指摘するのはやめてください
涙にぬれているルビーさんに、私はハンカチを差し出した。
「ありがとうございます……」
ルビーさんは私のハンカチで涙をふくと、私をじっと見つめて言った。
「このハンカチ……。ルシェルさんの癒しの力がしみついてます。あの……もらってもいいですか?」
瞳をきらきらさせて、恥ずかしそうに頼んでくるルビーさん。
うっ……。
かわいいくて、まぶしすぎるわ。
それにしても、今までとのギャップがすごいわね。
懐かなかった猫がやっと懐いてくれたみたいで、きゅんとしてしまう。
「あ……、どうぞ、どうぞ……。使って、使って」
動揺しまくって、そう言った時、ルビーさんの手からハンカチが宙に浮いた。
ひらひらと部屋の中を飛びまわる私のハンカチ。
というか、ハンカチだったはずだけれど、今は、白い蝶に見える。
えっ、何がおきてるの……!?
と、思ったら、エリカ様があきれたように言った。
「ちょっと、ノーラン。あなた、いきなり何をしてるの? 手品師にでもなるつもり?」
あ、なるほど。
ノーラン様の仕業ね……。
みんなの視線がノーラン様にむいた。
「ルーハー、おいで!」
すると、私のハンカチ……じゃなくて、今や蝶みたいになったものは、ノーラン様の肩に舞い降りた。
「紹介するね。元はルシェのハンカチで、今さっき、ぼくの使い魔になったばかりのルーハーだよ。ルシェのルと、ハンカチのハからとって、ルーハーと名付けました。いいでしょ?」
満面の笑みで、自慢げに言うノーラン様。
いいでしょって言われてもね……。
私はルビーさんにハンカチを渡しただけなのに、なんで、そうなるの?
と、思ったら、ものすごい拍手が聞こえてきた。
もちろん、ミケランさんだ。
「さすが、ノーラン様! 他人の手の中にある物質を、一瞬で、使い魔に変えるなどすごいです!」
と、興奮して叫んでいる。
「すごいというよりひどいわね。だって、他人の持ち物を許可なく使い魔に変えるなんて、人としてどうかと思うわ」
と、ため息まじりに言ったエリカ様。
「エリカの言う通りだ! ノーラン、なにやってるんだ!?」
ロジャー様がすぐさまエリカ様に同意する。
「でも、ハンカチが蝶になるなんて素敵!」
と、無邪気な感想を述べるアリシアさん。
ざわざわと皆が思い思いのことを言うなか、驚くほど低い声が響いた。
「ルシェルさんのハンカチは私がもらったものです。返してください!」
え……? 今のルビーさんの声なの!?
びっくりして見ると、ルビーさんはノーラン様を鋭い視線で見据えている。
そんなルビーさんに、艶やかな笑みを浮かべたノーラン様。
「へええ……。ついさっきまで、ルシェに敵意むきだしだったのに、ちょっと、優しい言葉をかけられたくらいで、もう、絆されちゃったの? 何か仕掛けてくるかと思ったのに。簡単すぎて、つまんないんだけど?」
と、ルビーさんを煽るように言った偽エルフ。
へらへらした軽い口調だけれど毒がすごい……。
私は偽エルフにむっとした。
敵意だなんて、ひどいわ!
まあ、確かに、ルビーさんには、すこーしだけ、好かれていない感じはひしひしと感じていたけれど、わざわざ口にだして言うのはやめてよね。
他人に指摘されると、自分の好感度の無さに傷つくじゃない。