第46話・つまりボーナスステージってのはややこしいわけだ
説明多いです
と、書いてから思ったのですがこの話自体が説明多いな
『どうだい?』
「なんつーか、変なマップだな」
空中都市。
植物と人工物が、不自然なまでに自然に調和した不思議な場所。
トライはシャイン達に状況報告しながら、理由も無くただ中心らしき方向に向かって歩いていた。
「まあ見た目は来ればわかるからいいんだがよ、さっきからモンスターの気配すら無ぇってのはちょっと不自然だよな」
『街扱いなのかもな、どこかにダンジョンの入口があるかもしれないし、そういう街も他にあっただろ』
ダンジョンが街中にある、というのはFGでは結構多い。
ダンジョンの上に街ができている場所もあれば、塔型ダンジョンの周りが街になっている場所もある。
街ではないが、プレイヤーが常にたくさん来るようなマップの近くに商人系が集まり、プレイヤーのみで構成された街のようになっている場所さえある。
それを考えれば、空中都市もそうなっている、というのは別段不思議な話ではないだろう。
「いや、なんつーかよぉ。
そういう場所ってなんかあんじゃねーか、気配っつーか悪意っつーかゾワゾワってするような感覚が」
『ゲームでそんな感覚するわけないだろ。
ま、独特の雰囲気があるのは否定しないけど』
ゲームだから気配や悪意などを感じない、それはある意味正解ではある。
数式で表現できないものは存在できないのがゲームというものだ。
だからシャインの言葉は間違ってはいない。
しかし家庭用RPGをやっていたりして、たまにそういったものを感じとる瞬間が無いだろうか。
例えば、扉がちょっと違うなと思ったらボスの間へ続いていたり。
例えば、今までよりやけに広い場所に出たなと思えば罠だったり。
例えば、不自然なまでに何も無いかと思えば突然イベントが始まったり。
気配とは、そういった「違和感」のことを言ったりすることもある。
わずかな空気の流れの違い、体温によって暖まった空気が肌に触れる感触、物体が動いた時にしか発生しないほんの少しの様々な音。
VRMMOでは、かつて画面の向こう側にしか無かったそれらを自分の体で感じ取れる。
もちろんゲームである以上全てをというわけにはいかないが、少なくともトライには「違和感」と呼べるだけの何かが感じ取れているようだった。
そのトライが不思議と感じる空間とはどういうことか。
「その独特の雰囲気すら感じねぇんだよ、ただの街でももうちょいなんか感じるもんだぜ」
『ふ〜ん?』
何も無い。
それが率直な感想だった。
違和感について詳しく相談しようかとしたが、あることに気づいてそちらに対応するため会話を中断する。
「あ、わりぃ、一回きんぞ」
『ん、なんで?』
「例のおっさんだ」
『ああ、よろしく言っといてくれ
出来ればあのふざけたメモに関してしっかりと』
未だにバカにされたことを気にしているらしいシャインが、そのセリフを残して会話を終了していった。
「ふむ、隠れていたのによくわかったね」
例の男は先程と同じ、白いストライプの入った濃緑のスーツを着て建物の影からスッと現れた。
「こんだけ何も感じねーんじゃ何かいりゃすぐわかるっすよ」
「ふむ、言われてみればそうか。
何も感じない、というのを感じているあたり流石だね」
「いや誰でもわかるっすよ、これはやりすぎっす」
実際に普通のプレイヤーがこの状況に気づけたかと言えば微妙なラインなのだが、良くも悪くも自分が特別だとは思っていないトライは当たり前だと答える。
勘がいいプレイヤーなら確かに気づいたかもしれないが。
「で、なんかあったんすか?」
この男が現れた、ということは何か意味があると思ったらしく、そう問いかける。
「まあ色々と、ね。
話ながら案内でもしてあげようか」
「はあ、んじゃまあお願いします」
にっこりと笑っているのにどこかイタズラ小僧のような微妙な笑顔。
どうせまた事情があるとは気づきつつも、警戒するだけ無駄だと悟ったトライは大人しく着いていくのであった。
――――――――――
「しかし驚いたよ、さっきの今でここまで来るとは思っていなかった」
驚いていると言いながらも、その表情にはそんな感情を少しも見せずにそう言ってくる男。
やると思っていた、と言われたほうがまだ信じられそうだ。
「良くて明日、普通なら3日、大規模パーティーを連れてきてくれるのが一番嬉しかったんだけどね」
まさか単体で突破するとは、男はそう言葉にして口を閉ざした。
どうやらこの男はプレイヤーが停滞している今の状況を、出来るだけ早くどうにかしたいらしい。
「あんなん高レベルプレイヤーならなんとかなると思うっすよ。
むしろなんで今まで見つかんなかったんすか?」
当たり前だがそんなことには気づかないトライ。
単純に自分が疑問に思ったことをぶつけてみる。
「実は我々としても予想外でね。
見つかり難いようにはしたんだが、ここまで見つからないとは思っていなかったんだよ」
実際トライクラスのプレイヤーが10人いれば、余裕を持って到達できたであろう。
残念ながらトライの強さの秘密である熟練度も、その知識そのものさえ知られていない現状であのマップは厳しすぎる。
そして肝心の熟練度は、今回の騒動が原因で未だに知れ渡っていない。
「ふ〜ん?」
「さて、あの装置を起動させれば君の仲間も入りやすくなるよ」
男が指差した方向を見れば、そこにはボールにいくつもの環を取り付けたような物体があった。
機械らしきパーツで組み合わされているが、やはりと言うべきなのか、土台になっているのは木の根が不自然に螺旋状になったものだった。
「ま、仲間も飛行装備が無いと来れないがね」
「あ、マジっすか」
「なんだ、買ってないのかい?」
「中から開けりゃ誰でも来れるんだと思ってたもんで。
ちょっと連絡するっす」
実際メモには「中には簡単に出入りできるようになる装置があるから仲間はそれを使って入ってね!」と書いてある。
確かに勘違いしてもおかしくは無い書き方だろう。
「あー、こちら警視庁です」
『け、けいさつですかっ!?
