベル10の超火力! 夢の中でさえ越えられない美貌! なにより全人類の半分の夢と希望を一身に抱える巨大な胸! つまり巨乳!
そんなトロンちゃんがついに1位をとったんスよっ!?」
色々とヤバイ発言を言いまくる部下に、おっさんだけではなく周囲にいた他の社員一同苦笑いの状態だ。
「とりあえず何の1位なのかから聞こうか」
「FG内女性プレイヤーランキング総合部門ッス」
「色々とまずくないかそれ」
一応まずくはない、個人サイトではあるが、女性側はちゃんと本人の許可を得た上での参加となっている。
本人の許可なく写真などを使用するのは問題だ、ゲームとは言えその辺は問題にもなりやすい。
「というわけで!」
「というわけで?」
「公式サイトからお祝いとして何か贈りましょう!」
「できるかボケ」
本気で呆れるおっさんであった。
この性格さえ無ければ優秀な人材であるだけに、落胆するのも仕方ないかもしれない。
「えー、なんでッスか。
勇者なんでしょ彼ら、勇者には王様からプレゼントってのは王道じゃないッスか」
「お前は個人的に贈りたいだけだろうが、自分でやれ、会社を巻き込むな」
「その手があった!じゃあちょっとGM限定アイテムを渡して「会社を巻き込むな」……そりゃないッスよ~」
ないのはお前の頭の中身だ、と思いはしたものの、仕事はできるのでギリギリで言葉を飲み込むおっさん。
「大体お前このあいだと言ってることが違うじゃないか。
俺だったら選ばないとか言ってたくせになんでいきなり勇者認定してるんだ」
「部長、世の中は常に変化してるッスよ」
「お前に言われるとむかつくのはなんでだ」
額に青筋を浮かべて怒りを思いっきりアピールしてみるが、残念ながら目の前の部下は全く気にすることが無かった。
全く変わらぬ態度のままで会話を続けてくる。
「だって~、通常会話が広まって色んなイベントも職業も公開されて、熟練度だってしっかりと広まってるのに未だに上位プレイヤーっすもん。
古代遺跡マップを四人で暴れまわれるパーティーなんて他にいないッスよ?」
古代遺跡マップは1週間ほど前に発見されたマップで、現在のFG内で最高の難易度を誇っているマップである。
その分見返りは非常に高く、ただの売却用アイテムだけでもかなりの金額が手に入る。
「もうちょいしたら彼らレベル150ッスよ? フェンリル四人で倒しちゃうッスよ?
さすがにそれを勇者と呼ばずしてなんと呼べばいいのかわからんッス」
そう
トライ達は現在、レベル150を目前とするところまできていた。
その最終的なレベルを上げる場所として、古代遺跡マップで追い込みをしているところなのだ。
「まぁ彼らのおかげでマップに関しては8割がた公開されたしなぁ。
NPCも普通の対応に戻って6割ほどのイベントは発見されてるし、そろそろ誰か選んでもいい時期だろうなぁ」
「勇者が何なのかは未だにわかんねッスけど、彼ら以外ありえねぇッスよ。
と、言うわけでなんか記念品贈呈させてくださいッス」
最後まで諦めない部下に、その熱意をどこか別の方面に向けてほしいと真剣に考えるおっさんであった。
「フェンリルを倒したら考えよう」
「マジッスか、ちょっと俺グレイプニール渡してくるッス」
「未発見アイテムを渡すんじゃない」
いい加減怒りマークが巨大になってきたおっさんの前に、さすがの部下もビクリと体を震わせるのであった。
トライ達がフェンリルを倒す日まであと少し
最後まで一気にどうぞっ!




