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超ヘタレだった幼馴染が最強魔術師になって溺愛してきます  作者: 海野豹香


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虫を怖がる泣き虫


「うわぁっ!」


蝶がその手にとまっただけなのに驚いて尻餅をついた彼はレオンハルト・エリアス・ヴィルベール。この通りかなりのビビりで、いつも泣いている。まだ物心のつく前からずっと一緒にいるけれど、本当にヘタレだと思う。弱虫な性格のせいで年下からもいじめられる始末で、その度に私が助けている。でも、なんでかいつも放っておけなくて、大事な弟みたいな存在。


「...もう、レオンったら。ただの蝶じゃない」


泥で汚れた顔で今にも泣きそうな彼の手を取る。立ち上がると、涙を目にいっぱい溜めて、震えた声でレオンは言った。


「...ゔっ...ぐすっ...アイリス.........ぼく...びっくりしで......ぅゔっ...」


「泣かないの、大丈夫よ。ほら」


私が彼の汚れた服を魔法で綺麗にすると、レオンはあんなに泣いていたのが嘘のように目を輝かせた。


「...すごい!すごいよ、アイリス!もうこんな魔法が使えるなんて...!」


「私なんて、まだまだよ......お父様やお兄様たちは立派な魔術師なのに、私は落ちこぼれ。どれだけ鍛錬を積んでも一人前にはなれそうにないもの......」


私の曇った表情を見て、レオンがすごく哀しそうな顔をするから無理に明るく笑った。


「...ねぇレオン、みんなには内緒で見せたいものがあるの」


----------


アイリスはレオンの手を引いて家に帰ると、"隠し部屋"に忍び込んだ。


「すごいね......魔道具がこんなにたくさん...ここは......」


あたりをキョロキョロ見渡すレオンはすっかり泣き止んで、見るもの全てに目を輝かせていた。


「ここはお父様とお兄様たちの秘密の特訓部屋!...私は『落ちこぼれ』だから入っちゃいけないって言われてるんだけど、たまに忍び込んで魔法の勉強をしてるの。...見てて!」


アイリスは魔道具の中から銀の鏡を取り出すと床に魔法陣を書いた。


「ね、ねえ...アイリス...何するの...?もう行こうよ...この魔法陣...大人が使うやつじゃ......」


怯えてアイリスの袖を掴むレオンを他所に、彼女は陣の中心に立って魔法を発動した。凄まじい閃光が鏡から放たれ、二人はその眩さに身を屈める。


次の瞬間、浮かび上がった鏡の中に一人の女性がいた。


「......アイリス...これって...夢.......?......僕の母さんが鏡の中にいる!"二年前に死んだ"母さんが!!」


「夢じゃないわ...あなたのお母さんよ。ずっと『会いたい』って泣いてたでしょ...ん"!?」


いきなりレオンが飛びついたので、アイリスは受け身が取れずによろける。


「...っありがとう!」


レオンが涙ぐみながら鏡の中の母親に触れようとしたとき、彼の腕が鏡の中に引き込まれる。あまりにも突然のことに、アイリスの顔は硬直しながらも無我夢中でレオンに駆け寄った。


「ッ...レオン!!」


彼の身体を懸命に引っ張るが、びくともしない力で、すでに彼の上半身は鏡の中に入りかけていた。


「何これ...誰か...助けて......っお願い!誰か!!」


悲鳴を聞きつけて部屋に飛び込んできたアイリスの父と二人の兄たちは、目の前の惨状に絶句した。


「......っこれは」


急いでアイリスの兄のイーサンとセドリックがレオンの身体を掴んで引っ張り出す。アイリスの父、ブラム・アーサー・レイモンドは国随一の魔術師と謳われていた。そんな彼が魔法で鏡を粉砕した瞬間、レオンの身体は戻ってきたが意識はない。


「レオン!...レオン!...ねえ、目を開けて!」


「...大丈夫だ。気を失ってるだけだ」


イーサンが取り乱すアイリスを宥めたとき、ブラムが力任せにアイリスの髪を掴んで張り倒す。


「...痛っ...!」


何が起こったのか理解できず呆然と見上げる彼女にブラムは平手打ちした。


パンッ


乾いた音が響き渡った。イーサンが立ち上がり激昂した父を制止する。


「父上!おやめください!今はこの子の治療を...!」


セドリックが背負ったレオンの顔は青白く、腕や脚は糸が切れた人形のようにだらんとしている。そのまま兄たちは急いでレオンを連れて出て行った。


「レオン!!」


アイリスが後を追おうとすると、ブラムが扉の前に立ちはだかった。


「...っお父様!どいてください!レオンがっ......私...行かなきゃ」


なんとか行こうとするアイリスを片手で押し戻したブラムは、声を荒げた。


「お前など娘ではない!...今日を限りにお前は北の果てにある修道院へ行くのだ。二度と帰ってくるな」


冷たく言い放たれた言葉に、アイリスの頬には一筋の涙が伝った。そんなアイリスの絶望した顔を見もせずに、父は彼女を一人残したまま部屋を出た。


「......ど...して.........」


魔法は完璧だったはずだった。何度もこの隠し部屋に忍び込んでは、自分も亡き母の姿をあの鏡で見ていた。私を産んだときに死んでしまったお母さんの顔をあの鏡で見たときは本当に嬉しかった。同じようにお母さんを亡くしたレオンはずっと泣いてばかりで、なんとか彼のお母さんをあの鏡に写したくて、父や兄に隠れて書物を読み漁った。

ようやく成功したと思ったのにーーー、

また彼の笑顔が見たかっただけなのにーーー。


ズキズキと頬が痛んだ。あまりの衝撃に鼻血が出ているらしい、口の中は鉄の味がした。


「.........レオン...ごめんね......、ごめんなさい......」


その日、私は家を出た。あとから考えれば父の行動は仕方ないことだった。『死者の魂を喚ぶ魔法』は国が禁ずる禁術であり、使った者は一族諸共処刑される。あのままレイモンド家にいたら、私はもちろん、父も兄たちも処刑されていただろう。それだけの禁忌を、私は犯してしまったのだ。これは、私が受けるべき罰ーーー。


修道院に降りしきる雪のなかで、アイリスは吐く息が白く立ち上るのを眺めていた。凍える寒さの北の果て、修道女となった彼女は長い廊下を歩き出した。
















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