ぼくはなんにもしてませんよっ!?』
「うむ、ノリの良さに感動できそうだ」
『スルーしたほうがよかったか?』
なんだかんだで仲がいい二人を見る男は、「若いっていいなぁ」と一人呟くのだった。
――――――――――
『ああ、やっぱりそうなんだ』
「やっぱりってわかってたのかよ」
『いや無料で行けるならそれに越したことは無いだろ?
とりあえず準備だけはしといたからすぐに課金してくるよ、また連絡する』
「金はどうすんだ?
まさかシャインの奢りか」
『何言ってるんだ、お前の金に決まってるだろ。
いくらか分割しておいたんだよ、確認しなかったのか?』
「マジか>(゜ロ゜;」
やけに準備がいいシャインであった。
実際これで無料ならトライに課金しなおせばいい話であったので、ある意味頭のいいやり方である。
「あっはっはっ、優秀な仲間のようだね」
遠距離会話は本人同士でないと聞こえないのだが、開発者特権でも使ったのか全て聞いていたようだ。
「まあ任すわ……ってもう切れてるし」
「仕事も早いと、ほんとに優秀な仲間のようだね」
「おかげさまで」
何がおかげさまなのかはわからないが、社交辞令ができる程度には常識があったようだ。
「ところで聞きたいんすけど」
「ボーナスステージの意味、かな?」
「うす」
それを説明するために来たのかと言うほど、すんなりと男は言い当てて見せた。
恐らくは本当にそうなのだろう、もちろん事情は色々とあるのだろうが。
「そのためにはまずこの空中都市の構造から話さなくてはならないね。
長くなるけど大丈夫かい?」
「短く、かつ小学生でもわかるように頼んます」
「意外と難しいんだぞそれ」
トライより仲間に説明したほうが早いかもしれない、と男は本気で考えているようだった。
――――――――――
空中都市は現在トライ達がいる廃墟マップを最上層とし、下層へ進む形状になっている。
廃墟マップはただの廃墟でしかなく、ここに重要な施設は外部との開閉設備(さっきの球体)と出入口しかないうえ、NPCは一人としていない。
下層はダンジョンとなっているが、内容が若干特殊な形状をしていた。
入り口の階段は円形の大部屋の中心に続いており、その部屋をぐるりと囲む壁には等間隔で8つのドアが設置されている。
それぞれ内容は違うが、全3層で最終的に同じ部屋、つまりボス部屋に同じく8つの扉が繋がっているという構成になっている。
この8つのダンジョンが1つめの「ボーナスステージ」だ。
モンスターがほとんどおらず、採取ポイントが非常に多く、レアアイテムが採取できるレア採取ポイントが多い1層。
逆にモンスターが多く、モンスターからしかとれない素材系アイテムを落とすモンスターが多い2層。
そしてそれぞれの系統の素材のうち、レア度が高いものを落とすモンスターばかりの3層。
つまりここのダンジョンに来れば素材に関してはほぼ手に入るという構成になっている。
そしてボス部屋に存在するボスモンスター「エレメントマスター」が第2の「ボーナス」だ。
これはボスの固有ドロップの他に、どの扉が開いているかによって別枠でドロップアイテムが発生する。
大体はそれぞれの扉の最高レベルレアだが、開いている扉の組み合わせにより変化する場合がある。
どちらにせよプレイヤーにとっては利になる話ではあるが、ここで不利になる話が1つ発生する。
それはボスの強さが、「ボス部屋の扉が開く度に全回復+強化される」という点である。
調子にのって全ての扉を開くと、12人1パーティーでは手に終えないほど強くなってしまうチートボスと化してしまう。
知っていれば回避できる状況ではあるが。
最後の「ボーナス」
それはボス討伐完了後、その後に出現する階段を下り、最下層とも呼べる場所で発生する。
この場所では知識が手に入る。
図書館のようなその場所には、ウィンドウ会話で実行できる全てのイベントに関する情報が存在する。
発生条件やクリア条件はもちろん、クリア時の報酬やウィンドウ会話では知り得ない背景の設定などまで細かく記載されている。
wikiに転載されてしまえばそれまでなのだが、ボーナスはそこでは無い。
ここに記載された情報を読み続けていくと、熟練度の上昇率に補正がかかっていくのだ。
全ての情報を読み終えた段階で、実に1・5倍になるという仕様になっている。
内容を熟読する必要は無いため、2時間ほどあれば終わる内容なので、取得に時間が拘束されるほどでもない。
これが最後の「ボーナス」
つまり課金したプレイヤーは、ゲームのバランスを崩さない程度ではあるが、少し早く装備もステータスもあげられるようになるということだった。
――――――――――
「と、いうことなんだが。
わかったかい?」
「わかんねぇっす」
残念ながら、どれだけ噛み砕いてもトライに伝わることは無かった。
ちなみに作者はボーナスと聞いただけで喜びます
余談シリーズ
第10話あたりで少し触れましたが、このゲーム一般的な武器・防具は自作が基本です、モンハ○をイメージしてもらえばいいかと
モンスタードロップ、課金ガチャは完成品の状態で手に入ります
※2012/9/14
文章を全体的に修正、内容には変化なし




